28・フェアリーテール・2
小悪魔マユ・28
『フェアリーテール・2』
昼休みの女子トイレ、その個室の中で、マユは、自分の体に同居している幽霊の浅野拓美と話をしていた。
小悪魔と幽霊の会話、それも同じ体の中にいるので、声を出しての会話ではない。
その奇妙な会話を聞いていた女生徒がいた……。
「あなた、小悪魔のマユさんね」と、正体を見抜いてきた女生徒が目の前にいる。
「う……何者!?」
「少し、お話がしたいの。いいかしら」
「じゃ、中庭かどこかで……」
マユが、ドアを開けようとすると、ドアはビクともしない。
「……なにをしたの!」
「ここからは出られないわ」
「どうして。ここ、あんまりお話する雰囲気じゃないと思うんだけど」
「そう、この時間帯、あまりロックもしておけないし」
「じゃあ、いったい、どこで……?」
「こっち」
その子が指差したのは、6番目の個室……。
「え……ここって、個室は5つのはず」
「黙って、付いてきて」
その子が、6番目のドアを開けると、他の個室と同じ便器があるだけだった。二人で入るといささか狭い。
「その便器のレバーを反対側に回して」
「わたしが?」
「うん、わたしは、このトイレをロックするのに力を使っているから」
「しょうがないあなあ……ん、動かないわよ、反対側には」
「人間の力じゃね。小悪魔であることを思い出して……早く」
「もう……」
マユが小悪魔の力を出して回すと、ガクンと一瞬の抵抗があって、レバーが回った。
ジャー、ゴボゴボと勢いよく、青い水が渦を巻いて流れだした。マユは一瞬トイレの洗浄剤かと思ったが、その水は、すぐに青い霧状になって、個室を満たしはじめた……個室の壁が消えて、空間が広がっていく。
その時、トイレのドアが開いた。
「なんだ、開くんじゃない。美紀、使えるよ!」
ルリ子が叫んだ。
「よかった、二階のトイレじゃ間に合わないとこ……ううう……漏れそう!」
美紀は一番手前の個室に入った。ルリ子は、洗面台の鏡を見ながら髪をとかした。すると、鏡に写っていた一番向こうの個室が一瞬揺らめいたように見えた。
「え……錯覚かなあ?」
ルリ子は、個室が一つ減ったような気がした……その不思議な思いは、美紀が流した水の音が弱まるのといっしょに消えていった。
青い霧がが薄らいでいくと、鳥の声や木々のそよぐ音で、そこが森の中であることが分かった。
「ああ、やっと落ち着ける……」
その子は、いつの間にかミニのフンワリしたワンピになっていて、まるで妖精のように見えた。
「さあ、自己紹介からしてもらおうかしら。取りあえず人間じゃなさそうなことだけは分かってきたけど」
「ああ、ごめんなさい。わたし妖精のレミ」
「あ、ドアーフ?」
「いいえ、こう見えてもエルフの王女」
「エルフ……にしては、背が低いわね」
「そう、これが問題……」
「そういうことなら、お医者さんかエステか、お父さんの王様にでも言う事ね」
「黙って。これは、問題のほんの一つに過ぎないの。それにエルフはお医者さんにもかからないし、エステも関係なし。お父様には、108人の王子と王女がいて、いちいち構ってらんないし」
「で、小悪魔のわたしになんの用?」
「あ、そう、用件言わなくっちゃね……その前に、ちょっと深呼吸させてね……」
「長い間、トイレに籠もってて、息が詰まった?」
マユの皮肉も無視して、レミは三回、深呼吸をした。
「あ、おまたせ。別にトイレのせいじゃないのよ。あそこはあのあたりで唯一のここへの出入り口だから。でもね、おちこぼれ天使がいるじゃない。雅部利恵って」
「ああ、あんたたち、キリスト教の世界じゃ否定されてるんだったわよね」
「そうよ、ハリー・ポッタだって迫害うけるとこもあるんだから」
「唯一神だもんね」
「そこいくと、悪魔はキリストの世界でも認知されてるし、迫害されてるって点じゃ、わたしたちと同じでしょ。そいで、わたしたちは、いろいろ相談ぶったんだけどね。なんとかまとまるかなあと思ったら、決まりかけたとこで、文句いう奴がでてくるし、ティンカーベルなんかね……」
「ああ、グチは、また暇なときに聞いてあげるから、用件を早く!」
「ああ、ごめん。実はね……」
レミは、マユの耳元で原稿用紙で1000枚分ぐらいの説明をした。しかし、マユは一瞬で反応した。
「……ええ、そんなあ!!!!」
小の字がついても悪魔である。本気で驚くと、半径50メートルぐらいの木々の葉っぱを吹き飛ばすぐらいの迫力がある。カワイソウに着替えたばかりのレミのフンワリワンピは引きちぎられてふっとんでしまった。
レミは、大あわてで、そこいらの落ち葉を集めて体にまとい、蓑虫のようになってしまった。
「で、どうかなあ、引き受けてもらえる?」
「ダメよ、わたしには、そんな時間の余裕はないわよ。なんたって……」
「おちこぼれ……」
「修行中だって言ってよ」
「はい、修行中」
「それに、わたしには拓美って、同居してる幽霊もいるし」
「あ、その人なら、眠ってもらってる。ほら、気配ないでしょ……?」
「……ほんとだ」
「それに時間のことも、ノープロブレム。ここでの一年はそっちじゃ十秒ぐらいにしかならないから。ここは、パソコンのファイルみたいなところ、全てのことが圧縮されてんの」
そう言うと、レミは腕を組んでニンマリと笑った。
これが、これからの物語のはじまりであった……。




