天空都市『エルバザール』
「どうだい!?」
ドラズさんがレンリスさんに尋ねると「成功だよ!」と言い、笑いました。
「前方を見てみな」
言われて確認すると雷雲に空いた穴の先に島が見えました。
見間違いでなければ、島が空に浮いてます。
「結界が修復される前に突っ込むよ!」
船は急加速しました。
真っ直ぐに突き進みます。
「結界、突破しました!」
「千代ちゃん、どうだい?」
「ここはもう結界の内側、障壁は何もない」
千代の宣言に船橋にいた人たちは歓喜しました。
「各員に連絡、損傷を報告せよ」
レンリスさんの問いかけに、
「こちら動力部、かなりの負荷がかかりましたが、破損無し」
「了解、本船はこのまま天空都市『エルバザール』に着陸する」
エルバザールに近づきます。
やはり見間違いではなく、島が宙に浮いていました。
それに太陽が届かない雲の中のはずなのに明るいです。
島に接近すると見たことのない建物ばかりです。
建物の全てが金属で出来ているようでした。
銀色の建物群が光って、とても幻想的な空間です。
「棟梁! 行方不明になっていた『シーズ』が船影を発見しました!」
その報告にレンリスさんは飛びつきました。
望遠鏡を覗き込んで、その直後に笑いました。
「まったく心配させて……。一番乗りはあっちだったようだね。『シーズ』に人員を向かわせな。あちらの状況を知りたい。それからエルバザールに探索部隊を派遣するよ。香ちゃんたちも来るだろ?」
私は「もちろんです」と言いました。
「さぁ、千代、行きましょう。あなたの故郷ですよ」
私が手を伸ばすと、千代がその手を握りました。
「…………?」
金属のように冷たい千代の手が微かに震えている気がしました。
「どうしました?」
「なんでもない、ママ、ありがとう」
「お礼は私じゃなくて、レンリスさんたちに言いなさい」
そう言われると、千代は素直にレンリスさんたちに頭を下げました。
なんだか、千代の口調は別れを告げているようです。
確かに千代はここに残るでしょう。
そう考えると寂しいのは事実です。
私、千代、ドラズさん、それからレンリスさんたちの探索隊が結成されます。
「ディアスは動けそうにないね」
ディアスは魔力を使い果たして、ぐったりしていました。
「後からゆっくり行きますよ。こんな見たことない都市、早くみたいですから」
ディアスを船に残して、私たちはエルバザールに降り立ちました。
建物全てが金属で出来ている不思議な都市です。
「見たこともない技術だよ」
ドラズさんは建物に触れて言いました。
「それにしてもおかしくないですか? 人の気配が全くありません」
私たちは今、大通りを歩いていますが、人の気配が全くありません」
時折、金属の人形が立っているだけです。
「千代、この都市に住んでいる人たちはどこにいるんですか?」
「今はみんな寝ている。私がみんなを寝かせた」
「えっ、それは一体…………」
私が千代に聞く前にレンリスさんが
「あれは何だい!?」
と叫んだ。
大通りを進んだ先の広場に巨大な塔が立っていました。
その塔の天辺に光の球体があります。
「あれは人工太陽、あれがあるからエルバザールは明るい」
千代が説明してくれました。
一体どういう技術なんでしょうか?
私が呆気に取られていると千代が塔に向かいました。
塔正面の扉をドラズさんが空けようとしますが、ビクともしません。
「しょうがないね」と言い、ドラズさんが戦斧を手に取りました。
「ちょっと待ってください! 何をするつもりですか!?」
「何って、壊すのさ」
ドラズさんは良い人ですけど、暴力的なところがあります。
千代が扉に近づきました。
「《管理者権限》を発動する」
管理者権限?
千代がそう言うと扉は開き、中へ入っていきます。
私たちも千代の後を追いました。
「これは…………」
塔の中にはたくさんの動植物が存在していました。
しかも動植物の種類にによって、ガラスのような透明な仕切りで区分けされています。
中には豚や馬のような動物から、見たこともない動物までいました。
「ここには地上で絶滅した生物を含めた多くの見本が飼育されている。地上の生き物が終末を迎えても、また復活できるように準備がされている」
「終末ですか?」
「うん、それがいつ起きても良いように私たちはずっと守ってきた。遥か昔、創造主は私たちを作った。エルバザールを守って、もう何千年も経つ」
何千年ですって!?
年月の単位が飛び過ぎです!
ということは遥か昔、すでにこれだけのものを作る技術を持った文明が存在したということですか?
だとしたら、何故その文明は今の地上に存在しないんでしょう。
分かりません。
人間の私には全てが遠すぎます。
「良かった。ここは無事だった……」
千代はホッとしているようだった。
「千代、外の建物群にも動植物が飼育されているんですか?」
「ううん、外の建物には各時代の人工物や技術、文化が保存されている」
「それは見てみたいものだね」
ドラズさんは目を輝かせました。
千代は長い間、ここにいる気はなかったようで入り口に向かいます。
「千代ちゃん、もう少し見ていてもいいかい?」
とレンリスさんが言った。
「もし見たければ、見ていていい。でも、壁を破壊しようとしたりしたら、防衛装置が発動するから注意して」
千代はドラズさんを見た。
「おっと、警戒されているね。でも、あたしは動植物よりも各時代の技術ってやつが気になるね」
「分かった。案内する」
私も千代とドラズさんと一緒に外に出ました。
それにしても人の気配がありません。
そういえば、千代がみんなを寝かせたと言っていましたね。
一体、どういうことなんでしょうか?
「驚いたね。この建物には食料が保存されているのかい?」
私たちが初めに入った建物には肉や魚、米や麦が保存されていました。
しかも、肉や魚は昨日取れたばかりのように新鮮です。
「ここの魚や肉って、さっきの建物の生き物ですか?」
「ううん、違う。ここに保存されているのは農業区画で育てた物」
「育てた? でも千代ちゃんたちはご飯を食べなくても生きていけるんですよね?」
「私たちの為ではない。農業、畜産業のより効率の良い生産方法を研究する為」
千代たちがどうしてそんなことをしているのか分かりません。
全ては千代たちを作った創造主の意思かもしれませんが、それを何千年も守り続ける千代たちは一体…………
「…………」
千代は急に辺りをキョロキョロし始めました。
「どうしたんですか?」
「ママ、今まで本当にありがとう。中央の塔の動植物以外なら自由に持って行って良い。それが私からのお礼」
千代は突き放すように言いました。
明らかに様子が変わりました。
「千代、急にどうしたのですか?」
千代は私の問いに答えませんでした。
翼を展開します。
その翼がチカチカと光り出しました。
「《全機巧再起動》。エルバザールノ敵ヲ確認。殲滅セヨ」
千代はあったばかりの頃みたいに機械的なしゃべり方をしました。
そして、千代は体から刃や砲身のようなものが展開されました。
「ママ、さよなら……早く逃げた方が良い……」
千代はまた人間っぽくしゃべりました。
その表情はとても悲しそうで……
「千代、あなたは一体……」」
私が尋ねる前に千代は飛んでいきました。
その後は千代と同じ機巧人たちは追従していきます。
「一体どういうことだい? さっきまで何も感じなかったのに……」
街を見ると各所に立っていた銀の像が消えていました。
あれが休止状態の機巧人だったようです。
そして、全ての機巧人が同じ方へ向かっていきます。
「どうする、香ちゃん? 何かが起きているのは間違いない。首を突っ込むかい? それともレンリスたちに連絡して、ある程度の物を手見上げに帰り支度をするかい?」
「それは……すいません。私に見て見ぬふりは出来ません」
「そう言うと思ったよ。あたしはレンリスに知らせてから向かうよ」
「ありがとうございます」
私は機巧人たちが飛んでいく方向に向かいました。
一体、何が起きているんでしょうか?




