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7話・エルフの村

「……なんか……思ってたよりショボいな……」

 暗殺者を殺し、ニクスの案内でエルフの村にたどり着いたカラスは近くの茂みの中でそう呟いた。

 エルフの村は簡単に言うならばツリーハウスの村、というところか。

 家自体は別に悪くはない。カラスが最初に住んでいたボロ小屋と比べれば遥かにマシだ。しかし、彼が造った屋敷には全く及ばない。

 それに、家の数もそこまで多くは無い。

 全体的に見て、少し寂しい印象を抱かせた。

 が、そんなことはこの二人には関係ない。

「さぁて、依頼者は誰だろーなー」

「……長老にあってみる」

「やっぱりそれが一番か~」

 カラスはそう言うと黒い霧に姿を変え……一匹の蝙蝠の姿に変身した。

「それじゃ、悪いけど案内よろしく!」

「……分かった。……ちなみに、なんで蝙蝠の姿でしゃべれるの?」

「…………わからん。魔法があるならこれくらい普通なんじゃないか?」

「……さあ?」

 そのまま数分、二人でなぜ喋れるのかを考え続けた。




「そういえば、その長老ってどんな人……エルフなんだ?」

 ニクスの案内でたどり着いた、他のものと比べて少しばかり大きなツリーハウス……の近くの茂みの中でカラスは問いかけた。

「……臆病な、老人」

「それは少しめんどくさいなぁ」

 彼らの目的は依頼者を見つけ出し、仇を返すこと。

 そのためには長老から、大事(おおごと)にしないように情報を聞き出さなければならない。と、いうことは、長老が一人でいるときに、気付かれる前に叫べないように口をふさぐ、あるいは気絶させる必要がある。が、臆病な者は警戒心が普通の者よりも強い。そして、ニクスは隠密系の魔法は持っておらず、カラスは持っていないことは無いが、そこまで絶対的な効果は無い。結果的に、このミッションの難易度は予想より高くなっていた。

「やっぱり寝てる時を狙うかな」

「……寝てる時こそ最も警戒しているかも」

「確かに。さて、どうするかな。」

「……あ。あれは?音を消す魔法」

「〈サイレント〉か?あれは束縛はできないから〈シャドウチェーン〉を即座に使わなきゃいけないし、魔法の鎖くらい対策されてるような気がするんよなー。うーん、やるならもっと斜め上の方法じゃなきゃな~」

 そのまま数分、頭を悩ませる二人。

 と、唐突にニクスが口を開く。

「……はあ。長老が人形みたいだったらもっと簡単なのに……」

「ハハッ。確かに。いっそのこと、本物の人形だったら〈シャドウボックス〉にいれら……ん?」

 とそこで彼は顎に手を当て考える。

(〈シャドウボックス〉には生きているものは入れられない。……本当にそうか?)

 彼は今まで死体や無機物は入れたことがあるが、生きているものは試したことが無かった。

 …………つまり、不可能とは言い切れない。

「……試してみる価値はあるか」

「……え?」

「〈シャドウボックス〉で落とし穴を作る!賭けだけどな!」

「……氷は準備しておく。」

「サンキュー。俺も〈シャドウチェーン〉を発動できるようにはしとく」

「……なら、家に忍び込む」

「了解」





(……それにしても、カラスは何者?どこから来た?)

 長老の家の梁の上でカラスを横目に見ながらニクスは考える。

 この数日間、何度も考えたことだ。

 明らかに人ではないカラス。しかし、魔物というには随分友好的。

 ただ、見た目が怪しすぎる。それに、一度も水を飲んだりという姿を見ていない。

 彼の話に出てくる故郷も魔境。サンダーバードやドラゴンがいる森なんてどこの地獄。

 さらに、彼は空を飛べる。その気になればこの森からの脱出なんて朝飯前。

 ——最後の疑問の答えは、「こっちの方が面白そうだったから」なのだが、ニクスは知る由もない。

 ニクスはこれらの疑問をについて考えていた。そしていつものように、

(……そんなことはどうでもいい。カラスは私にとっては良い人。これで十分)

 という思考にたどり着き終わる。

 考えてみればそれも当然だ。同族だからといって必ずしも害を及ぼす存在じゃないとは限らないし、魔物だからって自身に害を及ぼすとは限らない。至極当然のことであり、ニクスが身をもって知っていることでもある。

 カラスがどんな存在だろうと、自身に味方してくれるのならそれでいい、というのがニクスの考えであった。

 と、となりで天井に穴をあけ終わり、梁の上で寝っ転がっていたカラスが口を開く。

「ちなみに、長老ってどれくらいに帰ってくるんだ?」

「……わからない」

「やっぱり?」

「……うん」

「ま、しゃーないか。気長に待とう」

 そう言って目を閉じるカラス。

 仮面で顔は見えないが雰囲気を察したニクスも少し、肩の力を抜いた。





「……誰も……いないようじゃの……」

(今日はなんだか悪寒がするわい)

 村の中を歩く一人の老人は周囲を見回してそう呟いた。

 彼はとても臆病だ。いや、だからこそ村長の立場に着けたといえるかもしれない。

 彼はその警戒心の高さ故、今までに何度も魔獣や台風の接近に気づき、危機を免れた。

 そんな彼の勘が、数時間ほど前から危険を予感していた。

 何か強大な存在ににらまれているような……そんな悪寒が何度も走っていた。

「……いったい……何が起こるというのじゃ……?」






「おっせぇぇなぁあああああ!」

「……静かに」

 なかなか帰ってこない長老に、案の定しびれを切らしらしたカラス。

「なぁぁぁんでぇぇぇええ帰ってぇぇええ来ないんだよぉぉぉおおおっ」

「……勘が働いた?」

「最悪のタイミングで変な勘働きやがってぇぇぇ」

「……我慢して」

 声のボリュームを落として愚痴を言うカラスをニクスがたしなめる。

 しかし、ニクスもだんだんとなかなか帰ってこない長老に我慢の限界に達してきていた。

 なぜなら——もうかれこれ3時間は待っているからだ。

 結果、二人はかなり殺気立っていた。

「長老、長老、はぁあやく来いっ。長老、長老、はぁあやく来いっ」

「……たぶん離れていく」

「大丈夫だって。〈サイレント〉かけてるから音は無いし」

「……そうだけど」

「まあ確かに、バレそうではあるよなぁ。仕方ない、寝るかぁ」

 そう言ってカラスは再び目を閉じ……

「んっ?来たかっ!」

「本当!?」

「人間サイズの何かが近づいてきてる!長老か?長老だよな?長老だろ!」

「……そう願いたい」

「とりあえず、準備だけしとくか。」

 蝙蝠へと姿を変え、梁にぶら下がるカラス。〈シャドウボックス〉は自身の影を経由しなければならない。しかし、明らかに人の影が床にうつっていたら完璧に怪しまれてしまう。なので、彼は蝙蝠になり、物理的に梁の影と自身の影を同化させたのだ。さらに、もし発見されたとしても最悪大丈夫だ。

 そして数十秒後。

 扉を開けて、入ってきた老人は……

「〈シャドウボックス〉」

 一歩部屋に踏み入った瞬間、自身より明らかに小さい影に吸収されたかのように消え去った。

「どうだ!?長老か!?」

「……外で確かめる」

 二人は忍び込んだ時と同じように脱出すると、誰にも気づかれることなく村を離れた。






「な、なんじゃ貴様は!?それにそこにおるのは……コルではないか!?なぜこんなことを!?」

 村から離れたカラスとニクスは〈シャドウボックス〉から老人を取り出した。

「コル?誰だそりゃ?」

「なに?そこにおるのはコル・ノエルじゃろ?いや、そんなことはどうでもいい。いったいワシをどうするつもりじゃ!?」

 長老の言葉を聞いたカラスはニクスの方を向いて口を開く。

「あーっと、ニクス、とりあえずこいつは長老であってるか?」

「……うん。合ってる」

「それで?コルっていうのは?」

「……ゴメン。ニクスは、偽名」

「なるほどな~。で、どっちで読んだらいいんだ?」

「……好きな方で。……ありがとう」

「?お礼を言われるようなことはして無いだろ?それじゃ、短いしコルで呼ぶよ。で、お前は逃げようとするんじゃねぇ。〈シャドウチェーン〉」

「ぬわっ!?」

 二人が会話しているすきに逃げようとしていた長老を影の鎖が拘束する。

「さぁて、情報吐いてもらおうか。長老さんよ~っとその前に、〈ダミー・サーチ〉」

 そう唱えると、カラスの体を一瞬、黒いオーラが包んだ。

「〈ダミー・サーチ〉じゃと……闇魔法を使う人間など、前代未聞じゃ……いや、まさか貴様はッ⁉」

「あれ?この魔法知ってるのか?なら説明はしなくていいな。……ウソを言っても無駄だからな?」

 闇属性魔法〈ダミー・サーチ〉とは一言でいうなら「偽物を探知する」魔法だ。そしてその偽物には虚言、つまりウソも含まれる。よってこの魔法は噓発見器のような使い方もできるのだ。

 顔をさらに蒼白にさせた長老に向かって、頭の後ろで手を組んだカラスは口を開く。

「——この前、二人の暗殺者っぽい奴らに襲われてな~。話を聞いてみるとエルフの男に依頼を受けたって話なんだよね~。……で?誰が関係してるんだ?」

 最後の一言だけ、ニクス——コルさえも背筋が凍るほど冷たい声でカラスは言った。

 もう死人のような顔になっている長老は、ゆっくりと口を開く。

「……村の……コルを殺すべきだとする者たちの集まりじゃよ………ワシはその集まりの……頭のようなものじゃ……」

「へぇ~、今回の依頼に関わったのは何人?」

「……ワシを除けて…………7人じゃ……」

「よし分かった!ウソもないみたいだし、全員連れて来い!」

 まるで遊びに誘う子供のように、カラスは命令する。と、コルへ振り向いて尋ねる。

「——で、とりあえずは良いか?」

「……全部任せる」

「りょーかい。じゃ、行ってら」

 そう言って長老の〈シャドウチェーン〉を解くと、長老は逃げるように走っていった。






「長老⁉なんですかこれは⁉」

「くっそ!外れない!」

「コルっ!お前ぇ!!」

「誰だ貴様は!!この鎖を外せ!」

 数分後、カラスとコルの目の前には、長老含めエルフの男女8人が影の鎖に縛られていた。

 その前で、いつもと同じようにリラックスしているカラスがニヤリと歯を見せて笑い——顔は見えないが——、コルは眉一つ動かさない。

「安心しろって、一つだけ、やってもらいたいことがあるだけだからさ」

 明るい口調なのに、なぜかエルフたちは背筋に悪寒を感じていた。

 ——未来の悪夢を予感したかのように

「やってもらいたいことはいたってシンプル!——矢を避けるだけの[デスゲーム]、だ」

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