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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
九章 已己巳己の章
157/314

#04 完璧主義、あるいは不完全を嫌悪する感情とか

 



 永禄十二年(1569)十月二十五日






 信長は尾張の国主(守護)ではない。尾張守護は斯波であり、その斯波に仕えて尾張の統治を任されていたのが守護代である清洲織田氏と岩倉織田氏である。

 信長の弾正忠家はその更に下位の奉行家。頂点の帝からすると家来(将軍家)の家来(斯波家)の家来(清州織田家・岩倉織田家)の家来(織田弾正忠家)ということになる(陪陪陪臣)。


 しかも実家の家督相続すら満足に行えず、結果同母の実弟との仲を引き裂かれるという悲運に見舞われている。

 だが彼は誰もが恐れ一目置く置かざるを得ない存在にまで上り詰めた。

 朝廷は顔色を窺い位打ちを疑うほどの官位を勧め、将軍家は天下の副将軍職までお膳立てをしてご機嫌を窺うまでに隆盛した。


 これら事実だけでも信長公が如何に下克上を果たしたかがお分かりいただけるかと思う。

 だがいい点ばかりではない。やはり出自の卑しさはネックとなった。この時代は究極の血統主義、延いては権威主義社会なのである。単純な話、出自が偉い(尊い)というだけで大儀名分となるほどに。未来の現代にも脈々と繋がる日本民族の大好物、parent‘s・seven・light(笑)なのである。


 つまりこの下位レイヤーからの這い上がりこそが寺社界から魔王と忌み嫌われる一端でもあった。彼ら神仏の代理人または代弁者こそが権威主義の伝道者であり権威の庇護者だったのだ。知らんけど。正しくなくとも間違ってはいない(キリッ)。

 猶、信長の境遇と似通っているのが三好氏であり毛利氏である。不遇な人質生活でお馴染みの徳川(松平家)でさえ信長よりもレイヤーは高かったとされている。

 いずれにしても戦国室町に名立たる他の有名大名は元から偉かったり大きかったりと信長より断然好条件だったのである。


 このことからも信長が如何に偉大な成功者であったかがわかる。


 因みに天彦がなぜ信長に飛び切り寵愛を受けているかというとこれも下克上と関連していると思われる。そう。

 天彦は他の公卿が隠しても隠し切れない出自に対する天然マウントを一切一ミリも取らないからであった。取らないどころか匂わせもしない。

 何しろ自覚が一ミクロンもないのだから当然っちゃあ当然なのだが、少なくとも天彦はそう分析していて、事実として信長公も直に“狐、お前は威張らぬから愛い”と公言しているくらいである。


 まだ漢として張り合うレベルにないという事実を差し引いても、根本の魂の部分で天彦と信長とは相通じる部分が多かったのだ。感性が似ているでも同義である。だからこそ貴重な人材として“ずっラブ”を宣言できるのであるのだが。


 つまり何が言いたいのかと言うと、即ち身分の低さ卑しさは信長公の劣等感に抵触する禁ワード。それ地雷だからやめて?である。


 なのに、


「参議閣下、こう申しては何ですがやはり田舎尾張の三下侍に経済の本質は見えておりませぬ。あ、いや。これは織田様を貶しているのではございません。下々は木を見て森を見られぬ道理の話でございます。ですのでやはりここは雅の最たる菊亭様のお力添えを賜りたく、当唐物屋、遠路遥々罷り越した所存にございまする」


 小西隆佐は信長の逆鱗を自ら踏みに行こうとする。天彦を巻き添えにして。

 つまりこの唐物薬種問屋の主人は天彦に朝廷と掛け合い南蛮貿易を再開させろ。そして織田(吉田屋)と掛け合い何らかの取引を独占させろと嘆願wしにきたという寸法であった。


 丁寧だから敬っているとは限らない。またその逆に敬語ではないから尊敬していないとも限らないのと同様に。

 天彦の目の前の人物は果たしてどちらか。判断材料として目の前に如何にも重厚そうな箱いっぱいに詰め込んだお宝がでんと三つ、どうやといわんばかりに置かれている。


「お納めくださいませ」

「……」

「お近づきの御印です。お気兼ねなど無用にございます」

「ちょっと待つん」

「はい。おいくらでもお待ちいたしましょ」


 眩い光がチラ見えするその箱の中身だが、どうぞとだけ告げられ預け渡された目録には、緋の合羽・緋のカバヤ上着・虎皮の腰巻・虎皮のマント・ビロードの頭巾・豪華な鳥の羽で装飾された帽子・ガラサ聖母の彫られたメダル・紅色の朱珍の織物・コルドバの茶葉・砂時計・日時計・精緻な銀細工の燭台・羊の皮・海獺の着物・ガラス製品たくさん……、と認めてあり、なるほどそれら逸品がたしかにある。


 なにせこれ見よがしにその蓋がおっぴろげられ陳列されているのだから。公にお近づきの印、あるいは献上の品として。


 さてどうしたものか。


 いい。むちゃんこいい。欲しいものだらけ。目録には天彦が欲しいものリストを作ったらこうなるといったラインナップが書き記してあった。しかもご丁寧にキッズサイズにちゃんと仕立ててある。


 もはや天彦の一本釣りは明らかで疑いようもないだろう。

 成果報酬でないなら欲しい。普通に。倫理的に賄賂ダメだとかいうそこはかとなく感じてしまう罪悪感にも“そんな規則あったっけ?的なすっ呆けでちゃんと目も瞑れるし。だって口利きなんてしないから。


 おそらくだがこれには大いなる誤解が関係していると思われた。

 というのも勘違いされがちな市井の風聞に、織田は菊亭に甘いというのがある。

 なにやら訊けば菊亭天彦は織田の娘婿になるらしく、二の姫を室に迎え入れるそうな。つまり織田の一門衆に列席されるとのことらしい。

 これで勘違い方程式の式は書けたはずである。そういうこと。織田の身贔屓はすでに広く知られていて、中でも寵愛著しい天彦であればかなりの口利きが可能であるはず。ははは、ウケるぅ。

 だが笑けているのは天彦だけで、その他多くのは人々にはその貴賤に関わらず広く信じられているもはや事実であったのだ。なにせ菊亭家中でさえまぢに信じている者が居るくらいなのだから。噂の根はそうとうに深い。不快なだけに。


 とか。実は噂の出所が魔王自身であっても驚かない天彦だが、故にこの唐物薬種問屋の主人も勘違いして嘆願に参ったのだろうと一抹の嬉し味を振り払い毅然とする。お宝を前に半泣きになりながら。

 何しろ菊亭の財政健全化、規律化は菊亭家中に限らず多くの人に望まれる大命題なのだから。


 だってそれは訊けない相談だった。何しろ織田領内にはこれぞ魔王様の思想の根幹ともいうべき織田の絶対則が掲げられているのだから。


 加納(岐阜城下町)には高札たかふだが掲げてあり、


 一、加納の市に来る商人の往来を妨げてはならぬ。屋敷地や家屋ごとの諸税は免除といたす。

 一、市の場所の独占並びに座の特権は全く認めぬ。何人も自由売買といたす。

 一、市で問題起きたる由も織田家中の者が介入してはならない。あらゆる係争は奉行所を通すべし。


 猶、禁を破りたる如何なる者も晒し首といたす。


 と、現に宣告されているのであった。


 魔王様が例外はないと明言しているのだ。万一帝が禁を破っても罰される。

 少なくとも天彦はそう理解しているし世界はそう認識しているはずである。


 なのにこのお人さんは……、アホなん? 


 だがあの超お利巧さんな藤吉郎が堺の代官にまで抜擢した人物であれば有為の人材に違いなく、同時に代官に抜擢された小西の同僚となった佐吉のバージョンアダルトアバターも彼の有能さを認めていたとかいないとか。

 何も信用できないが佐吉だけは絶対的に信用できてしまう天彦としては、やはり勘繰ってしまうのだ。これ擬態と違いますのん、と。


 擬態でないならないで、今度は一転して逆説的にだが思わず率直で素朴な興味を抱いてしまうのである。狙いは那辺にあるの?……と。どちらにしても強く引き寄せられてしまう。

 それほどに小西隆佐は役者であり、だからこそ天彦の気を引くことには成功していた。

 普通なら秒で“バイバイお帰りは彼方なん”なところ、会話の継続に成功しているのだから。


「何やらあんたさん、ガスパル・ヴィレラ司祭に洗礼してもろたとか」

「はい。ジョウチンという法名も頂戴いたしております。もしや参議閣下も」

「身共は洗礼を受けておじゃりません。そして今後も一切受ける心算はおじゃりません」

「神の愛を拒絶なさり仏を破壊なさるあなた様はいったい何を御目指しなされますのやら」

「あははは、そんなもん決まっているにあらしゃいせんかぁ。身共は常に帝の御意思がただひたすら世に広まることを願うだけの矮小な存在におじゃりますぅ」

「……やはり小なりとは申せ、お公家様はお公家様。煮ても焼いても食えませぬな」

「ふふ、そういうお前さんは修羅の道をお進みになられますのんか」

「デウスの記される道標が修羅道と申されますのか」

「そう申したん」

「……御金言、確と心に刻み込みまする」

「そないし」

「くっ」


 庶人にしては比較的体格のいい大人が、同世代でもかなり小さく虚弱な子供に凄まれ完全に飲まれていた。

 尤も天彦の妙な気迫はあの藤吉郎でさえ竦み怯ませてしまうので可怪しな話でもないのかもしれないけれど。

 いずれにしても天彦の雰囲気が豹変してしまってからというもの、謁見の場には緊迫の度合いが高まっていて、そんな中を天彦の手慰みに弾く扇子のぱちぱち音だけが小さく重く響くのである。効果としてはかなり効いた。


 ぱちん――。


 思い立ったのか天彦は扇子を一つ高らかに打ち鳴らすと、


「よし。隆佐、この貢物、思惑ごと身共が引き取ったろ」

「あ、え」

「何をびっくりしたはるんや。お前さんが差し出したんと違うのんか」

「あ、いや、それは、そうなのですが……」


 天彦は立ち上がり、参るん。


 高らかと宣言しその掲げられている高札とやらを直に目にするべく加納の町に降りるのであった。


「この橋渡るべからずの巻」


 と、周囲にはまるで伝わらない謎の自信を覗かせて。




 ◇




 加納にたどり着いた頃にはすっかり陽も沈み夜だった。

 正確には読めないが暮六つの鐘はすっかり鳴って久しい頃、天彦は家来の主だった者を引き連れ件の立て看板の前にやって来ていた。


 むろん天彦とて阿呆ではない。いや阿呆だがそこまでの阿呆ではないという意味での阿呆ではなない。つまり端を渡らなければいいじゃない的な頓智で乗り切れるとは考えていないという意味での常識くらいは心得ている。

 何よりそんなことで一本取ったところで。というのもある。

 何しろ魔王様、実際にその手の坊主の詭弁や手品師の奇妙奇天烈な言動を逆手にとってなぶり殺しにしてきた実績多数の危険極まりない理論的頭脳派さんなのである。


「なるほど。なーるほど」


 たしかに高札には書いてある。織田家の者が争いに介入してはならないと。


「身共、織田家の者と違うし」



 あ……!



 全員がフリーズした。まさかとは思ったがまさか。

 それで押し切る心算ではありませんよねの感情で、その場の全員がまるで浄瑠璃人形のように表情の色を失くす。ややあって浄瑠璃人形の方がまだスムーズだろう人としては完全に不自然な動きで挙動してどうにか天彦と向き合った。


「おいコラ、滅ぶぞ」

「若とのさん、それは酷いです」

「殿、我らが不甲斐ないばかりに」

「ご不憫な」

「銭がないは首がないも同然とはよくぞ申したもの」

「あれほどの才気あるお方が狂われるか」

「我らも腹を括らねばな」

「あの天彦が? あは、そんなわけないじゃん」


 と、イツメンたちが各々コメントを残し、


「わし案外強かったの」

「強いし。わしの方が強いし。てかこれうっっっま! びびるど食うてみ」

「いいやわしじゃ。お前転んだじゃろ。どれ、美味あぁあああああああ!」

「そじゃろ。でも夜叉丸、お前ちょっと五月蠅いぞ」

「あ、すいません騒がせてしもて。おい市松よ、わしの顎ちゃんと付いとるか」

「おう付いとるぞ。わしは?」

「ついとる」


 そこのキッズたちは黙ってぱくぱくしとこうか。

 てか何で付いてきてるん……? あとで氏郷シバく?


「え、なにするんじゃ! 離せっこら、わっわぁああああ」


 天彦の感情が伝わったのだろう。どこかへ連れ去れていった。


 さて、何度でも言う。天彦とて阿呆ではない。阿呆だが常識を踏まえないタイプの阿呆ではない。つまりDQN的阿呆ではない。

 ふざけているのだって大真面目に計画的にふざけているだけであって、不完全な美しさにロマンを感じているだけである。とか。

 言い換えるならふざけることで自分と世界との間に境界線を描いているのだ。領域展開――! 的な舞台条件として。あるいは煙の髭的な掴みとして。知らんけど。


「イタリア料理は無駄の美学なん!」



 …………。



 すべての理解不能を道連れにして、あるいはロイ・マスタングくらい命の炎を燃やしてやれと嘯いて天彦はイツメンたちでさえ置き去りにして、自分の世界観を自由に描いた。

 思考を止めるな。生きることを諦めるなと彼は言ったから。発言が一々格好よく一々クリエイティブなのだけは癪に障るが大好きです。の感情で。

 そして同時に天彦は未来の現代の令和、のび太くんみたいな眼鏡の人多すぎどないしたん?の感情も添えてそっと言う。どのくらいそっとかと言うと半角カタカナ表記くらいのそっと感で、


「本当に許してほしいと思っているん」


 口調としては冷酷な社会への細やかなる反逆精神を思わすやや冷淡でキリっとした口調で、そっとつぶやくのであった。


 まさかではない他力本願匂わせに、家来たちはそうでもないが小西隆佐だけは引いていた。それも果てしなく底が見えないドン引き具合の表情で。あるいは絶望さえ生温い感情を覗かせて。むろん試したことを死ぬほど後悔しているのだろう。やはりお試しは相手をみないととても危険。


「小魔王……」


 何気なくおそらくきっと悪意もなく。本当に本心からそっとつぶやかれたこの言葉がこれからの天彦の新たな代名詞となるとかならないとか。


 と、そこに胴丸だけをつけたちょっと面白い恰好の縦は驚くほどではないが厚みがエグい黒眼灰髪のローマン人が唐突に姿を見せて近寄ってきた。

 ジョバンニ・ロルテスの出現に、まだ慣れていないのか天彦の護衛担当がすわ何事かと警戒態勢に入ってしまう程度には浅いそんな間柄の主従はけれど、二人だけの世界をすでにしっかりと形成していたのである。物理的な語学の壁も利用して。


 会話はすべて俗ラテン語である。


「殿、よろしいですか」

「ええさんよ。どないした」

「はい。つい先ほど、コスメ・デ・トーレス神父、神の御許に旅立たれてございます」

「……お悔やみ申し上げるん。参ったらんでええのんか」

「お許しくださるなら何卒」

「参り」

「有難き幸せ。ではしばらくお暇を頂戴いたします」

「そうしい。身共からも弔辞と御花を送らせてもらうん」

「そうしていただけますと故人もきっと喜ぶでしょう」


 一つの時代が幕を閉じた。


 天彦は特に思い入れがあるわけではない。だが何事も先駆者苦労は心得ているつもり。ましてや極東とさえ言われる蛮地の異世界で異教とされるキリスト教の布教に尽力したのだ。そのしんどさたるや想像に難くない。


 天彦は心から冥福を祈りそっと黙祷を捧げるのであった。


 たっぷり数分、様々な思い出込みで故人の栄誉を称えつつ黙祷を捧げていると、この世界ではあまり経験のない感覚に見舞われる。つまり肩ちょん。

 肩トンでもいいのだがニュアンス的にはやはりちょん。いずれにしても天彦は肩をちょこんと叩かれる感覚で現実世界に引き戻された。


 目を開けるとそこには実に心苦しそうなそして申し訳なさそうなロルテスの姿があった。だた肩のちょんちょんはそんな武骨な感覚ではけっしてなかった。もっとこう繊細でしなやかな感触だった。

 そう例えば今、目の前にいるお人形さんのような美姫の指がそっと触れたような……。


「……って、おい。普通にまぢでビビるんやが。ロルテス、これなんなん」

「先生の言葉には逆らえずましてや遺言ともなると猶更に。ですので殿にこうしてお願いに上がった次第にございます」


 WHY……?


 先生という言葉がギャグにまで成り下がった未来の現代とは違ってこの世界線での先生とは字義通りの先生であり、恩師と意訳しても同義であろう。むしろこちらか。いずれにしても天彦はそのキッズを見つめて固まった。


 あまりにも金髪碧眼の美顔がフランスお人形さん過ぎるンゴ、と。


 但しこの世界線ではまったく受けない顔である。世界線とはむろん戦国室町時代の日ノ本のこと。なぜならマインドセットが効きすぎてこの美しさが流行の真逆を行っているから。多様性など言葉自体がまったく一ミリだって存在していない世界線での話である。


 天彦はふと思う。

 あるいはばちがあたったのかも。そんなありもしない因果の収束を勘繰ってしまうほど論理的な理解を脳が拒絶するのであった。

 思いあたる節なら山盛りあるし。例えば磯良の婿取りを面倒がって先送りにしているからとか。例えば今後必ず有力武将になるだろう又左衛門の凸を扱いがめんどいからと嫌がって避けているとか。

 近々では例えば半兵衛の不敬を藤吉郎に日和って不問にしてしまったこととか。細かく拾えば他にもたくさん。


 ともかく積み重ねてきた怠慢がそんなばちをあてさせたのだ。いや当たったのかもと無意識にドールのような美姫に魅入った。唇に“ラッキー”の文字をなぞらせながら。

 そう。天彦は大のヌイ好きであった。ヌイなら何でも好きなので、そこに生命が吹き込まれているだとかいないだとか。そんな些事は問題としない。

 天彦はヌイにこそ完全性を感じていて、あるいは……何と言ったところで言い訳になるし事実言い訳だしなと思考を切った。


「……」


 ただ無心でそのヴィヴィットでソリッドな金髪にやや隠れている、吸い込まれるのとは真逆なけっして人と混じらず慣れ合わないだろう青より青い碧眼に吸い込まれるのであった。まるで自分がイケカテにいるとでも勘違いして。


「お前、本当に気持ち悪いわ」

「お」


 そして当然の妥当性しかない拒絶の言葉を頂戴して現実世界に引き戻されるのであった。ものっそハズいん。


 会話はすべて俗ラテン語である。


「オルカ・ジュリオ・デ・トーレスよ。あなたがパパの言っていたキクテイ?」

「うん。身共が菊亭家の当主、天彦なん」

「そ。おチビちゃん、よろしくしてあげるわ」

「よろしゅうに。天彦と呼ぶ栄誉をやろ」

「Yorosyuuni。quid est?」

「Id est salvevos noscere」

「ふーんへんな言葉。……で、アマヒコ。私にいつまでこうさせておく心算かしら」

「……」



 よゆー。余裕やし。余裕に決まってるん。余裕のはずなん。……余裕とは。



 ぜんぜん余裕のない素振りで嘯くも次第に雲行きが怪しくなって馬脚を現す強がり嘘つきキッズは、けれど感情だけは真摯に向き合い苛立ち交じりで差し出すオルカの右手の甲を見つめてぷるぷると震えるのだった。まさに悶絶という言葉を全身で体現させて。


 が、


「ふん、一応他の無礼者どもとは違ってちゃんと礼儀だけは備えているようね」

「仮にも貴種やからな」

「そう。変な意味じゃないのよ。一つ訊ねてもいいかしら」

「どうぞ」

「アマヒコ、あなたは偉いの?」

「まあ位だけならこの国でも十指には入るん。血筋の家格なら皇家を除いて七番目かな。ヨーロッパでの侯爵相当級マルキオクラスらしいしな」

「そう、マルキオなのね。……なら、よろしくお願いするわ。アマヒコ私を守ってね。パパは、……もういないの」


 天彦はこの瞬間、ルサンチマンめいた感情のすべてを吹き飛ばしていた。むろん嗜好性の高いドール視点も失せている。

 ただのロリ。ただのキッズ。ただのガキ。目の前の気丈なリトルレディはただの強がりな女子であると正しく認識するのであった。


 と、なると、


「おいコラ菊亭、何見とねん。いや無理やぞ」

「さす茶々、お見事」

「やかましいわ! アカンもんはアカン。無理なもんは無理や」

「ん? 茶々丸に無理とかあったっけ」

「おい待てしばく」

「しゃーないいここはシバかれとこ」

「……いやしばかん。絶対に指一本触れんからなっ!」

「あらまた鋭い」

「やかましい。お前の手口などお見通しじゃ! 儂にこのへんてこなん押し付ける口実にするやろ」


 バレたか。


 いったいどんな勝負を繰り広げているのか。

 いずれにしても天彦はロリの面倒などひたすらめんどい彦なのであった。











最後までお読みくださいましてありがとうございます。


男子を攻略するアルゴリズムが知りたくて、つい。あ、はい。

反応見て不評なら一秒で消しますごめんなさい。

次話は反応次第になるので数日お休みかな。では皆さまごきげんようさようなら。


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