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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
76/118

76・期間限定の恋人・8

小悪魔マユ・76

『期間限定の恋人・8』    




 わたしと黒羽さん、婚約しましたから!


「「「「「「「「「「え……ええ!?」」」」」」」」」」


 一同から、悲鳴のような歓声があがった。

「だからあ、もう、みんな黒羽さんに手を出してはいけません!」

「ちょっと、美優!」

 と、マダム。

「ちょっと美優ちゃん」

 

 黒羽は、一度美優を廊下に出した。



「これは、あくまでオヤジを納得させるための……バーチャルなんだから」

「たとえそうでも、その気になっておかなきゃお父さんは気づいてしまうわ。病人て、そのへんの勘は鋭いのよ。わたしも、ついこないだまでは、そうだったから、よく分かるの。決めたからには覚悟して」

「美優、どういうことなのよ!?」

 マダムは、娘の爆弾発言を問いただそうと、廊下に出てきた。メンバーの矢頭萌など数人もくっついてきた。ビル中に騒ぎが広がりそうなので、黒羽は、慌ててみんなをスタジオにもどした。


「AKRは、恋愛禁止になってますけど。密かに黒羽さんに心寄せてる人がいちゃいけないので、宣言しときます。この英二さんは……」


――売約済み――


 いつのまに用意したのか、ロ-ザンヌの(売約済み)のシールを、黒羽の胸や背中、おでこにも貼り付けた。

「「「「「「「「「「キャー、ウワー!」」」」」」」」」」

 歓声があがった。

「結婚式はいつ?」

「告白は、やっぱ黒羽さん?」

「シッ、シッ、これからは、黒羽さんの半径50センチ以上寄っちゃいけないからね。50センチ以内は婚約者のエリアだからね」

 クララが、通せんぼをした。

「って、いうか、クララさん、その距離超えてるしい」

 萌が、くちびるを尖らせる。

「わたしは、親衛隊長だからいいの!」

「ずるい~!」

 などと、ひとしきり騒ぎは収まらない。

「婚約指輪は、まだなんですか……?」

 知井子が、静かに聞いたが「婚約指輪」という言葉は刺激的である。


――ジー…………


 47人のメンバーとスタッフ、そして母親であるマダムの視線が、美優の左手に集中した。

「あ、あの、その……ついさっきコクられたばっかで、そういうのまだなんです……アハハ」

 美優は、顔を赤らめ、眉を八の字にして頭を掻いた。

「ワー!」

「そんなの!」

「信じらんない!」

「大の男だったらさあ!」

 と、またもかしましい。

「いや、だから、それはね……」

 と、黒羽が言い訳しようとすると、黒羽の携帯が鳴った。

「はい、黒羽。あ、会長……はい、今すぐ行きます。オレ会長室行ってくるから、みんなはレッスン。よろしく、まゆみさん(振り付け)」

「はい。さあ、あんたたちがんばるのよ!」

 春まゆみが、みんなを集中させた。

「マダム、美優ちゃん、いっしょに来て」

「え?」

「会長が、お二人もいっしょにってことなんで」


「黒羽、おまえは、自分のことに関してはブキッチョなんだからなあ」


 会長は、小さな小箱を投げてよこした。



「……これは?」

「グリコのオマケじゃねえからな。正真正銘の婚約指輪」

「会長……」

「会長さん……」

「急場のことなんで、筋向かいの宝飾堂のありあわせ。でも、モノホンだから……美優ちゃん、マダム、こんな朴念仁だけどよろしく。こいつのお父さんのために……」

「会長……!?」

「夕べは、ずいぶん酔っぱらって……見かねた美優ちゃんが面倒みてくれた……この界隈のことは、業界のことと同じくらいの地獄耳。それに妹さんから電話もあったしな」

「由美子のやつが……!」

「怒ってやるなって……親孝行したいころには親は無しってな。それに『コスモストルネード』発表までは、この朴念仁にもしっかりしてもらわなっくちゃ困るしな」

「ありがとうございます。会長」

「お礼言うならなら、美優ちゃんだ。かりそめにも10歳以上年上の婚約者引き受けてくれたんだからな」

「会長さん」

「なんだい?」

「あの……レッスン見てちゃいけませんか。婚約者として英二さんの仕事ぶり見ておきたいんです」

「それは断る。発表までは非公開だ」

「あの、ブースからでもかまわないんです。お父さんにちゃんと婚約者と思ってもらうためには、英二さんの仕事見といたほうがいいと思うんです」

「だめだ、スタジオからブースは丸見えだ……でも、この部屋のモニターならいいよ」

 

 会長が、机のボタンを押すと、天井から大きなモニターが降りてきた。


「ほら、このゲ-ム機のコントローラーで操作できる」

 モニターにスタジオの全景が映し出された。

「あとは、触っているうちに分かる。じゃ、美優ちゃん、よろしく」

 会長は、ホウキとちり取りを持ってドアに向かった。日課の掃除である。

「あ、それと、適当に時間作ってデートしとけ、リアリティーが出るようにな」

 そう言い残し、会長は部屋を出て行った。

「じゃ、オレも仕事にかかる。あ……昼飯いっしょに食べよう。昼に店に迎えにいくよ」

「は、はい」


 マユは、美優の体の中で、美優のトキメキを、どう受け止めていいのか分からなくなった……。


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