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15.味は完成しているんやが……

15.味は完成しているんやが……

 ――ピピピピッピピピピッ♪


「……うるさ……」


 ワイは“今日も”いつものようにスマホを止めた。


 時刻は朝の六時。 七月七日……金曜日……!


「……え、昨日の事……覚えとる……!」


 昨日は正直ちょっとビビった。

 また記憶飛んどったらどないしよかと思ったわ。


 軽く伸びをして、身体を起こす。


「おはよーございまッス」


 布団でだらけとるカコが、ポテチ片手に挨拶してきた。


「なんで朝からポテチ食うてんねん」


「昨日の夜食の残りッス」


「昨日の夜の事……、覚えとるんか?」


「当たり前ッスよ!

 おじさんと、真星先生のアニメ見ながらお菓子パーティしたッス!」


 良かった……。

 カコも昨日の記憶があるみたいや……。


「テレビつけてええか?」


「いいッスよ〜」


 リモコンを押す。


『――昨日、問題となっていた記録欠落の件ですが、政府は「現象は収束した」と発表しました』


「収束、ねぇ……」


 ワイはぼそっと呟く。


「まあでも、もう忘れないってことッスよね?」


「そうやったらええな……」


 ニュースは淡々と続いとる。

 ……まるで何もなかったみたいに。


 ……ほんまに終わったって考えてええんやろか?


 正直、まだちょっと気持ち悪さは残っとる。

 今日がたまたまだった可能性もあるからや。


「……ま、ええか」


 ワイは頭を振った。


「今日も軍資金稼ぎに行くか……!」


 ◇


 いつものように、ワイは息を切らしながら会社に着く。


「ザンテツ課長、おはようございます」


「おはよ、ミクちゃん。

 今朝は早いんやな」


 今日はちゃんとスーツやな。

 昨日のパジャマ姿が嘘みたいや。

 まぁ、ゆるふわのパジャマ姿は癒しになっとったが……。


「……体調、大丈夫なん?」


「はい、問題ありません!

 昨日はお騒がせしました!」


 いつものミクちゃんや。

 ……昨日の陰鬱な感じが嘘みたいや。


 自分の席に座る。


 パソコンを立ち上げて――

 自然と、あのフォルダを開いていた。


「……レシピ、残っとるな」


 六月五日から七月五日までの試作記録。


 昨日も見たはずやのに、

 なんか……気になってしゃあない。


「……ちょっと、やってみるか」


 ◇


 早朝の調理室は気合いが入る。

 なぜなら、期日がギリギリの時は、いつも始業前から試作を始めるからや。


 ワイはレシピを見ながら手を動かしていた。


「えーっと……これとこれ混ぜて……」


 正直な感情が漏れる。


「……何も覚えとらん」


 レシピがあって、手順も書いてある。

 ほなら、作れるはずや。


 ボウルに材料を入れて、混ぜて焼く。

 そして、冷やす。


 全部、“書いてある通り”にやっとるだけや。


 でも――


「……なんでこれで、成立しとるんや……?」


 途中で、何度も手が止まる。


 この工程、意味あるか?

 この順番、逆でもよくないか?

 そもそも、この組み合わせ……普通なら一緒に使わんやろ。


 理屈が、一個も繋がらへん。


 そして――


「……できた」


 ワイはフォークを手に取る。


「……まぁ、食えば分かるか」


 一口、食う。


「…………は?」


 思考が止まる。


 美味い……、ちゃんと美味い。

 甘さも、食感も、香りも――全部が成立しとる。


「いやいやいや……おかしいやろ」


 もう一口食う。

 やっぱり、美味い。


「……なんでやねん」


 声が、勝手に漏れる。

 どこがどう噛み合ってこの味になっとるのか、一切説明できへん。


 でも――


「……成立、しとる……」


 その瞬間……、ゾワッと。

 背中に、冷たいものが走った。


「……っ」


 空気が、変わる。


 調理室の温度が、急に下がったみたいな感覚。


 そろそろ夏やのにな……。

 いや、この寒さって、夏ならではの怪談で感じるあの……。


「……見られてる……?」


 なんでそう思ったんか、自分でも分からん。

 でも、確信だけがあった。


 “ナニカ”が、今これを見とる。


 ワイと、この意味不明なレシピから生み出されたデザートを。


 観察するみたいに。

 値踏みするみたいに。


「……なんやねん……」


 さっきまで美味いと思っとったもんが、一気に気持ち悪くなる。


「これ……あかんやつやろ……」


 直感や。

 これは、“作ったらあかんもの”や。


 世界のどっかにある“線”を、踏み越えとる感じ。


 しかもワイ、もう一回作れる……。


 レシピはあるから、何度も再現もできる。


「……はは……」


 乾いた笑いが出る。


「笑えへんて……これ……」


 その時やった。


 ほんの一瞬だけ、

 頭の奥に“ノイズ”みたいなんが走った気がした。

 言葉とか、音とか、そんなのやない。


「……今の、なんや……?」


 反射的に周りを見る。


「当たり前や……、誰もおらん」


 ただ、さっきより明確に分かる。


 “ナニカ”が、ワイを見とる。

 このデザートを見とる。


 ワイはゆっくり立ち上がった。


「なるほどな……」


 理由は分からんが、直感的にこう思った。


 これ……バレたら、あかんやつや。

 誰に、とは言わん。

 でも、誰かに“見られてる”時点で、もう遅いのかもしれへん。


 ワイは目の前のデザートを見つめる。


 さっきまで“成功作”やと思っとったそれは……、今はもう、“触れたらあかんもの”にしか見えへんかった。


「……ミクちゃん」


 ぽつりと名前が出る。


 昨日の様子、明らかにおかしかった。


「あの子……なんか知っとるな」


 このまま一人で抱え込むんは、無理や。


 それに――


「……ワイ、もう関わっとるやろ」


 知らんふりは、できへん。

 やってもうたもんは、しゃあない。


 だったら――


「……ミクちゃんに……聞きに行くか」


 調理室を出る直前、もう一度だけ振り返る。

 机の上のデザートは、何も変わらずそこにある。


 でも、確実に“ナニカ”を引き寄せとる。


「……ほんま、なんなんや、このデザート……」


 小さく呟いて、ワイは部屋を出た。

 その背中は、“ナニカ”に確かに見られていた。


 ワイはまだ知らん。

 自分が触れてるもんが、どれだけヤバい領域なのかを。

 そしてそれが――宇宙にとって、どれだけ“邪魔”なのかを。

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 ※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

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