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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
33/118

33・フェアリーテール・7

小悪魔マユ・33

『フェアリーテール・7』 



「見て、白雪さんの寝顔」


「え……どうかした?」


 レミは戸惑った。エルフの王女でも分からない微妙な変化を、さすが小悪魔のマユは見抜いている。


「鬼になりかけている……」

「鬼に……?」

「体は動かないけど、ある程度のことは分かってるんだわ」

「白雪さ~ん!」


「やっぱり……」


「なにか、変化があったの?」

「わたしの目は、高速度カメラ並なの。百万秒の一秒の変化でも分かる。今、白雪さんは百万秒の二秒、目を開いた。とても悲しそうな顔でね……ね、もう日は落ちたかしら」

「うん。お日さまは、まだ名残惜しげに西の空を染めているけど、東の空は、もうお月さまが、宵の明星を従えて、現れている」

 レミが、東の空を指差した。

 マユは、念のため、二十メートルほどジャンプして、西の山にお日さまが居ないことを確認した。

「すごい。マユ、それだけジャンプできたら、オリンピックで金メダルだわよ!」

「人間だったらね。あいにくの小悪魔。オリンピックには出られないけど、今から白雪さんに魔法をかけるわ」

「え、どんな魔法!?」

「黙って。神経を集中させなきゃできないんだから」

「あ、ごめん」

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……我は求めん……」


 マユは、白雪姫の胸のあたりに手をかざし、呪文を唱え始めた。そして数十秒……。


「ああ、もう、やってらんないわよ!!」


 カワユゲな寝顔を、まるで九回の裏で、ゲッツーをとられ敗北した阪神タイガースの試合を観ていたタイガースファンのオバハンのような顔に変えて、白雪は目覚めた。


「し、白雪さん!」


「ほんとに、あのクソアニマ王子、いいかげんにしろってのよね!」


 白雪とは思えない物言いに、ただビックリのレミである。

「ね、だから言ったでしょ。鬼になりかけてるって」

「あ、あんたね。わたしを自由にしてくれたの。とりあえずありがとう……」

 マユに、簡単にお礼を言うと、白雪は棺から飛び出て、森を出ていこうとした。

「待って! 気持ちは分かるけど、その魔法は五分間しか効き目がないの」

「「え……」」


 レミと白雪が、同時に声をあげた。


「わたしって小悪魔だから、効き目が薄いの。でも、白雪さんは、アニマ王子にじらされて、このままじゃ鬼になってしまう。だから、五分間だけでも……」

「え、小悪魔? 魔法少女じゃないの?『月に代わってお仕置きよ!』とか決めて、サクサク解決してくれるんじゃないの? あ……そう……でも、ま、ありがとう。たとえ五分間でも起きることができて。レミ、ありがとう。毎日心配して見にきてくれてたんだよね。わたし、身動き一つできなかったけど。まわりのことは全て分かっていたのよ」

「毒リンゴを食べてから、ずっと?」

「ええ、継母のお后が、リンゴ売りのお婆さんから、元の姿に戻ったときは、このクソババアと思ったけど。その直後の、悲しそうな目は忘れられない」

「え、あのお后が、悲しそうな顔!?」

「うん、わたしも意外だったけど、継母は、わたしのことを憎んでなんかいなかった」

「だって、いつも鏡を見ては『世界で一番きれいな女はだーれ?』って、やってたんじゃないの?」

「違うの。本当は『世界で一番、この国を治めるのに相応しいのはだーれ?』ってやってらっしゃった」

「話がちがうよ……」

「自分の考えも、鏡の答えもいっしょだった。でも、国民の多くは、わたしが女王になるべきだと思っていた。でも、わたしは見かけ倒し。かわいいだけで、とても国の政治なんかできないわ」

「でも、毒リンゴで仮死状態にしておくなんて、あんまりだわ」

「継母さまは、それも、お考えになっていた。だから、いつか白馬の王子が現れて、わたしにキスをすれば、目覚めるように……それが、あのくそ王子!」

「アニマ王子のこと嫌いなの?」

「……いいえ、愛しているわ。最初に会ったときから……あの人の苦しみも、分かっている。でも、毎日来ては、わたしのくちびる一センチのところまで、顔を寄せては、ため息ついて帰っていくばかり。それが、もう九十九回もつづいて。もう一回、こんな目にあったら、魔法少女……いえ、小悪魔のマユさんの言うとおり、わたしは鬼になっていたわ……」

 

 白雪姫はさめざめと泣き始め、レミは、白雪をハグして慰めた。


「申し訳ないんだけど!」


 マユが、二人の間に割り込んだ。

「この魔法、五分しか効き目がないの。効き目が切れるまでに、対策を講じておきたいの!」


「「対策って?」」


 かわいいだけの白雪と、心配だけがイッチョマエのレミが、また同時に声をあげた。

「白雪さん。あなたのお友だちで、あなたぐらいにかわいくて、勇気のある女の子いない」

「かわいくて、勇気……ああ、グリムチームに一人いる!」

「だれ……!?」

 名前を聞いて、ちょっと心配になった。かわいくて勇気はあるけども、ちょっと若すぎる。しかし、時間がないので、マユは呪文を唱えて、そのかわいくて勇気のある女の子を呼び出した。


 魔法の煙とともに現れた、その子は、思ったほどには若すぎなかった……。



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