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私、乙女ゲームのヒロインでした  作者: 国枝 彩乃
学院編

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プロローグ

 白い床にレモンイエローのドレスが広がる。天井のシャンデリアの光に照らされて、ハナの緑の瞳が輝いている。

 目の前に膝をついているのは第二王子ウイレム。画面から抜け出したような、輝く金髪に白いジャケット。抜けるような青い目がハナを見つめている。差し出された手の上に婚約腕輪が乗っている。


「僕と婚約してください」

 その瞬間、周りが騒然となった。ハナは口元を手で押さえ声を絞り出した。

「ウイレム!」

 ああ、やった!これで成功だわ。やっと、やっと!

 

 溢れそうになる涙を堪え、手を伸ばして腕輪に触れた。ウイレムの体温が移った腕輪は生暖かい。

 これを得るためにどれだけ頑張ったことか。

「ええ、喜んで」

 

 周囲のどよめきなど聞こえない。ウイレムが立ち上がってハナの左手首に腕輪を滑らせ、そのまま抱きしめた。彼の胸に顔を寄せながら、安堵のため息が出る。

 

 最後の最後で。

 

 ウイレムの手が緩み、体が離れると、楽団が楽器を構えた。

「もう一曲お相手願います」

 二曲続けて踊るのは、配偶者か婚約者にだけ許される。ハナは満面の笑みで頷いた。

 数人の卒業生とそのパートナーたちがフロアに滑り出てくる。色とりどりのドレスが舞う。壇上に飾られた「卒業おめでとう」の文字。

 

 間違いない。これこそエンディングのシーンだ。

 

 最後のポーズを決めながら、ホールの端に立って待つ四人の攻略対象を確認する。

 

 大丈夫、みんな笑顔。誰も闇堕ちしていない。

 

 ウイレムに手をとられ、フロアから退いてビュッフェの方へ向かう。囁き声がさざなみのようについてくる。

「男爵令嬢と婚約なんて、ありえない!」

「礼儀もなってないっていうじゃないか」

 ウイレムが周囲に鋭い視線を投げるのを、ハナは袖を引いて止め、「大丈夫」と声を出さずに伝えた。ホールの端から四人の男たちが近づいて、周囲の視線を遮るように二人を取り囲んだ。

「おめでとう、ハナ!」

 制服姿のオットーが冷たい果実水を差し出した。

「気にしないで。みんな嫉妬しているんだ」

「ありがとう、大丈夫」

 気になんかならない、だって……。

 

 カラカラに乾いていた喉を甘い果実水が滑り落ちていく。腕輪に視線を落とし、顔を上げて満面の笑みでみんなを見回した。今日卒業する攻略対象たち。

「ウイレム、派手にやったな」

「うまくいってよかった。何度も予行練習させられたんですよ、我々」

「悔しいが、王子様には敵わないからな」

 みんな仲良し。闇堕ちの気配はない。

 ハナは腕輪に何度も触れて確かめた。

 本当に、これで間違いないよね。きっと大丈夫よね。


 卒業パーティを早めに抜け出し、攻略対象全員に送られて、寮へ戻った。

「ハナ」

 ウイレムがハナに向き直って手を取った。

「正式な婚約までもう少し待ってくれるか?父上も兄上も必ず説得する。身分が違っても、ヴァロネス博士の娘ならきっと大丈夫だ。遅くともハナの卒業までには公にする」

 ごめんね。きっと待ってはいられない。

「はい」

「おやすみ、ハナ」

「おやすみなさい」

 みんなに手を振って寮の中へ身を滑り込ませ、扉の閉まる音を確かめると、靴を脱いで階段を駆け上った。

 

 部屋の鍵を取り出すのももどかしく、中へ入った。

 灯りもつけず、月明かりの差し込む窓辺に駆け寄り、空を見上げて一心に祈る。

「神様、お願い!」

 五年間、長かった。寂しくても、辛くても我慢した。

「どうか、帰して!」


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