↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
75/118

75・期間限定の恋人・7

小悪魔マユ・75

『期間限定の恋人・7』    




「一週間だけの期間限定……だけどね」


「それは……」

「聞いて」

 美優は、黒羽の言葉をさえぎって続けた。

「芸能プロって、夢を売るお仕事でしょ。うちもそう、ブティックは女の子に夢を売るの。ガーリーファッションとかゴスロリとか……うちは、あんまり大仰なロリータファッションにならないように気をつけてる。そのまんまご近所歩いても違和感ない程度に。田舎からおばあちゃんが来て目を回すようなオーバーロリータにならないように」

「それは認めるよ。そのセンスの良さと、お母さんの商売の確かさで、うちもコスの注文は、ほとんど、このロ-ザンヌだもんな」

「でしょ。商売の駆け引きじゃ、お母さんにかなわないけど、ファッションの感覚には自信ある。わたも……!」


 美優は、平静に言えたつもりだったが、緊張してシンクに食器を投げ入れるように放り込み、コーヒーカップを割ってしまった。

「アッ……!」

 指を切ってしまった。心臓がバックンバックンだったので、ケガの割には血が多めに流れてしまった。

「だめだ、手を心臓よりも高く上げて。救急箱は、どこ!?」


 黒羽は十代のころADになり、下積みからHIKARIプロのチーフディレクターになった男である。ちょっとしたケガの手当などはお手の物である。

「ありがとう……こんなオッチョコチョイじゃダメかな」

「気持ちは、嬉しいけどね」

「嬉しい気持ち……黒羽さんじゃなく、お父さんに……」

「あ……そうだね」

「わたしも、ひところは命が危ないって言われてた(本当は、見かけは元気だけど、一週間の命)でも、元気になって分かるの。お母さんや、友だちが気遣ってくれたことが。そのときは気づかなかったけど、わたしが元気になれたのは、そういうみんなの心。お父さんにも必要よ、あと一週間のお命なら、なおさらのこと……それとも、わたしなんかじゃ黒羽さんには釣り合わない?」

 

 黒羽は、包帯を巻くのと同じ確かさで言った。


「そんなことは無いよ。だって、高校時代はミス乃木坂学院にだって選ばれたじゃないか」

「え、そんなこと覚えていてくれてたんですか」

「ああ、一時は、うちの事務所からスカウトしようかって、話が出たぐらいなんだから」

「ほんと!?」

「ああ、お母さんにキッパリ断られたけどね」

「そう、美優はオンチだし、運動神経も亀さんといい勝負だもんね」

「お母さん!?」


 母が、車のキーをチャラチャラいわせながら、リビングのドアのところに立っていた……。


「マダム……」

「黒羽さんが居て助かったわ。47着の衣装、わたし一人じゃ運べなかった」

「わたしが居るじゃない」

「美優に手伝ってもらったら、倍時間がかかる!」

「もう、そういうこと言う?」

 段ボール箱を三人で運びながらの会話。母の真意は分かっていた。残りの一週間、美優の気ままに過ごさせてやりたいのだ。

「黒羽さん、わたし、こう見えて、あちこちガタがきててね。一週間ほど店休もうかと思って」

「ほう、それは、すみません。無理な仕事させて」

「で、この仕事がキリだから、徹夜したのよ。あ~眠い」

「だめよ、お母さん。いつも通りにしてなくっちゃ!」

「だって、美優……!」

 段ボール箱を運びながら親子が睨み合う。その両方の目が潤んでいた。

「……どうかしました?」

 黒羽が脳天気に聞いた。

「バカな親を持つと……」

「バカな娘を持つと……」

 同じグチが、親子の口から同時に出た。


「みんな、新しいコスができたから、自分の名前を見て試着して」

 黒羽が、そう言うと、メンバーのみんなが集まって、キャーキャー騒ぎ出した。

「わたしと八重さんで配るから、順番に並んで!」

 大石クララが仕切った。それでも新曲『コスモストルネード』への意気込みはすごいもので、メンバーの興奮は冷めなかった。


「ちょっと、みんな聞いてください!」


 美優が叫んだので、みんな静かになった。そして美優は宣言した……。


「……わたしと黒羽さん、婚約しましたから!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。