251.
燐は1人湯にいた。恋愛から遠ざかっていた分、惚れやすくなってるのかもと悶々とする。
「いや、危なかった。うっかり惚れたのかと思ったわ」
一緒に暮らして寒さに添い寝をしてもらい、常に気にかけてもらっている自覚があってグラついていたところに、滝に言われ完全に意識してしまった。
「こうやって疑似恋愛に嵌まるのかもしれない…チョロい自分が怖い」
優しい言葉をかけて、気遣い、その気にさせる。友人に聞いたことのある行動。
完璧当て嵌まってる
それは、完全にホスト。「分かってて楽しんでいるから良い」という友人と違い、無意識だったと思いながら顎先まで湯に沈む。
「誰でも良いのかよ私。…色々弱ってるのかも」
人は孤独感から恋愛したくなると聞いたことがあると、燐は顔を顰めた。
「恋愛…んー、」
佐助が好きなのか?だが、先程の師匠の行動にもぐらついた事実。自分の気の多さに欲求不満なのか?と行動を分析する。
「不満だったら、スマホ見れないし仕事も娯楽も無いしって方かなぁ」
暇だから周りに気が行って、勝手に意識してるのかと思い至った燐は、明日から何か趣味でも探そうと湯から出た。
「お風呂ありがとうございました」
部屋に戻った燐は重い空気に眉を寄せる。
「おう、あれなんつぅ飯だ?」
「たまご餡掛けです」
綺麗に洗われた鍋を指した白雲斎に、祖母が寒い日良く作ってくれたと思い出しつつ告げた。
「ありゃいーな」
「ご飯にかけても美味しいし、今度葱いれますね」
白雲斎の言葉に頷く佐助。2人とも気に入ったんだと笑みを返し、地図を挟み座る2人に背を向け座り、囲炉裏の火にあたる。
「寒くねぇ?」
「あ、ありがとう」
タオルで髪の水気を拭く燐の背に佐助が羽織を掛けると、ぎこちない笑顔で振り向き見上げる燐。
「ほれ乾かしてやるから少し身支度整えろ。頭巾が来るぞ」
身支度?と首を傾げる燐に白雲斎が続けると、燐は急いで自室へ走った。
「別に呼ばなくてもさ。煙がありゃ話しは出来んのに」
燐の態度に露骨に不機嫌になる佐助。んな顔すんならさっさと手に入れりゃいーのにと白雲斎は佐助を見る。
「何?」
「夫婦の真似事にしちゃあ、行動が伴ってねぇなと思ってな」
睨む佐助に言い返した白雲斎は足音の方を向く。
「折角だからハーブティー持ってきました」
化粧でもしに行ったんじゃねぇのかよと白雲斎は苦笑しつつ、姿見せろと床を指した。
「あ!才蔵さん。…才蔵さん、すぐ帰ります?」
「帰んねぇよ。今からちょいと話し合いだかんな」
姿を見せた才蔵に笑みを向けた燐は、白雲斎の言葉に、鍋に水を入れて戻ってきた。
「俺も食うぞ」
「どのくらい食べます?」
「普通」と返す白雲斎に苦笑しつつ、佐助にも食べるかと顔を向ける。
「手伝うよ」
佐助は返事の代わりに才蔵に纏めていた紙の束を渡すと立ち上がる。話し合いは?と首を傾げると佐助は無言で上を指した。
「たまご何個だー?」
「なっ、ビックリするからっ!3個お願いしたいです」
佐助の指先を辿って見れば、屋根の穴から首がぶら下がっていた。
「どの道、師匠が居ねぇと進まねぇの」
「あ。食べるか聞いたから、ごめんね」
肩を竦めた佐助は吊るしてあった鳥の処理をしに出て行った。
「御無沙汰しており申した。…長屋の暮らしは如何ですか」
「才蔵さんもおかわり無いですか?長屋で頼れる人が出来ましたよ」
燐は窶れた様な才蔵の姿に、今日は沢山食べてもらおうと思いながら話しを続ける。
「燐殿、宜しいでしょうか」
囲炉裏の側で調理をする燐を見ていた才蔵は、紙の束を置き燐の側に寄る。
「あ、うどんなので食べられる量、って才蔵さん?」
普段の距離感から考えられない近距離の才蔵に、何?!と身構えた。頬が熱い。
「何してんの?」
高い金属音の後で低い声が掛かる。入り口を見ると薄く微笑む佐助。燐は再び混乱する。
「おー、なんか修羅場かぁ?」
「師匠っ」
間の抜けた声。燐は白雲斎の姿を見ると思わず叫んだ。
「いや、俺を巻き込むなよ。んで弟子も頭巾も飛び道具は姫さんに当たらねぇよう気を付けろよー?」
やっぱ何か投げたんだ!燐は鎌之助を思い出すとお前も容赦ないのかよと佐助を見る。
「燐殿、此方に何が入っておりますか?」
才蔵は淡々と燐の袖を持ち上げ問う。この人も全く動じないよねと燐は頷き香袋を取り出した。
「丁度良いや。ちょいと頭巾、姫さんのこと抱えろ」
「「は?!何で?」」
白雲斎の言葉に佐助と燐の声が重なる。仲良いなと白雲斎は苦笑しつつ才蔵に目配せた。
「…暫し」
「や、ちょっ何故?!」
才蔵は燐に断り、ひょいと燐を横抱きにした。
蹲踞で私乗せたら才蔵さんの膝とかっ
「さささ才蔵さんっ」
「さほど重くはありませぬ故」
「いや、そうじゃなくてっ」
真っ赤な顔の燐に冷静に返す才蔵。白雲斎は隣の殺気にそろそろ良いかと思えば、才蔵は燐を下ろす。
「どーだ?頭巾に惚れたか?」
「なっ、ほ、惚れませんっ」
真っ赤な顔の燐の反応に白雲斎は佐助が何かする前にと才蔵から袋を受け取り、佐助の側に戻ると懐から出した紙の上に中身を広げて見せた。




