初陣 後編
「アーサー、もう一度仕掛ける!」
さっきと同じようにターボで接近する。
が、今回は正面からではなく、左から回り込むように近づいていく。
マーナガルムも警戒しているのか、こちらが潜り込めないよう姿勢を低くしている。
.....それも計算済みだ!
大剣を右手だけで持ち、左手のノズルをマーナガルムの紅い瞳に向ける。
「当たってくれよ!!」
〈ラジエルシュナイダー 射出〉
ノズルから粒子が溢れ出し、短剣の形を作る。
それをマーナガルムの瞳目掛けて発射した。
グァァァァ!?
苦しそうな呻き声と共に、鮮血が宙を舞うーのと同時に、怯んで皮膚があらわになった首元にアーサーが大剣を突き刺した。
グルァゥゥゥゥ.......
ズシィィィン!.....
大きな雄叫びと共に、マーナガルムの巨体が崩れ落ちた。
「.....やったか?やったんだな?」
心臓はまだバクバク言ってるが、目の前の黒い山が動くことはない。
「勝った......」
.....よっしゃ!!
実際に自分が戦うのは恐怖が半端なかったけど、なんとか勝ったようだ。
『大丈夫ですか!?』
倉庫から少女が駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ。俺も、アーサーも」
コックピットを開けて答える。
『そうですか....よかった...』
アーサーが跪き、手を俺の前に差し出す。
そこに乗るとゆっくりと俺を地面に降ろした。
.....やっぱこいつ自分で動くんじゃね?
いや、まだパイロット降機時のプログラムかもしれない。
『それにしてもこの機体.....そしてあなたは一体....?』
「いやー、俺だってわかんないよ!なんか乗ったら勝手に出撃して、思った通りに動いてくれたんだ。」
『「勝手に」ですか...「行くぞ!アーサー」とかノリノリだった気がしますが.....』
ジト目で見てくるが気にしないことにする。
『何はともあれ、無事でよかったです。マーナガルムは本来国を挙げて討伐するような機獣ですから』
そんなやばいやつだったのか....
おいアーサー、お前もしかしてめっちゃ強い?
振り返って見上げてみるが、青く光る瞳以外無機質としか感じられなかった。
『そう言えばまだお名前を聞いていませんでしたね』
あぁ、そういえば。この世界に来てからタイタンやら機獣襲撃やらでゴタゴタしていた。
佐藤優二、と答えようとしたが思い直して、名前だけ伝える。
「ユウジ。俺の名前はユウジだ。」
この世界ではユウジとして生きていこう。
『ユウジ...わかりました。これからはそう呼びますね。』
そう言って話を畳もうとする少女に声をかける。
「えちょっと待って。君はなんて呼べばいいの?」
『私たちには名前はありません。その必要もありませんから......』
答えた少女はどこか寂しげな様子だった。
「でもなぁ、名前ないと結構不便だからな。......俺が考えてもいいかな?うーん....アリス、とかどう?」
少女が一瞬目を見張ったようにも見えた。
『アリス......私の名前.....』
そう呟く。
『いいですね。ありがとうございます。』
「よし、お互いの名前もわかったところで、これからどうする?」
『そうですね...まずは機獣の後処理と施設の補修、その後にこの機体の解析でしょうか。』
「わかった!俺も付き合うよ」
背後で待機状態のアーサーを見上げる。
「騎士王...か....。なんか面白そうな機体だな!」
前世の癖で機体名から背景などを妄想してしまう。
そんな俺の後ろで、アリスが一人で何か呟いていた。
『....なんなんでしょう.....この、なにか体の中心のあたたかいものは......』
ーーーー
機獣襲撃というハプニングは一見収まったかのように見えた。
しかし、倉庫横の木の上から赤く光る2つの目に、誰も気づかなかった。
ヴァイスリルーー鷹の獣、スカイルを元にした機獣だ。
そしてダルカス森林の奥地、マーナガルムの巣穴。
主がいなくなったその洞窟に、ある人影があった。
その目が見つめるモニターには、ヴァイスリルの瞳に映るのと同じ景色が映されている。
「......へぇ」
人影はポツリと呟く。
「こんなモノを作ったんだぁ、兄さん」