75・期間限定の恋人・7
小悪魔マユ・75
『期間限定の恋人・7』
「一週間だけの期間限定……だけどね」
「それは……」
「聞いて」
美優は、黒羽の言葉をさえぎって続けた。
「芸能プロって、夢を売るお仕事でしょ。うちもそう、ブティックは女の子に夢を売るの。ガーリーファッションとかゴスロリとか……うちは、あんまり大仰なロリータファッションにならないように気をつけてる。そのまんまご近所歩いても違和感ない程度に。田舎からおばあちゃんが来て目を回すようなオーバーロリータにならないように」
「それは認めるよ。そのセンスの良さと、お母さんの商売の確かさで、うちもコスの注文は、ほとんど、このロ-ザンヌだもんな」
「でしょ。商売の駆け引きじゃ、お母さんにかなわないけど、ファッションの感覚には自信ある。わたも……!」
美優は、平静に言えたつもりだったが、緊張してシンクに食器を投げ入れるように放り込み、コーヒーカップを割ってしまった。
「アッ……!」
指を切ってしまった。心臓がバックンバックンだったので、ケガの割には血が多めに流れてしまった。
「だめだ、手を心臓よりも高く上げて。救急箱は、どこ!?」
黒羽は十代のころADになり、下積みからHIKARIプロのチーフディレクターになった男である。ちょっとしたケガの手当などはお手の物である。
「ありがとう……こんなオッチョコチョイじゃダメかな」
「気持ちは、嬉しいけどね」
「嬉しい気持ち……黒羽さんじゃなく、お父さんに……」
「あ……そうだね」
「わたしも、ひところは命が危ないって言われてた(本当は、見かけは元気だけど、一週間の命)でも、元気になって分かるの。お母さんや、友だちが気遣ってくれたことが。そのときは気づかなかったけど、わたしが元気になれたのは、そういうみんなの心。お父さんにも必要よ、あと一週間のお命なら、なおさらのこと……それとも、わたしなんかじゃ黒羽さんには釣り合わない?」
黒羽は、包帯を巻くのと同じ確かさで言った。
「そんなことは無いよ。だって、高校時代はミス乃木坂学院にだって選ばれたじゃないか」
「え、そんなこと覚えていてくれてたんですか」
「ああ、一時は、うちの事務所からスカウトしようかって、話が出たぐらいなんだから」
「ほんと!?」
「ああ、お母さんにキッパリ断られたけどね」
「そう、美優はオンチだし、運動神経も亀さんといい勝負だもんね」
「お母さん!?」
母が、車のキーをチャラチャラいわせながら、リビングのドアのところに立っていた……。
「マダム……」
「黒羽さんが居て助かったわ。47着の衣装、わたし一人じゃ運べなかった」
「わたしが居るじゃない」
「美優に手伝ってもらったら、倍時間がかかる!」
「もう、そういうこと言う?」
段ボール箱を三人で運びながらの会話。母の真意は分かっていた。残りの一週間、美優の気ままに過ごさせてやりたいのだ。
「黒羽さん、わたし、こう見えて、あちこちガタがきててね。一週間ほど店休もうかと思って」
「ほう、それは、すみません。無理な仕事させて」
「で、この仕事がキリだから、徹夜したのよ。あ~眠い」
「だめよ、お母さん。いつも通りにしてなくっちゃ!」
「だって、美優……!」
段ボール箱を運びながら親子が睨み合う。その両方の目が潤んでいた。
「……どうかしました?」
黒羽が脳天気に聞いた。
「バカな親を持つと……」
「バカな娘を持つと……」
同じグチが、親子の口から同時に出た。
「みんな、新しいコスができたから、自分の名前を見て試着して」
黒羽が、そう言うと、メンバーのみんなが集まって、キャーキャー騒ぎ出した。
「わたしと八重さんで配るから、順番に並んで!」
大石クララが仕切った。それでも新曲『コスモストルネード』への意気込みはすごいもので、メンバーの興奮は冷めなかった。
「ちょっと、みんな聞いてください!」
美優が叫んだので、みんな静かになった。そして美優は宣言した……。
「……わたしと黒羽さん、婚約しましたから!」




