決着、そして……
そして、私の意識は一度消えて、気付いた時には……
「ここはどこですか?」
久しぶりに呼吸をした気がします。
手足の感覚がありました。
「香?」
振り向くとディアスと千代がいました。
それにハヤテたちがいます。
いえ、姿や声は一緒ですけど、匂いや魔力の質が違います。
その直後、ハヤテたちは機巧人たちに形を変えました。
なるほど、そういうことですか。
「あなたはまだ香ですか?」
ディアスは恐る恐る聞いてきました。
「はい、私ですよ」
「でも、その姿……」
確認すると金色の体毛、耳と尾が生えていました。
でも、意識が遠くなり、自分の体が乗っ取られる感覚はありません。
「どうやら、体は返してもらったみたいですね。後は……」
私は師匠に向き直りました。
「決着をつけましょう」
「そんな中途半端な姿で俺に勝てると思っているのか? お前も力を覚醒させろ!」
「私は先祖返りしません。そして、師匠に勝ちます!」
先祖返りしている師匠ほどではありませんが、私も魔力が強化されています。
カミイシヅの気紛れかもしれませんが、この間に決着を付けます!
「はああああ!」
今までにないくらい体か軽いです。
師匠の魔力の流れが手に取るように分かります。
…………それに比べて、師匠の動きはなんだか鈍くなっている気がしました。
技の速度や威力の話ではありません。
それだけなら増しています。
でも、今の師匠は私の動きを先読みできなくなっている気がします。
「ちょこまかと……」
師匠は悪態を吐きました。
その眼は完全に獣のようでした。
「師匠、自分で私に魔力の流れのことを言っておいて、出来ていませんね…………!」
私の攻撃は師匠に当たります。
そして、師匠の攻撃は躱すことが出来ます。
戦局は私の方が有利になっても良いはずです。
ですけど、師匠の体は斬られてもすぐに回復します。
このままだと私の魔力が尽きてしまうでしょう。
だったら……
私は一度距離を取り、二本の刀を自分の前に構えました。
「決着は近いな」
師匠も構えます。
「師匠を倒します」
私と師匠の刀がぶつかりました。
魔力を少しでも緩めたら、刀が折れてしまいそうな衝撃に襲われます。
激しい打ち合いの中で師匠が強引に攻めてきました。
首を狙えるかもしれない。
直感でそう思いました。
残っている魔力を使った最後の一撃。
「魔陰双流……奥義! 『スモノノコトワリ』!」
「魔陰二刀流奥義『キンセキノフミ』」
互いに持った二本の刀、ぶつかり、そして、二人は動きを止めました。
私の最期の一撃は師匠の首に届きませんでした。
もう、私に魔力は残っていません。
もう、戦えません。
握っていた刀を地面の落とし、私は倒れました。
師匠は私に近づきます。
「香に近づくな!」
ディアスが叫びました。
刀を構えます。
「西洋の剣士、この一騎打ちを穢す気か?」
「あなたたちの流儀なんて知れません! 私は友達を守りたいんです」
「友達、か、西洋の剣士、安心しろ。俺は香を殺さない。この勝負は香の勝ちだ」
師匠を見ると額の角が折れ、人間の姿に戻っていました。
その眼差しは昔の寡黙だけど、優しい師匠でした。
「長い間、夢を見ていた気がする。酷い悪夢だった。……いや、これが現実なんだな」
師匠は悲しそうでした。
「俺は移より強くなりたかった。あいつを守れる男になりたかった。それなのに、俺の弱さが取り返しのつかないことをしてしまった。先祖返りのことは知っていた。知った上で、俺なら制御出来るなどと思い、この様だ」
「なんで、師匠は先祖返りのことを知っていたんですか?」
私はディアスに手伝ってもらって、体を起こしました。
「俺や移、そして、他の〝七刀衆〟は先祖返りが出現した時の対抗戦力として育てられたんだよ」
そんな話は初耳です。
いえ、子供だった私が知るはずないのは当たり前ですか。
「そんな俺が先祖返りするとは馬鹿な話だ。もしかしたら、移は俺やお前の中の鬼に気付いていたのかもしれない。だから、お前には鞘を神木の作られた脇差を渡し、俺を憐れに思って、俺と一緒になったのかもな」
「師匠って、本当に剣術以外のことは鈍感ですね。姉様は師匠にベタ惚れでしたよ。私にいつも師匠の話ばかりしてきていました。師匠が修行で私を褒めた日の晩は嫉妬で大変だったんですよ」
それを聞くと師匠は微笑みました。
師匠が笑うなんて本当に珍しいです。
「そうか、移はちゃんと俺を好きでいてくれたか。それが聞けて良かった」
師匠はとても穏やかな表情をしていました。
「師匠はなぜ天空都市の場所が分かったのですか?」
「分からない。ただ、俺の中の〝戦鬼皇〟の力がこの場所を目指していた」
戦鬼皇がここを目指した?
「香、お前がなぜ先祖帰りに対抗できたか、それは俺には分からない。だが、お前は俺とは違うようだ。最後に一つ、願いを聞いてくれるか?」
「……なんですか?」
私は師匠が何を言うか、分かってしまいました。
「俺の首を落として欲しい」
「なっ!? 待ってください。香の師匠、あなたはもう鬼ではないんですよね!? たっだら、死ぬ必要はないじゃありませんか!」
ディアスの抗議に、師匠は首を横に振りました。
「死ぬ理由ならある。俺は最愛の妻を、弟子の大切な姉を殺めてしまった」
「でも、それは先祖返りのせいで……」
「それに今は一時的に〝戦鬼皇〟の力が弱まっただけで完全に無くなったわけではない。いずれ、俺はまた鬼になる。そうなる前に、人間でいる時に俺は死にたい。香、情けない師匠の最後の頼みを聞いてくれるか?」
「……分かりました」
「香!」とディアスが私の着物の袖を引っ張りました。
でも、私の顔を見ると袖を放して、それ以上何も言いませんでした。
「師匠、これを……」
私は地面に転がっていた師匠の刀を拾いました。
「切腹は『己の潔白を証明する』為に行うことだ。俺にそれをする資格はない」
「いいえ、師匠には資格があります。私の師匠は大罪を犯したから死ぬのではありません。自己犠牲の上で鬼の力に勝つのです」
「お前は優しいな」と言い、師匠は刀を受け取りました。
師匠は正座し、私はその後ろに回ります。
「…………」
もうそれ以上、私と師匠は何も言いませんでした。
師匠は刀を自分の腹に当てます。
私は刀を構えます。
そして、師匠は大きく息を吸ってから。腹を切りました。まずは横に斬り、そして縦に斬り、師匠は動きを止めました。
――その瞬間、私は刀を振り下ろしました。
姉が死んでから三年、ジンブを出てから二年、西方連合に来てから一年半。
私の仇討はジンブから遠い天空都市で終わりを告げました。
でも、それには達成感はなく、涙が溢れてきて…………
「あれ……?」
金色の体毛、耳と尻尾が消えました。
その瞬間、体中から力が抜け、倒れてしまいます。
「ママ!」
「香!」
千代とディアスが声を掛けてくれますが、返答が出来ませんでした。
体中が痛くて堪らないです。
私はそのまま気を失ってしまいました。




