45・フェアリーテール・19
小悪魔マユ・45
『フェアリーテール・19』
それは、巨大な青い渦に巻き込まれていくボートのようであった……。
実際、ストローハットはボートになって、クルクル回っている。
マユは小悪魔で、ミファは港町の子なので、二人ともボートに酔うことはなかった。
しかし、様子が分かるのには、少し時間がかかった。
海は、荒れている。まるで海そのものが何かを予感して興奮しているようだ。
人の背丈ほどの波が絶えずわき起こり、マユには海の妖精たちが、なにかおもしろいことを見つけて騒いでいるように思えた。
「低気圧が過ぎたところみたい。ほら、波は、まだ騒いでいるけど、空は青いよ」
ミファが、港町の子らしく解説した。
「こういうときは、いい獲物がかかりやすいんだ……」
ミファが、そう続けたとき、波間に、チラッと他のボートが見えた。
「あ、あれは……」
「サンチャゴじいちゃんのボートだわ」
「よく分かったわね」
ミファが感心した。
「だって、ここは、サンチャゴじいちゃんの夢の中だもの」
「え……そうなの!?」
「見たいと言ったのは、ミファの方だよ」
「夢って、こんなにリアルなの……潮の香りも、海の感覚も本物だよ」
「……それだけ、サンチャゴじいちゃんの想いが真剣だってことよ」
波間に見えるサンチャゴじいちゃんは格闘していた。
一人でリールを巻いては緩め、呼吸を整え、獲物のそれに合わせた。時にサンチャゴじいちゃんは体ごと海に引きずり込まれそうになるが、必死でふんばった。負けそうになるとリール空回りさせ、釣り糸を伸ばす。
伸ばして、獲物が力を抜いた瞬間に思いっきりふんばって、リールを巻き戻し、伸ばした二割り増しぐらいに引き戻す。時には、獲物の力が勝って、逆に二割ほど持って行かれることもあった。
そんなことを何十編もくりかえし、瞬間、サンチャゴじいちゃんが渾身の力でふんばったとき、そいつは海の上に躍り上がるように姿を現した。
そいつは、マユの背丈の五倍もありそうなカジキマグロだった。
「じいちゃん、がんばれ!」
ミファが思わず声をかけた。
「ここは夢の中なんだ。言っても聞こえないわよ」
「でも、でも、サンチャゴじいちゃん、あんなにがんばってんのに……!」
「だから、夢だって。あんまり入り込みすぎると、夢の中から出られなくなっちゃうよ」
「う、うん……」
それから何時間たっただろうか、ようやく、サンチャゴじいちゃんは獲物を船縁までたぐり寄せ、モリでトドメを刺した。マユとミファも、ボートの船底に尻餅をついてしまった。
「く、くそ……こんな時に、あいつが居てくれたら」
獲物のカジキマグロは大きすぎて、ボートに引き上げることができない。サンチャゴじいちゃんは、仕方なく船縁に獲物をくくりつけた。
「あいつって、だれ?」
「……少年」
「少年?」
「あたしたちの仲間。いつもサンチャゴじいちゃんのボートに乗っていた」
「今日はいないの?」
「……親が反対していたから。サンチャゴじいちゃんは大物狙いで、坊主で帰ってくることが多くて、稼ぎにならないって、親が反対してたんだ……これは、じいちゃんの最後の漁なんだ」
「最後の漁って……」
「このままじゃ、終わらないよ……」




