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6話・VS暗殺者

「この森の魔獣もザコイな~」

 自身の身長よりも巨大な熊型の魔獣から手刀を引き抜きながら彼はそう呟く。

「……そう」

 すぐ近くでは水色の髪と目を持つエルフの少女——ニクスが氷柱で違う熊にとどめを刺していた。

「なぁ、この森って強い魔物いないのか?いくらなんでも弱すぎだろ。俺がいた森にはドラゴンとかサンダーバードとかいたけどな。」

「……その森が異常。」

「……確かに。でもまあ、それくらいのほうが面白いけどな。」

 絶命した熊型魔獣二頭を氷漬けにするニクス。

 森への落下から三日目、本日の晩御飯用である。

 ニクスとはこの三日である程度の信頼関係を築けたと彼は思っている。

 彼が水魔法で手についた血を洗い流していると、ニクスがふいに口を開く。

「……ありがとう。」

「何で急に?」

「……こんなに大量のご飯は久しぶり。……()()()のおかげ。」

 カラスとは彼のことである。

 一日目にニクスに名前を聞かれ、本名は言わない方がいいかなと思い咄嗟に口にしたのがこのカラスという偽名だ。

 ——なぜカラスなのかは本人もわかっていなかったが、おそらく蝙蝠と同じ黒い翼から連想したのだろう。

「いやいや、魔獣の跡を発見してるのはニクスなんだし、俺はそんな大層なことはしてないと思うけどね。」

「……そう。でも、お礼は言う。」

「なら俺も礼は言わなきゃな。ありがとう。」

 実際、カラスもニクスに感謝していた。

 今のように瞬間冷凍をしたり、相手の動きを寒さで鈍らせたり、寝ている間のための簡単な警報機——鳴子のようなもの——を作ったり……

 魔法で氷魔法がないわけではないし使えないわけでもないのだが、彼の使える氷魔法は小さな氷を作り出すくらいしかできない。

 これは、氷魔法自体がほかの魔法と比べ難しく、あまり使ってこなかったのが原因だ。

 ということで、カラスの中でのニクスへの評価はそこそこ高くなっていた。

(ニクスのスキルは結構有能なんだよな。弱点とかあるの……か……な……あれ?)

 氷漬けの熊型魔獣を〈シャドウボックス〉に収納しながらニクスのスキルについて考えていると、二つの疑問が頭をよぎった。

「……なあ、ニクス。ちょっと気になったことがあるから聞いていいか?」

「……何?」

「俺がニクスと戦った時〈ヒートジェイル〉で閉じ込めただろ?その時に、妙に汗をかいてたのは何でなんだ?常に冷気を出してるのと何か関係があるのか?」

 カラスの言う通り、ニクスは冷気を放出し続けている。

 彼は種族として〈冷気耐性〉を持っている。なので、一回それを切ってみたことがあるのだが森自体は春から夏くらいの気温なのに対し、ニクスの周りは冬のようだった(それ以来〈冷気耐性〉を切ったことは無い)。

 それに、〈ヒートジェイル〉に閉じ込められたら確かに汗をかくだろうが、先程も言ったとおりニクスは冷気を放出しているためそこまで温度は上がらないはずだ。いや、していなかったとしてもあの汗の量は十分異常だ。

 という考えから生まれた疑問に対し、ニクスは口を開く。

「…………私の平熱はスキルの副作用でとても低い。冷気を放っていないと簡単に死ぬ。」

「なるほどね。強いだけのスキルじゃないってわけか。」

「……エルフにとっては最悪のスキル。」

「エルフにとってはそうかもしれないけど、俺にとっては結構便利だな~。」

「……ありがとう。」

「……ホントによく礼を言うようになったな。」

「……今までの人生分言ったかも。」

「いや何歳だよ。」

「……それは聞いちゃダメ。」

 静かに笑いあう。

 しばし和やかな空気に包まれる。

 ——が、それも長くは続かない。

「——な~んか近づいてきてるな。大きさ的に人、けどスピードが異常だから……」

「……エルフ」

「だろうな~。あれか?長老の依頼。」

「……多分。」

「隠れるか、それとも応戦するか、あるいは対話するか。」

「……隠れる時間は無い。対話も無駄。」

「じゃあ応戦しかないか。〈スラッシュアーマー〉」

 カラスの体を包むように、複数の魔法陣が展開し、溶け込んでいく。

「……これは、多重起動?」

「いや、めっちゃ連続で発動してるだけ。さすがに多重起動はできないな~。まあ、いつかは習得したいけどね。」

 会話をしながらニクスも自身の周りに氷柱を生成し、浮遊させていく。

 そうして準備が終わり、待ち構える二人目掛けて…………矢が3本、木々の間から飛んできた。

「〈ヒートウォール〉」

 が、これは避けるまでもなくカラスが生み出した炎の盾で灰となる。

 と、今度は二人の後ろから飛んできた。

 これもニクスが生み出していた氷柱が間に入り防がれる。

 その後も四方八方から飛んでくる大量の矢。

 しかし一本も二人に到達したものは無かった。

 が、カラスは我慢の限界に達していた。

「あぁぁぁぁぁぁっ!!もうっ!!チマッチマチマッチマじれったい!〈ウィンドカッター〉!!」

 カラスの右手に風の魔力が集まり、小さな竜巻のように渦巻いている。

 反射的にしゃがむニクス。

「全部切る!!」

 彼が一回転しながら手刀を振るう。

 そして、元の体制に戻る……が、何も起こらない。

 彼の右手に集まっていた風の魔力も、すでに消え去っている。

 魔法は不発だったと判断し安心したのか、木々の間で暗殺者の矢と思われる光が視界に入る。

 が、ニクスはしゃがみ続ける。

(……これで終わるハズない。)

 彼女は三日間一緒に行動し、彼に一定の信頼を置いていた。

 事実、ニクスの予想はある意味的中する。

「〈グラウンドバイブレーション〉!」

 そう彼が唱えると、周辺の地面が揺れた。

 揺れ自体はそこまで強いものでは無い。しかしその揺れによって……周辺の木々が次々と倒れていった。

 どの木も同じくらいの高さで折れて……いや、()()()いる。

「うわぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁ!!」

 倒れていく木々の中から二人の男の悲鳴が聞こえてきた。

 予想の斜め上を行った結果に呆然とするニクス……とカラス。

「……切れ味良すぎ。」

「いや、俺もビックリした。まさか切っても倒れないとは思わなかった……」

「……自分の魔法でしょ。」

「〈ウィンドカッター〉で木なんか切ったことは無かったからなー。」

「……私より驚いてる?」

「……多分。魔法がスゲーって改めて実感したよ。」

 と二人が話している間に、黒装束で身を包んだ暗殺者が二人、木々の下から這い出てくる。

「さて、あいつらどうする?俺は逃がすでも、今晩のおかずにするでも、どっちでもいいけど。」

「……逃がさない方がいい。」

「じゃあ、()るか?」

「……情報は一応取りたい。」

「了解。半殺しにするか。〈シャドウチェーン〉」

 次の瞬間、彼の影から二本の鎖が出現し、二人の暗殺者を縛る。

 必死に動こうとする暗殺者たち。

「抵抗するなよ。〈チェーンニードル〉」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

「があああっ!」

 暗殺者に巻き付いている鎖から小さい針が無数に生え、突き刺さる。

 殺すほどの長さは無い。が、十分なダメージは与える。

「……ホントに魔法は便利。」

「頼りすぎるのもよくないけどな。よし、情報取るか!」

 カラスは鎖で暗殺者二人を引き寄せ始める。

「「があっ!」」

「あっ、悪い。〈チェーンニードル〉解除してなかった。」

 〈チェーンニードル〉を解除して二人を勢いよく引き寄せ、片足で無造作に踏みつけた。

「どうやって情報を吐かせる?〈チェーンニードル〉連続発動するか?」

「……ってこの人は言ってる。素直に質問に答えるなら何もしない。」

「俺たちはこれでも暗殺者だ。何をされても絶対に喋らん!」

「そうだ!この化け物共が!!」

 暗殺者は禁句を口にしてしまった。

 ニクスはそこまでではないが、カラスは化け物という単語に少し……いや、かなりキレた。

「……いい魔法ってある?」

 だから、ニクスのこの質問で、容赦なくこの魔法を答え、発動した。

「最高のが闇属性にある。〈イモーションイレイス〉!」

 カラスが暗殺者の一人の頭に手を翳すと、手の先に生み出された魔法陣から黒い雪の結晶のようなものが無数に出現し、ゆっくりと暗殺者の頭に吸い込まれていく。

 その暗殺者からは、目の光が失われていき、表情が抜け落ちていく。

「う、うわぁぁぁぁ……ああ……あ……」

「おいっ!どうした!」

「大丈夫。アンタの仲間はもう苦しむことは無い。怒ることも、悲しむことも無い。」

「何言ってんだ!くそっ!返事をしろっ!大丈夫なのかっ!」

「…………ああ。何の問題もない。」

 そう発せられた声は、ひどく冷淡だった。

「よしっ、成功だ。」

 カラスが翳していた手を下ろす。

 その手に隠れていて、詳しくは見えなかった暗殺者の顔が露わになった。

 それはまるで、人形のようだった。

「ど、どうしたんだよ……どうしたんだよっ!?目を覚ませよっ!」

「どうもしていない。目も覚めている。」

「……今のはどういう魔法なの?」

「感情を消す魔法。怒りも、喜びも、全てな。」

 それを聞いた暗殺者の片方が肩を震わせながらゆっくりと口を開く。

「なん……だと…………それは……本当……なのか……」

「本当も本当。な、お前に感情は無いよな。」

「ああ。俺に感情は無い。」

 問いかけられた暗殺者(被術者)が淡々とした声で言う。

「ほらな。」

「……うそだ……俺は……信じない……ウソだ、ウソだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「うるさい!〈サイレント〉」

 プツリと絶叫が途切れた。

「……音を消す魔法?」

「大正解。さて、情報引き出すとしますか。」

 そう言って、表情一つ変えずに座っている暗殺者の前にしゃがみ、顔を覗き込む。

「質問に答えろ。答えない、あるいは嘘の答えを言った場合、命は無いと思え。」

「了解した。」

 暗殺者が了承したのを確認して、カラスは質問を始める。

「よし、じゃあ最初の質問。お前らはそもそも何者なんだ?」

「この近くの町の冒険者。」

「なるほど、じゃあ次。お前たちはなぜ俺たちを襲った?」

「依頼を受けた。」

「どこで?」

「ギルド」

「誰に?」

「エルフの男」

「どんな内容?」

「エルフの裏切り者を捕獲、または殺害。」

「その裏切り者の特徴は?」

「水色の髪と目の幼い少女の姿をしている。」

「なるほどね……完全にニクスだよな。」

 カラスは振り返りながらニクスに言う。

「……うん。……ね、戦闘起きたでしょ。」

「あ~、そんなこと言われた記憶があるな。で、他に聞いとくことある?」

「……無い。殺して大丈夫。」

「了解。〈ウィンドスラッシュ〉」

 カラスの手に魔法陣が生まれ、そこから発射された風の刃が何の反応も示さない暗殺者の息を止める。

「〈ウィンドスラッシュ〉」

 もう片方の暗殺者も風の刃でとどめを刺した。

 〈シャドウチェーン〉を解除したカラスはニクスに向けて、

「さて、行こうか。——エルフの村に。」

 と、まるで散歩にでも行くかのように言った。

「……どうして。」

「俺は恩は恩で、仇は仇でキッチリ返す主義なんだよ。今回は暗殺者だけじゃなくて……依頼主にも返しに行かなきゃな。」

「……なるほど。……協力する?」

「ん?」

 カラスは目を瞬かせる。

「あれっ?止めないのか?」

「……うん。……もう、情は残ってないから。」

 その声はカラスが初めて聞くほど冷たいものだった。

「了解。まあ、村を滅ぼしに行くわけじゃないしな。」

 そう言って、歩き出す彼。ニクスもそれについていく。

 と、彼は急に立ち止まるとニクスのほうを振り向き、口を開いた。

「ちなみに、ニクスは俺のことどう思ってるの?」

 ニクスはゆっくりと視線を落として言った。

「……分からない。」

「そうか。……あっ、あと案内よろしく!俺場所知らなかったわ。」

「……任せて。」

 歩き出すニクスの後を、カラスがついていった。

皆さんお久しぶりです。名無しのプラモデルです。

今回後書きをかいたのは、読者の皆様に謝罪をするためです。

言い訳になるかもしれませんが、私は小説を書き始めて半年にもならない未熟者です。

だからでしょうか、次々とこうした方がいいのではという案が浮かんでいき、すこし……いや、かなりの頻度で投稿済みのエピソードに少々修正を加えております。

出来る限り努力はいたしますが、何卒ご了承ください。

 ▲ ▼ ▲

……この話で森から出る予定だったのに……なぜこうなったのでしょう?

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