49・フェアリーテール・23
小悪魔マユ・49
『フェアリーテール・23』
声の主は、新聞配達の少年ジョルジュだった。
「どうしたの、ジョルジュ?」
「大変なものに出くわしてしまった……あ、こっちへ」
そういうと、ジョルジュはミファとマユを道路脇の大きな岩陰に連れて行った。
「いったいなによ、なにがあったのよ!?」
「驚くなよ……」
「シッ……!」
息を整えながら話を続けようとしたジョルジュをマユは制止した。
岩の向こうの道を町長が歩いていく。
道は、岩のところで曲がっているので、後ろから来た町長は気がついていなかった。いつもなら、目の前を歩いていた二人の女の子の姿が見えなくなれば「おかしい」ぐらいは思うのだけれど、この時は気づきもしなかった。
それほどサンチャゴとライオンのショックが大きかったのだ。
町長の気配が完全に無くなっても息をひそめ、さらに三つ数えてからジョルジュは話し出した。
「さっき、ライオンに遭ってしまった……」
「「え!?」」
ジョルジュは、二人を案内しながら説明した。
「新聞を配達し終えて、家に……帰ろうとしたんだ、そして北……の、町はずれのイガイガ林の……ところまで来た……ら……オレの上……上を、大きな影がよぎった……んだ……」
「あの(……)のとこは、人目を気にしてるんだろうけど、分かりにくいから」
「とりあえず、イガイガ林まで行って話してくれる。ただでもお喋りなあたしたちが、人前で黙り込んじゃ、かえって怪しまれるわよ」
「それもそうだ」
ということで、イガイガ林に着くまで、三人はバカ話ばかりした。おかげで、マユのこともジョルジュは自然に理解した。年頃の少年や少女は改まった話は苦手だ、バカ話の中で話したほうが、お互いに通じやすい。
ジョルジュは、マユが小悪魔であることもミファと友だちであることも自然に理解……信じた。むろんサンチャゴじいちゃんのライオンのことは言わなかった。
そういうオトモダチ的な話をしているうちに、三人はイガイガ林の前までやってきた。
あたりをうかがい、イガイガ林の中に入ると、ジョルジュは一気にまくしたてた。
「でよ、大きな影がよぎったかと思うと、そいつはオレの目の前に降りてきて、オレをめがけて駆けてきたんだ。オレは、足がすくんで、動くことも声を出すこともできなかった。だって、そいつは……ライオンなんだ!」
「で、ライオンはどうしたの? どこにいるの?」
「林の、あるところに閉じこめてある……」
「ジョルジュが、閉じこめたの!?」
「あ、ああ、町に出られちゃ大騒ぎだからさ。オレだってやるときゃやるよ!」
「えらいんだ、ジョルジュって!」
マユは、一応カワユゲな女の子らしく驚いてやった。なにかありそうな気はしたが、まあ若者同士の礼儀として……。
「で、ライオンは?」
「……ここ」
ジョルジュは、体をカチコチにして、目の前の薮を指差した。
一見薮に見えたが、それは木の枝を切り積み重ねたカモフラージュであることが分かった。三人でカモフラージュの薮をどけると、そこは岩肌で、人がやっと通れる割れ目が開いていた。
割れ目の奥から気配がした……たぶんライオンの気配……でも、サンチャゴじいちゃんのライオンの気配とは違っていた。
ちょっと暗い……マユは魔法で明るくしてみた。
割れ目の中は意外と広く、奥の方で「く」の字に曲がっているようで、気配は曲がった「く」の字の奥の方からしてくる。
マユを先頭に、ゆっくりと奥に進んでいくと、後ろの方で、ガラガラガラと大きな音がした。
ウワーーー!!
崩れてきた岩で、入り口がほとんどふさがれてしまった。
ミファとジョルジュは思わず抱き合ってしまった。
「あなたたち、友だち以上の仲なのね……」
「あ……思わずよ、思わず。手近にいたから」
「そ、そうだよ」
「ま、どうでもいいけど……キスまですることないと思うよ」
マユは、今のが(二人が抱き合ったことじゃなく、岩が崩れたこと)ライオンの仕業であることに気づいていた。
気配はいきなり「く」の字の角を曲がって現れた。
それは身の丈二メートルは超えるライオンであった……身の丈?
そう、ライオンは二本の足で立っていたのだ!
「やあ、わざわざすまないね」
ライオンが口をきいた……!!?




