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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
九章 已己巳己の章
158/314

#05 謎の正義感に背中を押されるとか、やってないから

 



 永禄十二年(1569)十月二十六日






 なんかわかんないけど賄賂いっぱいもらっちゃった。るん。

 天彦がそんな夢を見ていると、


「おい寝坊助、起きんかっ! 貴様、いったい何をやっておる」

「ふぁ――!?」


 いや何をって普通にお眠……、激オコられ。あるいは激呆れられ。


 オルカ嬢を一旦預かった翌日の早朝、まだ朝五つの鐘も鳴らない時刻の起き抜けに天彦は急襲されていた。できる人の朝は早いと噂では訊いてしっていたが、どうやら信長公の朝も早いようであった。


 場所は金華山中腹の禅寺、そこに宛がわれた一室を私室にしている。つまり禅堂の控室。――あ。


「お前、まさかこの金品に目が眩んだわけではあるまいな」

「見られたん。これを見られたからにはもう信長さんには……」

「なんじゃ余裕か。やはり狐は狐、つまらんの」

「あ、はい」


 こっわ。


 どうやら信長公、天彦が金品に目が眩んでいた方が都合がよろしかったようである。これだから史実に名を連ねるような英雄さんは。

 天彦のぼやきも尤もであろう。これは信長の言外の意思表示である。

 天彦がどれだけ道をそれようともすべて修正してみせる。何を企んでいようともすべて逆用してみせるという自信の表れなのだから。


 だが天彦も悪い。あえて偽悪的に振舞って評判を下げようと目論んでいたのだから。

 魂胆としてはゴリ押ししてむちゃんこ叱られる心算だった。だがそれさえさせてもらえなかった。当たり前だが敵は手強い。

 薬事業の専売化は道理が立てやすかった。天彦の謎倫理観にも抵触しない。

 競争原理が働くと普通の感覚ではよりよくなって発展する。だがこの時代は競争原理が働くと改悪されることもしばしばであったのだ。特に品質面での劣化は目も当てられないほど。

 だからこの際、天彦は薬事業である小西隆佐に一肌脱ぐフリでオニ働かせようと画策したのだが見透かされていたようである。


「薬問屋の伴天連被れか。まあ手頃じゃの」

「身共は何も企んでませんのん」

「……もうそれ以上何も喋るな。小物臭くてかなわぬ」

「ひどっ」


 薬学も搦めればむしろ専売で一事業所を保護した方が賢い。いや手堅い。

 信長も同意見のようであった。さすノブやりおる。


 天彦が寝ぼけまなこで感心していると、


「取り分は折半じゃな。後で目録を寄越せ」

「は!? 信長さんでも笑えませんけど」

「なにを笑うことがある。その顔、さては貴様。いったいどういう了見をしておる。ならばすべて分捕るか」

「あ! 嘘です! 半分で儲かりましたん」

「で、あろう」


 天彦は秒で折り合いをつけてへこへこする。銭のためなら足だって舐められる系男子であった。……ぐぬううう。


「支度いたせ。参るぞ」

「へ、どこにですの」

「まだ寝ぼけておるな。貴様が娶った娘の義理親の葬儀ではないか」

「あ」


 娶ってはいないがそうしておいた方がお得かも。そう計算するのと同時に一瞬だが信長と葬儀の厭な相関関係が脳裏をかすめる。

 さすがに杞憂か。そんなことを思っていた数秒間が天彦にもありました。

 予期せぬ言葉を思いもよらぬ角度から食らい、ちんにいいのを食らったとき脳が縦に揺さぶられる感覚に見舞われてしまう。


「正室は許さぬぞ」

「う。誤解なん、義理あって預かっているだけなん」

「人質か」

「……じゃあそれで」

「で、あるか。うむ。当面はそれでよい。伴天連とは付かず離れずの距離を保つことが適切である。まあ貴様のことだ。存じておろうな」

「あ、はい」


 いっつも負ける。読み合いで負けるとか……、屈辱っ!


 一瞬脳裏で損得の算盤を弾くも秒で看破されて地味に凹む憐れな寝起きショタの図を展開しつつ、内心では冷や汗もの。

 というのも天彦にしては珍しくパフォーマンス以外の即ち本心の“あ、はい”であったのだ。それほどに信長の確固たる意志が伝わってきたのである。

 まるで12話「奇跡の価値は」みたく157話「正室は許さぬぞ」と鮮明なアイキャッチが幻視として見えてしまうほど信長の目ヂカラはえぐかった。


 だがこれで終われば多くの人は付いてこない。ここからが信長公の本領発揮であったのだ。

 彼は中庭に視線を向けてると何食わぬ顔でつぶやいた。


「百貫文でどうじゃ」

「へ」

「何を呆けておる。女子おなごの化粧料ではないか」

「はへ」


 すご。化粧ってそんなかかるんだ(棒)。

 天彦は内心ですっ呆けながらも信長の何食わぬ顔の気遣いに心をちょっとだけ揺さぶられる。ちょっとだけ。


「吝嗇なん」

「なにを」

「天下人のくせに百貫ぽっち吝嗇臭いん!」

「貴様、……ふむ。だが天下人か。お前はよくそれを口にするの」

「当り前ですやろ」

「ふはは、当たり前か。ふむ、だが余はまだ志半ば。ならば余が天下を取れるように最大限助力致すと受け取るが如何」

「もうしてるん」

「おい。どの口が申す」

「何ですのん。このお口に決まってますやん」

「今のところ余の手を煩わせているだけであろう。違うとは言わせぬぞ」

「ひどっ」


 まあ事実なのだが。経済政策然り、産業育成方針然り。天彦の方針と織田の方針とは相反する課題を多く抱えていた。極めつけは越後への肩入れ。信長にとってこの結果は想定外でありさぞや痛恨だったことだろう。故にすべて事実である。

 だが事実を事実として顕在化させると不都合しかない天彦は必死に知恵を振り絞って事実を歪曲させてこねくり回すのだ。これを世間では上司にしたくない第一のタイプという。


「三河紛争を解決したん!」

「越後を手が付けられぬほど巨大化させておいて抜け抜けとほざくか」

「あ、はい。でもでも。……!」

「ちっ、何か発見しおったな」

「はい。……もっと手が付けられへん存在を退場させましたけど」

「で、あるか」


 暗黙の合意の取り付けに成功。なのに天彦は萎れてしまった。

 信長も何かを察してこれ以上には言及してこない。

 いずれにしてもやはり甲斐は織田にとって一番の脅威であったのだ。尤も勝頼の退場はただの自爆だが。

 餞別に精々利用させてもらう。誤用ではない。天彦はギャン泣きするほど泣かされたのだ。代金はお釣りが出るほど支払っている。つまりこれはお釣りである。


 だが突っ込まれると襤褸が出そう。一旦この流れを断ち切るのが最善と、


「ほなちょっと失礼しますぅ」

「うむ。疾くいたせ。……二百貫、付けてやる」

「さすが天下さん、太っ腹にあらしゃりますな」

「抜かせ」


 オルカの化粧料、二百貫(24,000,000JPY)ゲット。


「だが仮にも伴天連の要人。公家が預かる方がまだ気休めにはなろうの」

「はい。お武家さんは興亡が激しいですから」

「で、あるか」


 謎に凹んでしまっているのでお小遣いゲットの嬉し味も半減だった。

 だが気を取り直して、一説によるとアイキャッチ演出の信頼度は53%くらいらしいので、そう身構えずともよいだろうと嘯いて天彦は用人任せで身支度を整える。なにせ天彦、朝は激よわ。ほとんど頭が回っていない。

 猶、戦国室町の午前七時は未来の現代の活動時間に置き換えて換算するなら午前十時相当である。知らんけど。だいたいあってる。陽が昇って沈むまでを活動時間帯とするのなら。


「はいお殿様、お手手上げてくださいだりん」

「今日はハズレの日か。お早うさんルカ」

「チビのくせに酷いことをさらっと言わないの。お早うございますだりん」

「おいコラ、ちびはアカンやろ。身共は殿様やぞおべっかせえ」

「ハズレもダメだりん。おべっか言うほどお給金貰ってないだりん。うちにも下さい二百貫」

「お、おう。ガンバリマス。……いやお前さん陪臣やろ」

男子おのこのくせに細かいことを。帯締めよし! うちら家来のために頑張れよちびっ子お殿様」

「おいて」


 愚痴はつぶやくが本気ではない。むしろ感謝の感情が大きい。

 なにせ救われているのだから。こうしてバカを言わせてくれて付き合ってくれて。さっきまでのくさくさしていた気分が一瞬で消し飛んでいる。


「はい出来ました。どうだりん」

「おおきにさん。男前に仕上がってるか」

「お殿様は求めすぎ。うちは神様じゃないだりん」

「あ」

「あ」


 あ……、デスヨネ。


「けれど助かりました」

「なにがや」

「ご存じだったのでしょう。西院の接収の件」

「知らんかったん」

「またまた。お殿様はすぐにご謙遜なされるだりん」


 事実である。将軍家に射干の本拠地である西院地区が接収された。

 偶然本体のほとんどを伊予に派遣していたので大きな衝突は避けられたのだ。

 実行したのは将軍の命を受けた惟任軍なのでやはり西園寺閥排除派(菊亭排除派)の明確な意思表示であると考えて間違いなさそう。

 他方、そうなると早くから察知していた東宮の身の上が気懸りだがさすがに僭越がすぎているか。


「また帰る場所を作ったらなアカンなぁ」

「お殿様の居る場所がうちらの居場所だりん」

「何が狙いや」

「正室の座」

「ははは、ウケるぅ」

「おいこら。うちが頑張って持ち上げてやったのに恩知らずだりん」

「お前さんこそおい待てコラッ!」


 ふざけ合いながらも凹まされるといういつもの日常演出を経て、いつの間にやら気心が知れてしまった用人ルカの指示に従い仕上げの着せ替え人形役に徹していると、パーティション越しに眼光鋭い目線と目が合う。


「天彦貴様、甲賀者を傍用人に付けておるのか」

「甲賀者……?」

「目線、呼吸、歩様、挙動のすべてがその女子おなごを忍びともうしておるではないか。よもや知らぬとは申させぬぞ」 


 え、お前って甲賀者なん……?


 の目でルカを見つめる。ルカは何でもないようにコクリと頷く。あ、そう。


「ああ、この者は元甲賀者の現射干の郎党におじゃります。ご挨拶致させましょかぁ」

「ふん要らぬわ。しかし射干か、なるほどのう。しかし射干、相変わらず胡乱よな」

「そうですか。身共にはわかりませんけど」

「滝川が愚痴っておったぞ。行く先々で邪魔を致すと」

「先に地均しをしてくださいましておおきにさんと礼を申しておったの間違いでは。違うならさすがに身共もむっとなります」

「で、あるか」


 こっわ。


 だがこの場合はお互い様か。天彦の不快感の表明も相手からすれば中々くるものがあるだろうから。

 だがそれはそれ。天彦は個人的に肝を冷やして本格的に目を覚ました。しかし一方では命までは脅かされない確かな手応えも感じていて、それは天彦にとってかなり大きな収穫だった。

 何しろ天彦、常に保険は打っている。特効薬も持っている。だがすべて心算。確かな手応えがたまに欲しい。今はそれを実感できていた。

 すべてはこういったとき後手を踏まされないため用に仕込んできたのだ。やはり何物にも代えがたい快感があった。


 信長公のよく使う手として勝手に怪しんで勝手に許しを与えて恩を売るというのがあって、命の貸しはかなり有効な札となって作用した。

 この場合も仮に天彦が直臣なら、射干党の解散あるいは解体を選択肢の本命にラインナップしなければならなかったことだろう。その程度には凄味のある脅し文句と余韻であった。


「攻略担当の滝川がぼやくほど、伊賀では三介が世話になっておるようじゃの」

「世話というか、親友ずっトモのために一肌脱ぐのは普通なん」

「……普通、じゃと。あの難攻不落の伊賀攻略の知恵を振り絞ることが普通だと申すのか」

「まあ、はい。茶筅さんのためなら。あれ、なんか可怪しいん?」


 すると、信長は天彦を凝視する。今回に限っては嘘偽りないので天彦も、はてなんやろと首を傾げて見つめ返す。

 そんな信長と天彦との微妙な食い違いのけっして短くない見つめ合いの時間が挟み込まれて、


「がははははは――! で、あるか」


 私室兼控室に大そう大きな笑い声が木霊した。――うおっ。

 天彦は唐突に上機嫌となった信長に抱っこされてしまう。こうなっては是非もなし。もう抵抗はしない。まったく以って無駄だから。


「三介を好いてくれるのはうぬだけである。余は喜ばしいとだけ申しておく」

「素直やないですね」

「ふん。では参るぞ」

「はい。楽しみです」


 極小の言葉で「市に連れて行ってやろう」と誘われてルンルン。

 但しルンルン彦は“お前さんら覚えておくん”の感情で、この状況を毎回易々と許す護衛担当家来たちには有りっ丈のジト目を向けるのであった。




 ◇




「あれが菊亭様ですのね」

「まあなんとお美しい」

「深い正当性に裏付けられた凛々しいお顔」


 敬い過ぎると弄っているみたいに聴こえんゾ!


 敬い……ですよね。でないと許しませんから。の感情で天彦が外野のノイズに耳を傾けているとようやく一段落。神父の長い聖句(聖書の朗読)が終わった。


「父と子と精霊の御名において、アーメン」


 信長公は確かな作法で十字を切っていた。やはり偉人は何事にも通じていて長けているのだと実感する。

 この時代、荼毘には付さない。つまり土葬。火葬が一般化したのはいつからなのか天彦の記憶にはないが江戸時代には火葬の記録があったそう。

 当り前だが人体の焼失にはかなりの温度が必要で、つまり技術を必要とする。

 よって火葬は技術が必要で何かにつけて秘伝秘伝と隠したがる文化下では広く伝わるには無理があった。


「パパ……!」


 喪服(法衣)のロリアバター、それも華奢で今にも溶けてしまいそうなほど白く透けた肌の女児が哀しみに暮れる図は控えめに言って涙を誘った。


「行ってやらんでいいのか」

「なんでですのん」

「男は弱っている女に肩を貸してやるものであるぞ」

「身共、撫肩なん」

「貴様……」


 天彦のレンジはかなり広い。だが選べるオプションはそう多くない。そういうこと。

 どういうことだか自分でもわかっていないが天彦は、けれど判断したのだ。ロジカルに、そしてシニカルに。

 だいいちここで寄り添ってしまうと刷り込みになってしまう。故にこの一見すると冷酷とも思える行動にはその実深い正当性があるのだと言外に主張する。


 天彦の場合とくに心を鬼にしていない辺りが逆にオニなのだが、天彦には正当性があるので無敵だった。逆に言うと正当性のないときは脆いのだが、精神論とは違って感情論では無敵であった。キノコは戻ってでも食べる派です。


 さて、では仮にオルカが沼ったとしよう。いやこの悪(好)条件なら高確度で沼るはず。すると精神的にかなり依存されてしまうだろう。

 と、仮定して。精神依存の善悪とは無関係にならば依存の責任を果たしていったい誰が取るのか。誰も取らない。そういうこと。


 言っておくが時代に関係なくカトリックは厳格な一夫一婦制である。

 側室だ第何夫人だ妾だ愛人だ何だと抜かしてみろ。かるかんよりまっしぐらに決まっていた。いっぺん死んでみる的に煉獄へと連れ去られてしまうだろう。ゆらゆらと手漕ぎの小舟に運ばれて。あるいはそのオールで物理的にどつき回されるまである。

 それは出来ない。天彦は痛いのは厭なくせに防御力には全振りしていない系男子なので。


 よって色恋が絡む公算が高い異性の救済には外国人でなくとも慎重さを求められた。あるいは自分で率先して警戒網を張っている。

 臆病とも取れるが臆病で丁度いい。なにせ時は戦国室町、法は権利を守ってくれない。

 よって天彦はセオリーではなく単純なロジックで冷たく突き放すという選択肢を取ったのだ。特に心を鬼にはせずに。

 最後まで面倒見切れないという観点など所詮建前、建付け、取って付けである。


 だって、


「……ピコ。来てくれたんだ。嬉しいわ」


 これがデレているならまだ救われた。だがそうではない。

 そっと花を献上して。


「お悔やみ申し上げます」

「ありがとう。パパもきっと祝福してくれると思うの。ピコと言う素晴らしい人とのこの出逢いを」


 へー、だといいですねー(棒)


 天彦は敢えてレスは返さずにそっとオルカの傍を後にした。


 好きとか嫌いとか、そういう路線の話ではない。天彦の耳にはちゃんと入っているのだ。オルカが天彦の情報入手に懸命なことを。主にロルテス経由で。

 あるいは菊亭とはどれほどの血統でどれほどの地位でどれほどの認知度でどれほどの資産を有しているのかを、使える手を駆使して頼れる伝手を総動員して仕入れていたらしい。

 また知り得た情報を天彦個人の為人と市井に広がる噂を交えて自分なりにも分析しているとのこと。その上で結論は出たらしい。たった一晩でゲットする価値ありと。つまり伴侶の最有力候補なのだと。


 天彦の血筋や地位的には外国基準や目線では準王族となるので、オルカの出した結論も強ち尤もらしくはある。

 何しろ彼らの認識ではいくらでも掘れば出る黄金の国ジパングの準王族なのだろうから。


 つまりオルカは想像の十倍タフで、百倍強かなロリキッズだったのである。

 それも地頭のいいちゃんと自分の頭で考えられる戦略家のロリキッズだったのである。


 うん。勤勉でお利巧さんですねー。とはならない。


 故に、


「おじ様、わたくしピコとご一緒したいですわ」

「オルカ様、殿はお忙しい御方ゆえご無理は申せませんぞ」

「まあ。わたくしの願い事でもですの」

「はい。その代わりに私がお聞きいたしましょう」

「む」

「お気持ちを秘密裏に、しばらくは控えられませ」

「なぜ、どうしてなの。わたくしが好意をよせているのよ」

「日ノ本とはそういうお国柄なのです」

「理解、できないわ」

「できずともなさいませ」

「……ですのね。ではそのように」

「ご立派です」


 ロルテスに預けるのが無難。昨夜彼には言って聞かせた。主張が激しいとお互いにとって悲劇が起こると。

 彼とて騎士団に身を置いていたほどの人物。ましてや史実の氏郷が張良・孔明をも凌ぐ逸材とまで評した傑物であれば理解は早い。すべてを承知した上でオルカの養育を引き受けてくれた。天彦の見立てでは好人物。きっと悪いようには育たない、はず。知らんけど。

 いずれにしてもオルカを育てる身分が足りないなんてことはないはずである。

 猶、オルカもやはり皇族でけれどこちらは政治的に表には出せない血筋とのこと。だからこそコスメ・デ・トーレスが後見人を務めて預かり隠していたのだろう。だがオルカは修道女ではない。そこから紐解けば簡単だった。


 お願いするん。


 さて、ロルテスに目線でオルカを頼んだと訴えてこの件はお仕舞い。

 尤もあの性格に気性であれば凸は逃れられないだろうけど。一旦はお仕舞い。

 天彦は魔王様に手を取られいちゃいちゃルンルンと城下町加納へと向かうのであった。


「参ろうか」

「はい」

「三介の五つの頃を思い出すな」

「身共の潜在値は高虎並みなん」

「ははは、それは善い。たんと食え」

「食べてますのん!」

「どれほどだ」

「ニ」

「足りん。十は食え」

「無理」

「で、あろうの」


 阿保かと言いたいがこれまぢです。この時代のお侍は普通に一食三合食う。

 猶、魔王様。地味に優しい。天彦と歩幅を合わせてくれています。


「明々後日あたり、三河守が参るらしい」

「うげ」

「心当たりがあるようじゃの」

「ありませんのん」

「だが彼方にはあるようじゃぞ。貴様に文句が言いたいのであろう。参議との謁見を切に願うと認めてきおったわ」

「まんじ」

「珍しく形無しじゃの。三介と共に応接致せ。越後が強大となってしまった今となっては織田にとって欠かせぬ盟友であるからの」


 嫌味えぐっ。強要催促だるっ。


「厭すぎるん。身共、三河守など鼻くそふんっの太政官参議ですけど!」

「抜かせ。何が鼻くそか。ならば詫びの銭で済ませるのじゃな。戦費と補償、一万や二万のはしたでは済まぬぞ。まあそれでも儂は一向に構わぬがな」

「あ、はい。全力で接待役を仰せつかりますん」

「で、あるか」


 痛っ――!


 デコピンを一発お見舞いされて叱られるの巻。まあしゃーない。これは妥当な叱られである。

 だが訂正。一ミリも優しくないですこのお人。鬼や。鬼がおるん……!


「なんじゃ」

「べつに」


 天彦はこれでもかと恨めしそうに信長を見上げるのだった。


「茶筅さんには」

「昨夜伝えた。やつのことじゃ、今日あたり参るであろう」

「なるほど」

「なんじゃ脂下がりおって。三介と一緒が嬉しいのか」

「べつに普通なん」

「ふっ。で、あるか」


 しかし改めて三介と饗応役。少しワクテカであるとかないとか。気づけば天彦の足取りがとても軽くなっていた。












最後までお読みくださいましてありがとうございます。

ブクマ・☆の高評価、誤字報告で応援してくださりたいへん励みになっております。


さて、いや雪って……。


桜がどうのと話していたのを聞いた気がするのですが。やっぱし世間で言われているとおりこの地域は異世界なん? 皆様のところはどうですか。こっちはなんか笑けるほど寒いです。

さて前話、普通に評価いただいておりました。謎です。ひょっとして弄られてます? だったらそれはそれでいいのですが、本当に大丈夫?知りませんよ?

 

ということなら、ヒロイン登場! 


わああああああぱちぱちぱちぱふぱふ♪


ということで当作品にも百万字を超えてようやく遂にスーパー正統派ヒロインが登場いたしまし、た……?

皆さまが承認したのです。オルカ嬢、責任を持って温かく迎え入れてあげてください。知らんけど。ほんまに知りませんからね?とか。今後ともよろしくお願いいたします┌○ペコリ


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