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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
94/118

94・オモクロのオーディション・1

小悪魔マユ・94

『オモクロのオーディション・1』    




 オモクロのオーディションはスタジオで行われた。


 スタジオは、見学者のために階段を上がったところの部屋はまるまる壁がとりのぞかれ広いフロアーになっていた。フロアーはひな壇になっていて、どこからでもガラス越しにスタジオが見られる構造になっている。

 受験者は、そのひな壇で待たされる。試験は、課題曲と自由曲があり、課題曲は、オーディションが始まる前に、オモクロのメンバーが景気づけと、お手本を見せるために、歌って踊ってくれる。

 課題曲は、先日AKRとの対決で公開されたばかりの『秋色ララバイ』


――あ、ルリ子と美紀がいる。


 なんとオモクロは、お手本を選抜メンバーにやらせている。選抜メンバーのパフォーマンスは見事だった。AKRと引き分けになるだけのことはある。特にセンターをとっているルリ子は、ひときわ輝いて見えた。

 でも、ルリ子の技量は、雅部利恵が、白魔法を使って身につけさせたものだ。これを放置させておくことはできない。悪魔の倫理からは大きく外れている。

 

 過去にも例がある。


 シンデレラに同情して、妖精に化けた天使が、シンデレラを実際以上に美しく飾り、ダンスや、歌の技術を身につけさせ、王子に一目惚れさせた。ガラスの靴なんてヤラセをやって、鳴り物入りでシンデレラを捜させ、そのデビューを華々しいイベントにまでした。

 ちょっと考えてみれば分かることであった。ガラスの靴なんか履いて歩けるわけがない。

 シンデレラは、見ばとダンスと踊りだけはイケテいたが、一国の統治能力などカケラもない。王子さまは、それに輪をかけたイケメンだけのチャラオで、全ては、政治の「せ」の字も分からないシンデレラにまかせっきり。


 宮廷や政治のことはまるで分からないシンデレラだったが、家事一般のことは、家政婦のミタの上をいく腕で、掃除、洗濯はおろか、ちょっとした土木作業もお手の物。大型特殊免許を持っていて、ブルドーザーやダンプ、ユンボまでこなしてしまう。

 シンデレラは、文化大革命をおこした。なんでもできるシンデレラは、宮廷の使用人の数を1/10にまで減らした。当然公務員も大幅に削減。貴族達にも労働を強制、貴族達は「時代錯誤のナロードニキだ!」と反対したが、そのことごとくを強制労働につかせた。一時は歓迎した国民達も、金回りの悪さや失業にレジスタンスを組織するようになった。シンデレラは、それを対外膨張政策……つまり、インネンをつけて隣りの国に戦争をふっかけて、それをしのごうとした。眠れる森の美女の国などは、もろに、その被害をこうむった。そこに白雪姫と結婚してしまった王子さまの国がからんで、ファンタジーの国が大混乱に陥っていることは、本書の『フェアリーテール』にも詳しい。

 そして、これらの戦争は、全て「神の御名」のもとに行われていた。むろん、お人好しの神さまに全ての責任があるわけではなかったが、野放しにしていた天使たちが、その種を撒いたことには間違いない。


 マユは、お手本のダンスを見せているルリ子の白魔法を解除しようとした。

――エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……。

 マユは、心の中で念じた……しかし、ルリ子のダンスも歌も、もとのヘタクソにはもどらなかった。


――アハハ……白魔法の効力なんてとっくに消えているわよ。


 その思念は突然飛び込んできた。


 うかつだった。オチコボレ天使の雅部利恵が、美川エルという、別のアバターを使って、この受験者たちの中に紛れ込んでいたのだった……。


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