端境
「それで...ユウジ、少し聞きたいことがあるのだけれど」
時間が昼時より少し遅いせいかあまり人がいない食堂。ランスメンバーの4人が席を囲んでいると、リネットが向かいのユウジに向かって切り出した。
「なに?」
「私の最後のあれ...『ラジエルを切った』って言ってたけど」
「えっと、詳しくは俺も...」
「いえ、それはいいの。そのあとの話よ」
「あと?」
「あなたが切った場所から私の背後までどうやって移動したのかしら?あの距離をあのままのスピードでは辻褄が合わないわ」
「俺も見てたが、確かにいきなり後ろに現れたって感じだったぜ!」
すでに皿を平らげたドレイクもリネットの横から加わる。
「あぁ」
ユウジが納得したような顔で答えた。
「縮地って呼んでるんだけど。機体内部のラジエルの循環を、暴発しない程度に高めるんだ。そしてそれを瞬時に解放すると、一瞬だけとんでもない速度で動ける。本来は止まってる状態からやるんだけど、今回は一旦ターボで初速をつけてからやってみたんだ。その慣性もあって瞬間移動みたいの見えたのかな」
「ほー、なるほどなぁ」
「内部循環を暴発しない程度...あの機体もだけど、あなたも相当ね...」
「ねー『かんせい』ってなぁに?」
難しい顔をしていた2人は、一人だけぽかんとしているセリアに思わず頬を綻ばせた。
全員が食べ終わり、食器を片付けて食堂を出ようとすると、入り口で想定外の人物と出会った。
「ああ!虫の知らせでふと食堂に来てみれば、セリア嬢ではないか!なんたる奇跡、やはり天は我々を導いているのだ...!」
体をくねらせ、長めの金髪を靡かせているのは、、、
「オスカー?しかもその制服...」
オスカー=フェルメールその人であった。しかもヴァンガードの制服を着ている。スタイルと顔も相待ってなかなかキマっているのだが、、、
「ぬ?貴様は...決闘した小僧ではないか」
この性格が玉に傷だ。てか負けても小僧呼びなのね。
「なぜ貴様がまたセリア嬢と...セリア嬢はたしかランスに選抜されたはずでは!?」
そこまで言って、オスカーはユウジの後ろのリネットとドレイクに気づいた。
「も、もしや、、、」
「そのもしやだ。俺たち4人がランス。あと2人いるけどね」
それを聞いてしばらく黙っていたオスカーだが、口を結んでユウジを見据えた。
「くっ、、、貴様の実力は認めてやろう。だが自惚れるなよ!セリア嬢の側にいるのは私なのだからな!」
うん、なんでそうなる?
「どういうことだぁ、こりゃあ」
ドレイクがたまげたような声で言う。
「まぁよく分からんが、名前だけ言っておくか」
そう言ってドレイクが前に出た。
「よう、俺はドレイク=アイゼンってもんだ。あんたユウジと知り合いのようだが、名はなんていうんだ?」
「オスカー=フェルメールだ。ドレイク=アイゼン...その名は少々聞いたことがあるな」
オスカーが訝しみながらも名前をかわす。と、その視線が横のリネットに移った。
「む、そこのレディ、どこかで会ったことはないか、、、?」
「え?」
ユウジは驚いた。しかしリネットの首は横に振られた。
「いえ、お会いしたことはありませんわ」
「そうか、、、社交会で見た気がするのだが、、、」
社交会?
「あぁ君たちここにいたのか!」
まだオスカーがリネットの顔を見ながら唸っていると、食堂の入り口から教員らしき人が入ってきた。
「ランス隊、学園長が呼んでいたよ。学園長室まで行ってくれたまえ」
「お父様が?」
それまで黙っていたセリアが顔を輝かせる。ちょうどよく逃げる口実が見つかったという顔だ。
「なっセリア嬢、もう行ってしまうのかっ!」
そりゃあ変態貴公子よりもお父様を優先するでしょうよ。
「そういえばオスカー=フェルメール、セルのメンバーが探していたぞ」
さらに教員からも追撃が入る。
「早く戻ってやれ」
「くっ...了解した。おい小僧、しばしセリア嬢はお前に預ける!」
「はいはい」
ユウジは笑いながら食堂を出ていくオスカーを見送った。
「それじゃあ俺たちは学園長室に行こうか。とその前に機庫にいる2人を呼んでこないと」
「では私が呼んでこよう。君たちは先に学園長のところに向かってくれたまえ」
「ではお言葉に甘えて」
そうして機庫の2人は教員に任せ、ユウジ達は食堂を出た。
「お父様、なんの用事だろう?」
先頭を歩きながらセリアが言う。
「さぁ、分からないな」
答えながらユウジはさっきのオスカーとリネットの会話を思い返していた。
「なぁセリア、オスカーが言っていた社交会ってなんだ?」
「貴族たちが集まる集会のことだよ。家同士の小さいのから有力貴族たちの大きなものまで色々あるけど」
「ってことはオスカーは貴族だったのか!?」
「そうだよ」
一応本当の貴公子だったってわけだ。
「貴族なのにタイタンに乗るのか」
「タイタンの実力で成り立っている貴族もいるし、戦闘はせずに操縦だけってのは結構いるんじゃない?それでもヴァンガードまで行く貴族ってのは聞いたことがないけど」
なるほどね。
それにしてもあの時リネットの表情が一瞬こわばったように見えたのは気のせいだろうか。口調もいやに丁寧だったし。単に初対面の人にはそうしてるだけかもしれないけど。
振り返って後ろのリネットの顔を伺う。いつも通りの無表情。まだまだ分からないことは多いが、模擬戦を経てその実力は十分分かった。
「...なに?」
リネットに怪訝な顔をされ慌てて前を向く。
「あぁいや、なんでもない」
これから少しずつ分かっていけばいいか。ユウジはそう思って、歩を進めた。




