48・フェアリーテール・22
小悪魔マユ・48
『フェアリーテール・22』
「そこまでだ……!」
合体した二人の後ろで声がした……。
立っていたのは町長だった。
「気になってサンチャゴの家を覗いたら、ベアが倒れていた。君たち二人の姿はないし、サンチャゴは夢を見続けていた。サンチャゴの瞳の中に、君たちの気配を感じてね。心配になってここまで来たんだ」
「町長さん、夢の中に入ってこれるんだ」
「めったに使わんが、この程度の魔法はね……しかし、二人合体してZ指定の結界をこえるとは……マユちゃん、なかなかの魔法使いだ」
「いいえ、わたしは、そんなアマチュアじゃないわ。こう見えても悪魔のハシクレ、魔法で、わたしには勝てないわよ」
「……そうだったのかい」
町長は、ため息一つついて、岩の上に腰を下ろした。
「もう、こうなったら、お願いするしかないね……ライオンが目覚める前に、この夢から出て行ってくれないかい。ミファ、マユ……」
「どうして、起きているライオンを見ちゃいけないの」
「……手に負えないんだよ、ライオンは。昔は……といっても、わたしなんかが生まれる前だけどね。ライオンのことは小学校でも教えていた。みんなライオンを信じていた……そして、そのために大きな戦争までやってしまった……大勢の人が死んで、島は、さびれてしまった。だから、わしたちは、もうライオンを見ないことにした、考えることもやめた。いま、島でライオンを見続けているのはサンチャゴただ一人。だから起こすわけにはいかない。君たちに、起きたライオンを見せるわけにもいかないんだ」
「そうなんだ……でもね町長さん。そんなこと言ってたら、あたし達の島は、いつまでたっても今のままよ。あたし達、まだ子どもだけど、任せてくれないかな。ライオンをどう受け止めるか……それは見てみなくちゃ分からないから、感じてみなくちゃわからないから」
その時、ライオンが目を覚ました……。
気がつくと、サンチャゴじいちゃんの小屋にもどっていた。
ライオンが目覚めたとき、それは気配で分かった。空気が強い力でみなぎったから。サンチャゴ軍曹は、少し遅れて歓声をあげた。そして、ゆっくりとライオンといっしょにこちらを向いた。
サンチャゴの目も、ライオンの目も……暗い井戸の底のように真っ暗だった。ただ深い闇の広がりが予感されるだけだった。町長も合体したマユとミファもその底知れない闇に悲鳴をあげることしかできなかった。
そして、気がつくと三人は、この小屋にもどってきてしまっていた。
「わしが、もどしたわけじゃない」
町長が、震えの残った声で言った。
「わかってるよ、町長さん。わたし、ただ怖ろしかった」
合体が解けて、本来の姿に戻ったミファが言った。
ガタンと音がして、町長とミファが驚いて音のした方を向いた。
「ごめん、おどかして……たぶん、もどしたのは、わたし」
音がしたのは、マユが立ち上がろうとして、ふらついたからだった。
「ライオンの目を見るのには、町長さんは歳をとりすぎていた。ミファは、まだ幼すぎる。そして……二人を守るには、わたしの魔力は弱すぎた。だから……たぶん、わたしが反射的に二人を連れて夢から飛び出したんだと思う」
「サンチャゴじいちゃんは!?」
ミファの声で三人は、サンチャゴのロッキングチェアーに寄った。サンチャゴは安らかな寝息を立てて眠っていた。
「こんな安らかな寝顔を見たのは、初めてだな」
「うん……サンチャゴじいちゃんは、ライオンを見ることができたんだもんね」
そうじゃない……二人には言わなかったけれど、マユには見えた。
ライオンとサンチャゴの目の底にあるものを。ミファは怖さのあまり記憶からとんでしまっているけど、もう少し大人になれば無意識に思い出すだろう。マユは、そう思って言わなかった。
その思いは、サンチャゴじいちゃんの小屋を出て坂道を町へもどるころには確信になっていた。ミファの肩から力みが消えていたから。
「ミ、ミファ……!」
ミファを呼ぶ声が坂道を駆け上がってきた……。




