居場所
「これは、、、予想以上だな」
端末から顔を上げ、パイプが張り巡らされた機庫の天井を仰ぎながらテオは呟いた。
「造形、装甲、内部機構、そして武装、、、どれを取っても王国にはない技術だ」
テオが見ていた端末は、目の前に佇む黒騎士には繋がっていない。本来解析機器を取り付けるべき場所に対応しなかったからだ。結局アリスが過去に解析したというデータをもらうことになった。ちなみにどうやって解析したのか聞いたところ「機体の内部システムに入って直接データを抽出」したらしい。
「やっぱり型式番号が腑に落ちないな」
「型式番号、ですか?」
そばでぼんやりとアーサーを見上げていたアリスが振り返る。
「うん、王国のタイタンは基本【所属】【戦闘スタイル】【機体名】をそれぞれ1字ずつ当てて、その後に世代の数字を入れるのが一般的なんだ。そうしないと王国のデータベースに載らない。完全に個人用のタイタンなら自由に名前はつけていいけど、王国からの部品支給とかもなくなっちゃう」
そしてアーサーの型式番号は【KA-00】。所属番号がない。
「王国所属じゃないにしろ、番号がないってことは逆に『無所属』を宣言していることになる。しかも【-00】。『前身もなければ後継機も造らない』というね」
「...」
「ユウジはなぜこれに乗っているんだ?そもそも...ユウジと君はなんなんだ?」
いつもは無表情な青い瞳が、少し揺れている。
しばらく沈黙が流れたあと、テオはふっと笑って目を逸らした。
「なんてね。答えたくないなら別にいいよ」
「いや、そういうわけでは...」
「いいよ。色々事情があるもんね」
「...はい。ただ、お渡ししたデータは全部本当です」
「お、それは嬉しいな」
「...」
なおも瞳が揺れるアリスを見て、テオは少し考えてから言った。
「ここってさ、試験に受かれば誰でも入れるんだよ。身分も過去も、ここでは関係ない」
揺れが小さくなる。
「その人がどんな人かは、タイタンを見れば大体わかる。ただタイタン好きがタイタンに乗って、好きなことをやる。そうして新しいものが生まれていく。そういう場所なんだよ、ここは」
語り終わったテオは、真剣な目で見つめてくるアリスに少し恥ずかしくなった。─もう揺れてない。
「って言っても、今のはほとんどセリアの受け売りだけどね」
「姉様の、ですか?」
「...その姉様呼びもすごく気になるけど」
テオは少し目を細めた。
「ヴァンガードは昔は結構入学費が高くて、それなりにお金がある人じゃないと入れなかったらしいんだ。それがロドリク学園長─セリアのお父さんが学園長になってから完全無償化した。『原石はどこにあるか分からない。王立というからには、どの石にも磨く機会を与えるべきだ』って言ってね」
プライマリーの授業でこれを知った時のセリアの興奮した顔は今でも覚えている。
「それからセリアは僕に、学園長の演説がある度にその内容を僕に言ってくるようになった。同じことを何度もね。セリアはそれまでも学園長が大好きだったけど、誇りに思ってるんだろうね」
「なるほど...」
「感謝してる人はいっぱいいるよ。僕だって昔だったらヴァンガードに行けたか分かんないし」
「...そうじゃない人もいるんですか」
「はは、鋭いね」
テオは笑ったが、その目は真剣だった。
「学園長は王族とは言ってもかなり遠い。そして今の国王はあまり学園長の方針を快く思っていない」
脳裏にセリアの顔が浮かぶ。
「表には出してないけど、セリアもどこか思うところがあるんだと思う」
「...全く気づきませんでした」
「だろうね。僕にも言わないんだから」
アリスは少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「...王国の内部情勢はよく分かりませんが、私は今の学園の姿勢を支持します。おそらくは、ユウジも」
テオはその言葉に少し驚いたが、すぐ笑顔に戻った。
「...嬉しいね」
「そういえばヒバリスは姉様のためにテオが作ったんでしたよね?」
テオが心行くまでアーサーを見終わったあと、アリスが言った。
「うん、そうだよ。見たい?」
「ぜひ」
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《解析ログ》
【ヒバリス】
〔型式番号〕
SMH-01/ヒバリス
〔全長〕
11.0m
〔重量〕
10.1t
〔装甲〕
ラジエリウム複合合金/適応フレーム
〔武装〕
・ラピッドスピア
スピアヘッドを改良し、出力を維持しながら更なる精度向上と射撃速度上昇を実現
〔付属機構〕
・多層展翼ブースター
背部及び腰部に付属するブースター群/4基のブースターが独立して稼働し、急上昇や滑空を含めた空中機動を実現
・フェザー・ハーベスター
左肩に搭載されているラジエル回収装置/戦闘空間中に残留しているラジエル粒子を付着させ、自機に回収することで機体、武装のエネルギーを回復。より長期の戦闘を実現
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「綺麗、ですね」
「綺麗?」
「はい。デザインもそうですが、オリジナルの機構なのに細かいところまで丁寧に造られています。パイロットのことをすごく考えていることがわかります。その思いが綺麗だなって」
セリアそのものをイメージして造った、なんて口が裂けても言えない。イメージして造ったのが「綺麗」だなんて。そんなの、まるで...
「大切、なんですね」
「あ、うん...まぁ、ね」
ってちょっと待て僕今なんて言った!?大切って...
「おぉいたいた!おーい!」
と、その時機庫の入り口の方から声が聞こえてきた。下を見ると誰かが手を振っている。服装から見るに教員だろう。
「どうしました?」
「学園長がランス隊を呼んでいる!他のメンバーはもう向かったから、君たちも学園長室に行ってくれたまえ!」
「分かりました!ありがとうございます」
テオは端末をヒバリスから取り外し、元ある場所に戻した。
「じゃあ行こうか」
デッキから下りる階段に向かい、アリスも後から続く。
「学園長が何の用でしょう?」
「さぁ?単なる挨拶かもよ?」
機庫の扉を閉める時、テオは自分が少し残念がっていることに気づいた。─そうか、僕は誰かと一緒にタイタンについて話せるのがこんなに嬉しかったのか。そんなことを思いながら、テオは学園長室へと歩き出した。




