89・期間限定の恋人・21
小悪魔マユ・89
『期間限定の恋人・21』
ガン細胞、みんなやっつけた……。
「うそ、奇跡がおきた!」
「美優……!?」
「わたしの体の中のガン細胞が、みんな死んだ……みたい」
「ほ、ほんとうか!?」
「うん、ぜんぜん感じが違う、ガン細胞が居る気がしないよ!」
「よ、良かった! ほんとうに奇跡は起きたんだ!」
二人の大声で、マダムも部屋に入ってきた。娘の最後の瞬間に立ち会ってやりたかったが、新婚夫婦二人だけにしてやろうと、リビングで、じっと我慢をしていたのである。
「お母さん、見て! わたし、予定時間を過ぎても生きてる。どこも痛くない、どこも悪くないんだもの!」
「美優……よかった! よかったね!」
今度は、母子で抱き合い、黒羽は、会長に電話をした。会長の光ミツルも大感激で、明日の『AKR VS OMOKURO』の生放送に美優を誘うことを提案した。
「お義母さんも、いっしょじゃいけませんか?」
黒羽は、そう提案したが、会長と義母のマダムの両方から断られた。なにか二人の間には秘密のタクラミがあるようだった。
――わたし、少しくたびれたので、しばらく美優ちゃんの中にいたまま休憩するね……マユ。
マユは、美優の心に、そう告げて眠った。体は、もう一体、マユとクララを足して二で割った仁科香奈というキャラを持っていたが、人の姿で休むより、美優の体の中で魂のまま休んだ方が楽なのである。
――どうぞ、ごゆっくり。ほんとうにありがとう、マユちゃん!
「なにか、言った?」
美優は、あまりの感激と、マユへの感謝の気持ちで、半分声になって出てしまったのだ。
「あ、なんだか世界中の神さまにお礼が言いたい気持ちになって……」
「あらら、いつから美優は信心深くなったのかしら」
母が、そういうと、自分でもおかしくなって、三人で笑ってしまった。笑い声は一階のお店まで響き、ちょうど出勤してきたバイトのサエちゃんを驚かせた。
あくる日は、文字通り目の回るような忙しさだった。
事務所に集まったAKRのメンバーは、会長から檄を飛ばされ、テレビ局のスタジオに行くまでに、振りやフォーメーションの確認をやった。テレビ局と事務所のスタジオでは尺がちがう。テレビ局のほうが広く、小さくまとまらないように、両サイドの子たちは、立ち位置を念入りに確認した。
『秋色ララバイ』は想像以上にすごかった。
いままで、レッスンを含め、この曲は秘密にされていたが、リハーサルで、その全貌が明らかになった。
「やるわね……」
最年長の服部八重さえ唸ってしまった。知井子などは口を開けたまま圧倒されていた。
「わたしたちだってできてるわよ。相手がすごいと思えることは、自分たちも同レベルにはできている証拠なんだから!」
「円陣組もう!」
AKRのリハになったので、マユの姿をした拓美は、ハッパをかけた。
「AKR47、この日のためにがんばってきた。みんながんばるぞ!」
リーダー大石クララのかけ声に、みんなが答えた。
「オー!!」
特急電車、準急停車と間違えて、ボクはホームで吹き飛ばされた。
二回転ショック!ショック!
手にした花束、コスモストルネード!
体に力がみなぎってきた。心配していたフォーメーションもバッチリきまった。
今度は、オモクロのメンバーが、スタジオの隅で圧倒されていた。むろん、圧倒されっぱなしではなく、ルリ子たちオモクロのメンバーの目は燃えてきた……。
「ここまでこられたのは、メンバーもがんばったけど、ロ-ザンヌの衣装もすごかったからだよ。ほら、会長とお義母さんが、ファッション誌の記者にとりまかれているよ!」
黒羽が上機嫌で美優の肩をたたいた。
「…………」
「どうした美優。顔色良くないんじゃないか……?」
「え……ううん。ちょっとスタジオの熱気にあてられただけ」
そういうと、美優は、明るい笑顔を黒羽に向けた。
「じゃ、本番二十分前。そろそろ観覧席に行こうか」
「うん」
「あ、黒羽さん達の席は、そっちです」
クララが、ウィンクしながら、観覧席の中央を指差した。
〈黒羽ご夫妻様お席〉
観覧席の真ん中には、そう張り紙された紅白二つの席が用意されていた。
「あいつら……」
黒羽が、スタジオのAKRのコーナーを睨みつけると、メンバーたちが拍手したり、口笛を吹いたりして冷やかした。
「アハハ……」
精一杯、幸せそうに笑顔を向けるのが、精神的にも肉体的にも美優には限界だった。
マユは、落ち着いて、もう一度美優の心に語りかけた……。




