44・フェアリーテール・18
小悪魔マユ・44
『フェアリーテール・18』
二人は背後に人の気配を感じた……。
いつのまにか、入り口のところに、ベアおばちゃんが立っている。
「やっぱり、その子は魔女だっのね、いや、ひょっとしたら魔法少女!?」
「ちがうわ」
「いま、たばこを消して、窓を魔法で閉めたでしょ。あんたたちみたいな子どもでなきゃ、サンチャゴの世話はできないけど、いつか、こんなことになるんじゃないかと心配もしていた。サンチャゴの夢を知りたがるんじゃないかって」
「ベアおばちゃん、やっぱりなにかあったのね。サンチャゴじいちゃんを起こしちゃいけないなにかが」
「ミファ、その子から離れるんだ。いま封じ込めてやるから!」
ベアおばちゃんは一枚のカードをかざした。
「魔女封じの宝珠ね、そんなものでわたしは封じられないわよ」
「レアもののカードなのに……」
マユが指を鳴らすと、カードに火が点いた。
「うわ、アチチ……!」
ベアおばちゃんは、慌ててカードを手放した。カードは意思あるもののようにワンカートンのたばこの包みの上に落ちた。
「わたしは、魔女でも魔法少女でもなく、悪魔なの。マユはあくまで小悪魔です!」
たばこの包みがくすぶり始めた。
「サンチャゴじいちゃんには、すでに、精霊オンディーヌの呪いがかかっていて、目覚めることはないわ。その上ハバナたばこの煙……この煙を嗅ぐと仮死状態になって目の光りまで失ってしまうのよ」
「うそだよ、そんなこと。だったら、いっしょにいるミファたちも仮死状態になっちまうじゃないか」
「このたばこは、大人しか効き目がないのよ。だから子どもにだけ世話をさせてるんだわ」
マユは、そう言うと、くすぶるたばこに息を吹きかけた。煙はベアおばちゃんの顔を包み込むようにわだかまり、おばちゃんは、あっけなくくずおれた。
「そんなにサンチャゴじいちゃんの夢って、怖いものなんだろうか」
ミファが、ベアおばちゃんに毛布を掛けながら言った。
「怖いものじゃなくて、危ないものなのかもしれないわよ」
「……この目で確かめてみたい。この絞り込んだ瞳が見ているものを……でも、無理な相談ね。そのオンディーヌの呪いとかがかかっているようじゃ」
開け放たれた窓から汽笛が聞こえてきた。めずらしく大きな船が入港してきたようだ。
汽笛は、間をおいて二回鳴った。鳴るたびに、サンチャゴじいちゃんの目の光りは強くなっていく。
そして、偶然か、魔法か、坂道で吹き飛ばされたマユのストローハットが、窓から、フワリと小屋のテーブルの上に舞い降りてきた。
「じいちゃんを起こすことはできないけど、夢の中に入っていくことはできるわよ」
マユは、ストローハットを手に取りながら言った。
「行ってみたい!」
「どんな夢だか分からない。場合によっちゃ夢に取り込まれて出てこれなくなるかもしれないわよ」
「でも、見てみなくちゃ始まらないよ……お願い」
三度目の汽笛が、とどめのように鳴り響いた。
「わかったわ。じゃ、わたしの目を見つめて……」
そう言うと、マユはストローハットを逆さにした。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」
呪文と共に、マユとミファの体はどんどん小さくなって、逆さになったストローハットの中に収まった。
呪文は、さらに続く。
今度は、ストローハットそのものが小さくなり、浮き上がったかと思うと、サンチャゴじいちゃんの青い瞳の中に吸い込まれるように入っていった。
それは、巨大な青い渦に巻き込まれていくボートのようであった……。




