君と溶け合う昼下がり(sideエヴァン)
前回エピソードで割愛したシーンのエヴァン視点です
まだ外は明るい。
妙に静けさが落ちた室内では、二人の吐息が響いている。
エヴァンはメルティアの頬にそっと触れ、緊張したように強張らせている彼女の首筋にその手を滑らせた。
メルティアは僅かに身体を震わせ、ぎゅっと目を瞑る。
彼女の緊張を解こうとしたけれど、逆効果だったみたいだ。
だけど、なぜだろうか。そんな姿に何かが満たされる。
黙り込むエヴァンに、メルティアは恐る恐るといった様子で目を開ける。こちらを窺うように、口元を強く結んでいる様子にも、またエヴァンは満たされた。
けれど、焦ってはいけない。お互いに初めてだし、メルティアは女性だ。今のように緊張している様子も唆られるが、無理に進めて怖がらせるのは本意ではない。
大事に、大切に扱わないと。
僕の大切なお姫様なのだから。
エヴァンは、倒れ込むようにソファーへとそっと背中を預けた。そして、彼女の方へ腕を伸ばす。
「ねえ、おいで」
彼女の瞳が大きく揺れた。ほんのりと頬を赤らめ、躊躇うような仕草を見せたが、やがてゆっくりとエヴァンの腕に収まった。
エヴァンは満足そうに目を細め、彼女を腕いっぱいに抱きしめる。
彼は、無言のまま彼女の桃色の髪に触れた。
密着した距離に彼女の甘い香りが、鼻を通っていく。
もっとこの甘さに酔いしれたくて、彼女の頭に顔を埋めた。彼の手は依然としてメルティアの髪をさわさわと弄んでいる。
ただそれだけでも、彼女が自分の中に入り込んでくるような感覚を覚え、随分と長く触りすぎていたようだ。
不意に、彼女は身体を捩らせる。
「……くすぐったいです」
「ごめんね。でも、溶け合うには、このくらいで音を上げられちゃ困るんだけど。それとも…………やめる?」
エヴァンは、彼女の瞳を探るように、じっくりと覗き込んだ。彼女は一瞬目を逸らしたけれど、すぐに何かを決意したように視線を戻した。
「……本当にずるい人ですね」
「でも、好きでしょ?」
そう答えれば、メルティアは剥れたように、口をつぐんだ。けれど、それも一瞬だった。彼女はゆっくりとこちらへ顔を近づけた。
そして、小鳥のようにそっと触れるだけの口づけを落とす。恥ずかしくなったのか、彼女はすぐに顔を離してしまう。その様子を、エヴァンは食い入るように見つめた。
「……なんですか」
耐えきれない様子でメルティアは視線を逸らし、不満を口にする。けれど、その頬はほんのりと赤い。
エヴァンは、彼女の赤く染まった頬を、熱を確かめるような手つきで、不自然なほどゆっくりと撫でた。
「ううん。がんばってくれてるな、と思って。……じゃあ、いいよね?」
メルティアは小さく頷き、彼の身体に体重を預けるように寄りかかった。
二人はしばらくお互いの熱を確かめるように抱き合う。
やがて、エヴァンは身体を起こすと、彼女をふわりと横抱きに持ち上げた。
「ここじゃ、硬いでしょ」
メルティアは彼の首に腕を回す。エヴァンは、そのままゆっくりと執務室に備え付けられた簡易ベッドへと向かった。そこへ彼女を優しく寝かせる。
エヴァンは、彼女に覆い被さるように、ベッドへと乗り上げた。そして、躊躇いなく彼女に唇を重ねる。
さらに彼女へ身体を寄せ、距離を詰めた。
彼女のしっとりとした唇の感触にもっと触れたくなって、さらに深く口付けを落とす。
熱を帯びた吐息が直接顔に触れ、彼女からは、くぐもった声が漏れ出した。
窓からは明るく日が差し込む空間に、唇が重なり合う音と二人の呼吸だけが響く。
彼女の熱を感じるほど深く口づける。
それでも、胸の奥の渇きは消えてくれなかった。
僕は今まで王子として真面目に生きてきたつもりだ。彼女と過ごしていると、知らなかった自分に気づかされてばかりだ。それでも不思議と気分は悪くない。
今だってそうだ。飲み込めば飲み込むほどに、渇きは強まり、もっと求めてしまうのに、どこか満ち足りていく感覚に、のめり込んでいきそうだ。
高まる熱っぽさを振り払いたくて、エヴァンは首元のネクタイを緩めた。
不意に、彼女がくったりと力を抜いている顔が目に入った。
その瞬間、全身の血流が一気に加速し、エヴァンはシーツを強く握りしめた。
「……っ、ごめん。もっと触れたい」
彼女は、果実か何かなのだろうか。甘い香りに包まれていると、もっと近づきたくなってしまう。
今すぐ押し進めたい衝動に狩られ、エヴァンは唇を強く噛んだ。
このまま自分の衝動に任せて、彼女を押し切ることは簡単だ。
でも、まだだ、まだ足りない。彼女にはもっと安心してもらわないと。
僕は彼女に欲望をぶつけたいのではない。
彼女が自分と同じ気持ちになって欲しいのだ。
そう思うほど、彼女の小さな反応ひとつひとつが、どうしようもなく愛おしく感じられた。
徐々に、彼女の身体は力が抜け、時折漏れる声や見たこともない表情に胸が熱くなった。
さすがに熱が回りすぎたようだ。
「ねえ、メルティア……。もう少し、いい?」
「も、う……っ、聞かないで……っ」
彼女の反応は余計に、エヴァンの心をかき乱す。
それでも、彼女が自分で決めてくれることが嬉しくて。こんな場面でもつい彼女に尋ねてしまう。
この状況では、野暮だったかと反省したが、きっとこれからも聞かずにはいられないだろう。
「……エヴァンさま……っ」
彼女からは、懇願するような言葉と共に、吐息が漏れ出した。
これは、思っていたよりもまずい。気をつけなければ、彼女をひどくしてしまいそうだ。
「大丈夫。ここにいるよ」
彼女を優しく撫でれば、だんだんと力が抜けていくのを感じる。そのまま彼女の首を支え、唇を重ねた。
どれほどそうしていただろう。
メルティアは彼の胸元に縋るように腕を回していた。
「……辛い?」
彼女は小さく首を振る。
その答えに安堵しながら、エヴァンは彼女の髪をそっと撫でた。
彼女に負担をかけないように、自分を押さえ込むことで必死になる。
それでも気を抜けば、意識が吹き飛びそうだった。
目の前には、愛おしい人がいる。
さっきまで強張っていた彼女の表情も、今はずいぶんと柔らかくなっていた。
明るかった部屋は、もう薄暗い。
そこでは二人の吐息と甘い匂いが充満している。
この時の彼女と自分は、同じ景色を見ていただろうか。いや、そう思いたい。
こうして彼女と寄り添っているだけで満たされたはずなのに、それでもすぐ喉の渇きを覚えた。一度味を覚えてしまえば、要求は高まるのかもしれない。
エヴァンは自身を落ち着かせるように、深呼吸を繰り返す。
ふと彼女に目を向けると、いつの間にか眠っていたようだ。
無防備な姿に、胸がふっと緩んだ。
そして、汗で額に張り付いた彼女の髪を指でそっと払う。
「…………おやすみ」
――僕の大切な、大切なお姫様。
余計に、彼女とどろどろに境界がなくなるほど溶けたくなった時間だった。
実はムーンライトノベルズに完全版を投稿してます。
興味あればぜひ♡




