55・フェアリーテール・29
小悪魔マユ・55
『フェアリーテール・29』
西の魔女は、歯を見せずニヤリと笑った……。
ライオンさんは、そのニヤリ笑いに驚いて、木の陰に隠れてしまう。
ブリキマンやかかしさんでさえ、足を震わせた。
しかし、ドロシーとマユはちっとも怖くなかった。
西の魔女は、褐色の瞳をして顔も彫りが深く、一見しておっかない魔女だけれど、表情は穏やかで、ニヤリと笑ったのも、その身に付いた奥ゆかしさのためのように思われた。奥ゆかしくなければ、アメリカ映画のアン・ハサウエーか、アンジェリーナ・ジョリーのように歯を見せて笑い、両手を広げて、みんなを迎えた出あろう。それを分かってか、トトなんか、ドロシーの手を離れ、ちぎれんばかりにシッポを振って魔女のところに行った。
「まあ、かわいいワンちゃんね、お名前は?」
「あ、トトって言います」
「ワン、ワン、ワン」
トトは犬らしく、魔女に甘えた。
「そちらは、かかしさん、ブリキマンさん。木の陰にいるのは……ライオンさんね。シッポが見えてるわよ……あなたは……」
「ドロシーっていいます。カンザスに帰るために……」
「分かってるわ。で……もう一人のあなたは……女子高生みたいななりだけど……違うわね?」
「あ、わたし小悪魔のマユです。エルフの王女のレミってのに頼まれて、この世界にいます」
「そう。わけは、おいおい聞かせてもらうわ。とりあえずみんなでランチにしましょう」
「あ、わたしたち、さっき食事を済ませてきたところなんです」
ドロシーは、自分だけが食べたのに、みんなも食べたように思いこんでいる。
「フフ、食べたのは、あなただけでしょ」
「あ、そうだった。でも、どうして分かるんですか?」
「一応、西の魔女だから。それに、わたしのランチは、お腹が空いている人だけじゃなく、心が空いている人にも効果ががあるの」
そう言われると、なんとなく、みんな納得して、西の魔女の指示に従って、庭のレタスやキンレンカを採りにいったり、パンを切ったり、バターを塗ったり、お皿を並べたりした。
みんなでランチのサンドイッチを作って食べると、ほんとうに心がホンワカしてきた。
「こんなに心がユッタリしたのは久々だ。お礼に、なにかやらせてくださいよ」
かかしさんが提案した。
「そうね……わたし、ここに来て間がないから、庭の手入れが出来てないの、薪割りとかもあるから、やってもらおうかしら」
西の魔女のお願いで、ライオンさん、かかしさん、ブリキマンは広い庭に行って仕事にかかった。
「トトも、お庭で遊んできたら?」
トトは、キョトンとした顔になった。
「あのね、わたしは、この子達と女子会がしたいの」
「ワン、ワン」
「だめだめ、あなたがオスで、人間の言葉が喋れるぐらいのことは分かってるわよ」
「ちぇ、しかたねえなあ」
そう言うと、スコップをかついで外股の二本足で庭に行ってしまった。
それから、三人の女子会になった。
「……というわけで、あなたが最初のお客さん。まさか小悪魔さんがいっしょだとは思わなかったけど」
「わたし落第生だから、これも修行の内だと思って。でも、なんでおばさんは西の魔女なんかに応募したんですか?」
「わたしって、もともと西の魔女だから」
「え……?」
「落ち着いたら、パソコンでも検索してちょうだい。著作権の問題で、わたしの口からは言えないこともあるから……わたしは、前のお話が終わったから、ダメモトで応募したんだけどね。まさか選ばれるとは思わなかった」
「試験とか面接あったんですか?」
「書類選考のあとは面接だけ。受かるつもりなかったから言いたいこと言ってきたんだけどね」
「どんなこと言ってきたんですか!?」
ドロシーが身を乗り出した。
「知りたい……?」
「教えてください」
マユも、身を乗り出した。
「バカな意地悪はやらない、魔法も使わない、ホウキを欲しがっている子には、黙ってあげる」
「え……ホウキいただけるんですか!?」
「ええ。でも、少しお話してから。むろん、あなたたちが急ぐんなら、今すぐに持っていってもいいわよ。あんなもの半日もあれば作れるから」
それから三人は半日お喋り。
マユは魔界でのことや、人間界で修行させられている苦労や、このファンタジーの世界に来てからも、なかなか思い通りにならないことなどをグチった。
ドロシーは、早くカンザスに帰りたいことや、いかにカンザスでの生活が楽しかったかを話した。
西の魔女は、ハーブティーを飲み干すと、ニヤッと笑ってこう言った。
「マユのお話は、無意識の誇張や思いこみがあっておもしろい。まさに修行中の小悪魔さんね」
「いや、わたしは……」
「ほら、マユが、この世界に来てやったことが出てるわよ」
西の魔女は、パソコンを操作して、モニターに、今までの記録を出した。
「ああ、やめてくださいよー」
マユは、頭を抱えた。
「白雪姫も赤ずきんも、サンチャゴのライオンのこともグチャグチャね」
「アハハ」
「笑うな!」
マユは、ドロシーを張り倒そうとしたが、意外な敏捷さでかわされてしまった。
「熱くならないの。世の中には『一石を投じる』ってこともあるのよ。マユがやったことの結果は、まだまだ先にならないと分からないわ」
「でもね、西の魔女さん……」
マユは、アイドルグループのヘタレキャラのような声をあげた。
「わたしは、こう言っとくわ『買わない宝くじは絶対当たらない』って」
「ハハ、マユのやったことって、宝くじ並みの確率しかないんですね」
「ドロシー!」
今度は、手を上げる前にかわされた。
「ドロシー、あなたの方が深刻だと、わたしは思う」
「え……?」
すかさず、マユの左パンチが……これは避けきれずに、ドロシーはギンガムチェックのスカートをひるがえして、ひっくり返った。
「アイテー……なんでですか。わたしはホウキをもらって、オズの魔法使いに渡したら、ミッションコンプリート。めでたくカンザスに帰れるんじゃないんですか?」
「ドロシーの意識の底には、もっと厄介なものが潜んでいるわ。それはマユがやったことよりもすごい影響を自分にも、このオズの世界にももたらすようなこと……」
「わたしが、そんなことを……」
「そう、でも、これ以上は言えないわ……ほら、こんなとこにも……」
西の魔女は、床に落ちていたドングリを拾い上げると、テーブルの上に乗せ、ナイフで一刀両断にした。
ドングリの中味は、こまかい電子部品で一杯……それは高性能盗聴器だった。
「こんなものが、あちこちにあるようじゃねえ……」




