#10 高等遊民のつもりが単なる牧畜だった件
永禄十二年(1569)七月二十三日
惟任日向守一行の後ろ姿が烏丸通四辻の闇に溶け込んでいった。
最後まで見送るため見届けていた訳ではないのだろうが、結果的にそんな見た目になってしまっている天彦に声をかける者はいなかった。
側近含めて郎党の誰もが雄弁な沈黙を守っていた。あるいは天彦を知る側近だからこそ中々どうしてその一声に勇気がいるのかもしれない。
一たびこのモードに入ってしまった天彦に言葉をかけるのはしんどいのだ。何の脈略もなく唐突に可怪しな役割り振り充てられてしまう公算が高いから。
それを証拠に目さえ逸らしている者もいる。不自然さが際立たないように身体をそっと斜めに向けて。そういう姑息な態度ほど往々にしてバレるのだが。
「是知」
「うへ」
「なんや、その可愛らしいお返事は」
「はっ。殿の一の家来、かわいらしい是知はここに居りまする!」
「うんそれでええ。惟任家に暑中見舞いを送ってくれるか」
「……と、申されますと」
「そのままの意味や。何か暑気払いになるもんでも送ってくれたらええさん」
「はい。それでしたらお安い御用です」
「その際に付け届けて欲しい文がある」
「はっ、何と認めますれば」
「おいで」
是知はデスヨネ顔で応じ耳を寄せる。むろん背筋をしゃんと恐々としながら。
「このように。ごにょごにょごにょ」
「うへ」
是知は天彦の追伸を聞き届けた途端、本日二度目の心中からの“うへ”と呻いて凛々しい美顔をこれでもかとブス顔に曇らせるのだった。
と、
「なにその面白そうなひそひそ話。小耳に挟んだんだけど文のことなら菊亭祐筆筆頭官たる私を通してくれないと困るかな」
「なんや算砂その役職は。家中を乱す火種になりかねん。勝手に作るな」
「承認はされているけど。だよね」
天彦はまさかと思い算砂に“だよね”と振られた諸太夫たちを見渡すと、
「お前さんら……」
どうやら事実であるようだった。買収か、買収なんか。ぐぬうぅぅ。
天彦は勝手な憶測で怒りに震えるがそれは違う。文官諸太夫たちは至極妥当な判断を下していた。
何しろ算砂、天彦の学友であり親友であり、何なら実益や茶々丸とも互角以上に渡り合える素質があり、何よりあの魔王に認められ直々に家来になれと乞われるほどの逸材である。これら事実だけを積み上げれば自然と座る席は決まる。そういうこと。
「ね。ということで困るんだ。職責を全うさせてくれなきゃね」
「お黙りさん。これは身共の案件や」
社長マターである以上は正論である。だが全方位に敵とまでは言わないにしても明らかな不満を生じさせる暴言でもあった。
何しろ菊亭の郎党は天彦案件であればあるほど絡みたくて仕方がない愚か者どもばかりの集まりなのだ。おまけに彼ら、黙って引き下がる気性でもない。
「ふーん。でもやだよ。混ぜてくれなきゃ手酷く困らせてやるから」
「おい!」
が、すると、
「某も算砂殿に同意にござる。混ぜて頂けぬのなら腹を召しまする」
「腹は召さぬが不愉快だな、拙者も混ぜて頂こう」
「殿、淋しくござる」
イツメンたちが算砂に合力。
且元、高虎、氏郷といった側近青侍衆の三人が一切引かぬ気合で迫れば、
「これ殿をそう困らせるものではない。各々方がまだ心底から信用されていないという証左。某も含め精進いたせばよろしかろう。業腹なれど致し方なし」
上手く緩和しつつ善き落としどころに落着させるまではよかった。
だが言った与六自らが明らかな不機嫌顔では締まるものも締まらない。方向性が違うだけで要するにお強請り、いや言葉を選ばないのなら脅迫である。
天彦も言葉が示す方向性と感情が表す性質を正しく理解していた。
だがこうなってしまったのも自分のせい。天彦が越後にて誰に相談することなく勝手に決断し家来たちを不安のドン底に突き落としてしまったから。
結果は功を奏したがだから善しとはけっしてならない。結果は手段を正当化できるのか。できない。この場合は否の好例であろう。
そうでなくとも事あるごとに相談もせず死地に飛び込む天彦が悪い。武士の面目を潰してきた天彦のせい。
彼らの主君を主君とも思わぬ強硬な反応は天彦のその独善的結果が招いた帰結である。天彦は彼らの態度をそう正しく理解していた。
ぐぬぅぅぅDQNめ。
結果DQN。与六であっても例外なく。その事実に気づかされ、天彦は頭を抱えた。
それでは納得できず大げさに天を仰ぎ頭を抱えた。それでも飽き足らず人目を憚ることなく膝を折って頭を抱えた。ぬおぉぉぉ。ちゃんと効果音も付けて頭を抱えた。
それこそ銭がないときと同じくらい凹んで、出仕しなければならない日の寝起きくらいローテンションで苦悩した。
わかった気になっていた自分の愚かしさに気づいたから。
与六も。且元も氏郷も高虎は知っていたけれど、もれなく全員武士なのだ。ルビはむろん平仮名の方の。間違っても桃色四葉推しのカタカナモノノフではないと痛感した。何ならそんなノリだった。
近すぎたばっかりの過信である。家臣だけに。ゆーてる場合か。身共のあほ!
天彦は再認識する。
自分の中の正義感に背を押され決断してきた結果がこのザマである。
自分の決断には口を挟まれ、他方家来の決断に下手に口を挟もうものなら、お仕舞いです。戦国時代は可能性に満ちている分だけ誰も彼もが歪んでいた。
なんこの理不尽は……。
現実に打ちひしがれそっと立ち上がりとぼとぼ歩く。脳内伴奏はむろん定番のアレ。よく晴れた昼下がりではないだけで心境は子牛ととてもよく似ていた。
そしてこっそりと背中越しに、
「有能な敵より無能な味方が災いとなる。この通説はたった今この場で覆されたん」
ナポレオン批判は対象がデカすぎるのでけっして違うと前置きして。
小心者の小物さんは一見すると有能すぎる味方への指摘として急所を捉えていそうで、その実は単なる子供じみた負け惜しみマンキンの強がりをつぶやくのだった。
◇
帰路、宵山の喧騒を背中に烏丸通(朱雀大路)を五条目指して進んでいると前方から路面を蹴る馬蹄音が聞こえてくる。遅れて砂塵が目についた。
菊亭一行が足を止めて状況を覗っていると、
「如何した」
前方警戒の一騎が勢い駆け込んできた。菊亭一行は進行を止めて状況報告をじっと覗う。応接は左衛門大尉氏郷。本日の持ち回り護衛主任である。
「はっ。前方五条通四筋先に人だかりができております。町奉行も駆けつけておりますればよもや間違いはなかろうかと思われますが念のためご報告に上がった次第にて!」
「相分かった。ご苦労」
若武者は誇らしそうに胸を張ると、御免と叫んでまた警戒場所に舞い戻った。
氏郷が部下からの報告を聞き届け、耳にしていただろう天彦にどうするかと視線で問う。問題ない。天彦はそのまま直進すると告げてレンタルポニーの腹を蹴った。
烏丸通(朱雀大路)五条を陣屋へ向かって東へ。隘路を挟んで程なくすると問題の場所に差し掛かる。確かにかなりの人だかりができていた。
さすがに本拠陣屋の二筋先。庭のような場所での事件。放置もできないと意気込む家来たちの熱量に気圧されて、天彦は探って参れと側近の誰と指定せずに指示を下す。どこか浮いた声で。やはり男子。面白さには抗えない。
「申し上げます」
「うん」
ややあって舞い戻った佐吉曰く、殺しがあったという。それも身分のあるらしい三名もの男の惨殺体が上がったとのこと。
特に際立つ犯罪でもない。数も手口も。しかも下手人はすでに御用済みとのことならば猶のことならばなぜこうも人だかりができているのか。
実に不可思議な状況に天彦は若干ではない怪訝を脳裏に浮かべながらも、小さな身体は強行軍に耐えられず即刻の休息をせがんでいた。ならば用無しの判断を下し、レンタルポニーの腹を蹴ろうとしたそのとき、
「おい、どうやら下手人、姫辻君らしいってよ」
「ほんまかいな」
「あちゃあ千文の姫さんか。それは惜しい」
「姫ちゃん、嘘やん。明日やっとこさのご対戦やったのに」
「なんやお前もか。儂もや」
野郎どもが頻りに惜しがる。女衆の白い目を物ともせずに。
令和はどうかわからないが、この室町戦国において己の遊興費欲しさに辻君(夜鷹)に身を窶す女はいない。ほとんどすべてが家族の事情か連れ添いのため。というのもこの京都では奴隷奉公が禁じられていた。これも惟任の大殊勲の一つであり、天彦が惟任を無条件に排除できない理由の一つでもあった。
それはそれとして、いずれの理由であっても天彦は情の深い感心な心掛けだと断言する。立派かどうかは意見のわかれるところだと前提とした上で、むしろ崇高だとさえ称えてみせて感心もする。
家族への献身は語るまでもなく、自らを犠牲に穢してでも尽くせる異性に出会うなどもはや人生の優勝ではないかと。皮肉ではなく本心から。
天彦の耳にはそんな天彦の考えを肯定する風な野次馬の声が聞こえたのだ。
千文即ち二両五分相当(一両=4,000文)。一度の対戦で金貨二枚以上もの大金を稼ぐ夜鷹はまずいない。きちんとした箱屋でも滅多と見ない格である。
天彦が率直に感心していると、すると、タンデムのお人が急にそわそわし始めた。
むろん正義感などではないだろう。天彦と同等かあるいはそれ以上の天邪鬼なお人ゆえに。よって彼の価値観に沿った単純にして純粋な興味が湧いた感情の発露だと思われる。
その彼が同僚に問いかける。
「おい佐吉、何やら訳ありそうやけどどないなんや」
「植田殿、某もそう思う。夜鷹の分際で姫と称されるほどの器量なれば非力に相違なく、三人の男を惨殺するなどどだい無理な相談にござる」
「そうや! ね、若とのさん」
唐突に背後から急っ突かれ、
「何がやお雪ちゃん」
「何がって承知したはりますやろ」
「知らんよ」
「嘘ばっかし。落ちぶれ公家さんに決まってますやろ」
「そういうとこだけ鼻が利いて困ったお人さんや。だからこそ関わり合いになりとうないんやろ。これ以上手を広げてどないするんや」
「前置きはもうよろしいやん。どうせ介入しはるのに」
「おい」
「善い人キャンペーン中の菊亭がこれだけ世間の注目を引く話題にお顔突っ込まんはずがありませんから」
「今更やない?」
「大丈夫です! 某が請け負いますよって」
「いやどの立場で!」
「そら大楽の立場ですやん」
大楽ってそんな立場やないのに。
だがタンデムからの世界一頼りない安請け合いに煽られに急かされて、
「はぁ……。まあたしかに佐吉のゆうとおりさんやと思うしな」
「ほな」
「参ろうか」
「はい!」
天彦は大きなお世話の押し売りに向かうのだった。
◇
出発時よりも三名多く武家の主従と元公家の美姫を連れ帰った菊亭一行が本拠陣屋に戻ったのは亥刻人定、すっかり夜も耽った夜四つの鐘がなる頃。
「六男、帰ったで」
「お帰りなさいませ旦那様」
「なんべんゆうたら、もうええわ。只今さん。そっちは変わりないか」
「こちらははい、ございません。ですが菊亭様には今朝方からお越しの御客人がお待ちです。それは首を長うして」
「今朝!? おい待て。身共は帰らんと申したはずや」
「はい確とお聞きしております。ですからお伝え致しました。ですがあちら様が構わぬ待たせよと仰せなので」
「そらあかん!」
つまりそこには御客人の巌とした意志があった。天彦は靴を脱ぎ脱ぎ急ぎ階段を駆け上がった。
◇
格調高き沈黙が痛い。天彦の偽らざる率直な感情である。
この感情を意訳するなら“お目目がコワいん”目目だけに。となるのだがそんな畏れ多くもおっかない沈黙は彼是四半時はつづいていた。
ただの三十分程度なら天彦にだって苦ではない。だが今の三十分は天彦にとって日蓮の大荒行に匹敵するしんどさがあった。眠いし眠いし眠たすぎる。
定宿に帰るなり、旦那様お客さんがおみえです。六郎に告げられ足元の泥だけ落として駆けつけてみると、360度どの角度からも熱量100オコの人がいた。本来なら天彦の席である上座に威風堂々おっちんとお座りあそばされて。
そう。菊亭定宿陣屋にご来臨あそばせているのは品格の権化であり菊亭の影の大銀主たる妙齢の女史にして、この人なければ菊亭の公卿の地位は危うかったであろうでお馴染みの、ご存じ目下宮廷序列裏一位のお噂を恣にする才媛にして帝の御寵愛著しい麗人目々典侍その人であった。修飾語長いねんっ!
だがそんなことより何より関心はいったいいつまでこのしんどい状態は続くのか。その一点に尽きるのである。押しかけも大概にしてほしい。
天彦は座に集う家人の誰かが痺れを切らせて不用意な発言をしてしまうことを危惧しながらも、一番信用ならない自分自身の感情をなだめながら下座でじっとおとなしく座る。
視界の端に雪之丞がそわそわ。佐吉が我関せず算砂がにやにや。その二人を是知が目線で咎める状況が入ってきた頃合いでいよいよ限界も近いと予感したその直後、膠着状態打開の合図か。動きがあった。
ずずず。
招かれざる客とまでは言わないがほぼそれと同じ感情で迎えられている妙齢の女史は、すっかり冷めてしまった茶を啜るとまったく熱くもないのに熱さを緩和するときにする仕草でほうっと息を吐きだした。
おいって!
また振り出しに戻るのか。たまらず天彦が絶叫する寸前、
「これはいつまで続くんや。目々典侍、儂らは少し気が立ってるで」
ある意味で菊亭家中では最も異を唱えやすい立場の人物が非難の声をすっと上げた。激情型の彼にしては非常に稀な、かなり穏やかな口調と配慮の感じる言葉を用いて慎重に。
「くっ……」
だがすると女史は視線だけで発言者を見咎めてたちまち場を制してみせた。
圧倒的な権威を伴う品格の前には野生のカリスマもたじたじなのか。イケメン坊主はすっかり獣性を内に引っ込めてすっと目を伏せると謝意を示した。
すると座からおおぉの感嘆の声が持ち上がる。ごほん。
その騒ぎを受けて目々典侍が咳払い一つ挟んで裾を払って居住まいを正す。というたったそれだけの所作だけでざわつきは一気に静寂へと姿を変えられてしまっていた。目々典侍の放つ艶めかしさとは無関係に座は掌握されていた。皆の注目を一手に集めながら。
お点前お見事。天彦の感心を知ってか知らずか、目々典侍はようやくおちょぼなお口を開くと美しい美声を座に響かせた。
「勅使に対してこの応接。褒められたものではあらしゃりません。ですがよいでしょう。菊亭卿にこれより直言を許します」
「その前に目々典侍、勅をお見せいただきたいん」
「だまらっしゃい。妾の存在が勅である」
「いや、それは……さすがに」
「妾の存在が勅である」
「二遍ゆうとか絶対ウソやん」
「なにが嘘か。如何な卿とてその言けして看過ならしゃりませぬ」
「あ、いえ、はい。ご無礼をお詫びいたします」
「よろしい。挨拶をなさい。そのくらいはできるのでしょう」
「目々典侍におかれましてはご機嫌麗しゅうさんに、お――」
「だまらっしゃい。これが麗しゅう見えるのか。参議の目ぇには」
ぴしゃり。
うわっ、むちゃんこ怒っとるやんけ。
一言でまたしても場が凍り付いてしまった。天彦は言葉なくけれど仕方なく非を詫びる表情をして謝意を示して引き下がる。
借りっぱなしで放置していたのは己の罪。怒らせたのも自分のせい。この状況はすべてが天彦の自己責任が引き起こした必然であった。
その目々典侍はつづけて言う。
「関東遠征でのご活躍、祝着至極にあらしゃります。太政官参議推しの妾としても喜ばしいかぎりにおじゃります」
かなり好意的に意訳すると『ええご身分やないの。少しは私の面目も立てなさいよ。放ったらかしにされてお姉さん哀しいわおよよ』となるのだろう。
天彦はこの文脈でも普通にたじたじとなって焦っているのだが、これが極めて彼女の心情に沿ったまぢヤバ解釈になると途端に血の気を引かせてしまう。
『おいクソガキワレテメエ、調子くれて後宮女房舐めてっとフレンドリストから今出川系譜ごと永久に削除すんぞゴラァ』となるからだ。
実際に彼女の権力なら可能だろう。するかどうかは別としても。
だからこそ天彦は粗末に扱ってはいけなかった。できるがしない人の方こそ大事なお客さんなのである。その事実に気づいたら最後、脳裏に浮かぶのは後悔ばかり。
おうふ。
「膝を突き合わせているときだけ神妙で。一たび別てば妾との盟約など二の次に棚上げられて知らんぷりと自由気ままにあらしゃりますもの。ほんとうに羨ましきご身分にあらしゃりますわぁ」
ぷいっ。
体感そんなオノマトペが見えてしまう程度なのでまだ救いようはある。
それが実際の救いになるかはまた別の話だとしても、そう予感させるほど目々典侍のお怒り度合いは真剣度判定が難しかった。
天彦の失敗はそこにあった。そことは即ち、未来現代の令和人のように無難な人付き合いをする室町人は少ない。際立つのは武門にある郎党だがそれは朝廷貴族も変わらない。
天彦の前に鎮座する権大納言飛鳥井雅綱の娘・目々典侍も同様に、天彦の人付き合いの拙さに対してハッキリとわかる不満顔で“私怒っているんですからねムーブを”を全身で表明していた。
天彦の失敗は現代感覚のそこにあった。ならば挽回はこれしかあるまい。
「何なりとお申し付けくだされ。臣菊亭、勅使目々典侍の言、如何なることでもお引き受けいたしまする」
「ほんま?」
「はい。二言はあらしゃりません。大事なご友人なれば」
「おお、よう申されました。殊勝な参議は妾も好きよ。ほな早速――」
地獄かな。
予め用意されていた要求は書面箇条書きで実に十七項目にも及んでいたとかいないとか。いずれにしても、
「ほな参議、明日内裏でお待ちしております。間違うても逃げるなよ」
「口調がきついん明日もきついん堪忍さん」
「何が堪忍か。あきません」
「はぃ」
「当り前や。お前さんは甘い顔したらすぐに付け上がるよってな。今度という今度は逃がさんよ。本腰入れて覚悟決め」
「あ、はい」
天彦の長い長い一日は何とか終えられそうであった、はずなのに。
「申し上げます!」
慌てて駆け込んできた報せにげんなり。
明日は参内や早う寝かせて。本音は飲み込み、どないしたん。
訊かずにはおれない当主の性。菊亭の夜はまだ長そうである。
「忙しそうで何よりさんや。明日、万が一もないように遣いの籠を寄越します。お見送りはけっこうにて。おもてなしおおきにさん、お邪魔様」
目々典侍は颯爽と応接室を後にした。残された天彦はため息一つ。
何が待ち受けているのかいないのか。いずれにしても長らく開店休業だった天彦の本業が、いよいよ始まる予感だけはひしひしとするのであった。
お読みいただきありがとうございます。最低でもアップしてブクマ外すと評価下げるはやめてね氏ぬから。
そんな感情でぽちぽちやっていると、一行で済ませられる一日後半を七千五百字かけたったん。あっはっはっは、参ったか。ごめんなさい。参りました。ちゃんとしますので見捨てないでください。バイバイキン。