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5話・氷のエルフ

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~」

 彼は空を舞っていた。

 あの町はもう見えない。すでにかなりの距離を飛んでいる。

 地平線の向こうには太陽が……

「あれっ?俺、燃えてない?——ヨッシャァァッ!太陽に勝ったぞぉぉぉぉぉ!」

 歓喜の声を上げる彼。そのまま、森へと落ちていく。

「ヤッバ!〈ダークバリア・フルシールド〉!」

 黒い球体に包まれる彼。そして、木を何本もなぎ倒しながら地面に埋もれた。

「め……目が回るぅぅぅ。」

 ふらふらとバリアから出てくる彼。

 周りを見渡すとなぎ倒してしまった木々に、えぐれた地面。

「まあ、しゃーない。……行くか。」

 彼は渋々歩き出した。






「なんか嫌な予感がするな。〈ソナー〉」

 数分歩き続けたところで彼は立ち止まり魔法を発動させた。

 風属性と水属性を組み合わせたこの魔法で半径600m内に存在するものを調べる。

 すると、彼がこの森に落ちた地点へ移動する複数の物体を察知した。

「嫌な予感しかしないな。……変身するか。」

 次の瞬間、彼の体は黒い霧となる。それがだんだんと形を変えて、一匹の蝙蝠となった。

(これで安心だな。)

 彼は木々の間をスイスイ飛んでいく。

 何者かが足跡を発見してもこれで大丈夫。なにせ途中で消えているのだから。

(にしても、いったい何だったんだろうな~。)

 大きさ的に人のようだったが、スピードが異常だった。

 確かめたいという好奇心に駆られたが、やめておく。

 町で追いかけられた記憶が脳裏をよぎったからだ。

(二度とあんな目には遭いたくないね。怖いし。)

 彼は少し速度を上げる。

 面倒なことになりそうな予感がしたからだ。

 そしてそれは的中することとなる。

 突如として氷柱が飛んできたのだ。

(ギャァァァァ!〈エアブースト〉!)

 魔法で速度を上げ、回避する。

 氷柱はそのまま木に刺さり、一瞬で木を氷像へと変えた。

(うわ~、怖い怖い。……で、いったい誰だ?)

 氷柱が飛んできたほうに継続中の魔法を使い高速で飛翔する。

 その先には——水色の髪と目の、尖った耳を持つ小さい少女がいた。

(……こいつか。とりあえず〈ウォータースラッシュ〉)

 彼は高速で飛び回りながら水の斬撃を放ってみる。

 それは少女に命中する直前、氷の壁に防がれた。

(魔法……いや、魔力を感じない。()()()かっ!)

 思案してる一瞬にも少女は氷柱を何十本も放ってくる。

 それらすべてを余裕で避ける。

(ん?そもそもなんでこいつ、俺を攻撃してくるの?〈ファイヤースピア〉)

 炎の槍を作り氷の壁に穴をあけるが、少女の足場が上がるように氷の柱が出現し、避けられる。

 と、そこで彼は気付く。

(あっ!俺が蝙蝠の姿してるからか!)

 魔物の姿してたらそりゃあ攻撃もしますわと納得した彼は変身を解き、黒髪黒目の姿になる。もちろん仮面付きで。

 驚愕に目を見開く少女。

「——驚かせたな。とりあえず、話を聞いてくれると助かるううっ!?」

 言葉が終わる前に、我に返ったかのように氷柱を飛ばしてきた。

「何でっ!?」

 連続して打ち出される氷柱をギリギリで避け続ける彼。

 彼はかなり困惑していた。

(えっ?蝙蝠だったのが問題だったんじゃないの?あれっ?)

「……誰に依頼されたの?」

 少女が冷たい声で尋ねる。

 その声には少しの恐怖と大きな怨みがこもっていた。

「はっ?依頼?誰に?」

 が、彼がそれに気付くことは無い。

 なぜなら四方八方から氷柱攻撃を受けているからだ。

 彼の脳のは攻撃への対処と少女の疑問の処理で限界だった。

 一方、少女は、

「……長老たちの依頼じゃない?……あなたは誰?」

「知らずに攻撃したのかよ!!」

 この瞬間、彼は少しキレた。

「〈ヒートウォール〉!〈ヒートジェイル〉!」

 次の瞬間、彼の目の前に円盤状の炎の盾、少女を囲むように炎の檻が形成された。

「っっ!?」

 慌てて氷柱を飛ばす少女。

 しかし、すべて炎の檻と壁に防がれる。

 氷の壁を作り出して檻を破壊しようとするも全て溶かされる。

 空気中の水蒸気を冷やして大量の水を檻の上に作るも、すべて蒸発する。

 少女の顎からは、異常なほど汗が滴り落ちていた。

 少女は戦闘では何物にも負けたことは無かった。

 しかし、化け物と呼ばれたこともある自分が手も足も出ない状況にある。

 少女は理解した。

 ——自分の目の前にいるのは本当の化け物だと。

 理解し、恐怖した瞬間、その言葉は自然と口からこぼれていた。

「……ご……ご……」

「ん?」

「……ごめん……な……さい……」

 少女の口から謝罪の言葉が発せられた瞬間、彼の怒りは完全ではないが静まった。

 彼は基本的に謝ってもらえればそれでいいと思っている。

 だが、吸血鬼の体じゃなければ死んでいた可能性が高かった。

 しかし、客観的に見れば蝙蝠に化けていた自身にも非はある。

 それに、この少女はこれからもっと強くなるだろう。ならば、恨みを買ったり殺したりするのは得策ではない。

 さらに、おそらく彼女はこの森に棲んでいるエルフ。俺はこの森のことを全く知らない。

 ——という思考を1秒未満に済ませた彼は少女に告げる。

「謝ったことは褒める。けど、それですべてを許すことはできない。」

「……。」

 少女は静かに続きの言葉を待っている。

「だから、この森を適当な出口まで案内してくれ。それで100%水に流す。」

「……えっ?」

 少女は拍子抜けしたような声を出した。

 彼は続ける。

「いったいなんて言われると思ったのかは知らないけど、俺はこの森のことを知らない。それに、余計な恨みはめんどくさいから買いたく無いんだ。だからこの森を案内してもらうのが最善だと考えたんだよ。」

 そう言って彼は魔法を解く。

 少女は氷柱を飛ばしたりはしなかった。

 しかし、彼に警戒を解くことは無かった。

(ま、当然だよな。)

 彼は自分が少女にとって脅威であることも、人間ではないとバレていることも理解していた。

 しかし、少女に配慮するつもりは毛頭なかった。

 理由はただ一つ。面倒くさいからだ。

「それじゃあ、案内よろしく。……えーーっと」

「……ニクス」

「オッケー。案内よろしく、ニクス。」






「そういえば、なんでニクスは蝙蝠の俺に攻撃したんだ?」

 歩き出してから数分後、彼はふと思い出してそう尋ねた。

 少女は数秒考える素振りをした後、口を開く。

「…………今日の晩御飯に、しようと思った。」

「えっ!?蝙蝠を?ご飯?」

 少女は無言で首を縦に振る。

「えっと、じゃあ俺が人の姿に戻っても攻撃したのは?」

「……敵かと思った。」

「敵?」

 彼はその吸血鬼の多分高性能な脳をフル回転させる。

(わざわざ小さい蝙蝠を食べる……食に困っている?……よく見たらローブもボロボロだし、髪も汚れてる……吸血鬼の俺よりも長くとがった耳……おそらくエルフ……だとしたら俺がソナーで捉えた複数の影も……ニクスだけ一人でいた理由……長老の依頼……森で暮らす……氷のスキル…………そういうことか!)

「ニクスが一人であそこにいて、なぜ人の姿の俺を攻撃したのかわかったよ。」

「……明らかに人でもエルフでもなかったから。」

「あっ、それもあるか。でも、それだけじゃないだろ?」

「……分かったとしても、言わないで。」

「……了解。」

 恨みは買いたくないので素直に従う。

 再び無言で歩き続ける二人。

「ちなみに、あとどれくらいで森から出られる?」

「……五日くらい。」

「五日!?……思ってたより掛かるな。面白いことがあればいいんだけど。」

「……戦闘なら、すぐに起こると思う。」

「……いろんな奴とな。」

「……参加するの?」

「戦闘狂ってわけじゃないけど、参加はする。見ているだけよりも面白そうだし。」

 その会話を最後に、この日はもう話すことは無かった。

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