10年を待って、今
「カズ君、ごめん、もう落ちる。」
音声通話なんて初めてだ、半年一緒にゲームしているけど。
「どうしたの?」
今まで、しなかった方が不思議で聞いてみた。
「カズ君に会いたい。」
オフ会か、いいかも、さっき貰った写真は可愛かった。
しばらく日本に帰ってないから、長期休暇には帰るか。
「いつなら会える?」
「会えないの、もう。」
ルーの声が震えている?様子が変だ。
「会えるよ!今じゃなくても、きっと会える!」
「10年後の今日、6時に東京タワー・・・・あ、あ!!!!」
ルーの言葉が途切れ、衣擦れの音と苦しそうな声が響く。
いったいどうなってる?
マウスがパソコンにぶつかる音もする。
「ルリコちゃん、どうしたの?」
機械音の声が聞こえる、家族か?
「あああ!!!」
さっき聞いたばかりのルーの声が響く。
ゲーム画面のマイクがたくさんの足音を拾った。
「直ぐにご家族に連絡して!」
「しました、直ぐにご両親が来られます。」
「コーディネーターに連絡ついたか?!」
「こちらに向かってます。」
「ルリコちゃん頑張って!ICUに移動だ!」
喧騒の中で信じられない会話が続く、もしかして病院なのか。
ガラスや金属の音が聞こえる。
ルーはルリコ、ICUって集中治療室のことだろ、危険なのか。
「ルリコ! 」
マイクを通じて呼んでみるが、返事をしてくれる人はいない。
それから、ルーはゲームに現れなくなった。
「一仁、またゲームなの、勉強はしてるの?」
母からメールが来ていた。
幼い頃から勉強ばかりやらされた。父の会社を継げだとか、祖父からはパブリックスクールに行けと留学させられた。他人から見れば羨ましい環境が苦しく反抗を繰り返した。
僕は何を見てたんだろう、ルーは命を見てたんだ。
ルーに会いたい、きっとあの写真はルー自身だ、確信できる。
半年の間、気の合う仲間だった、写真を見て幼いと思った。
ゲームの中では大人びていたんだ、女医になりたいって言ってたんだ。
僕はそういう夢を支えたい。
医者になることはできないけど、経済支援ならできる。
ゲーマーになる才能はないが、支援をしたい。
経済という分野で夢の支援をするんだ。
ルーに会えたなら、誉めて貰えるような人間になるんだ。
ルーは何歳なんだろう、僕は15歳だよ、僕達はお互いのこと何も知らなかったね。
姿も表情もわからないから、きついことも言った。
喧嘩もしたし、仲直りもした。
わざと放置して落ちた時は死ぬほど後悔した、嫌われるんじゃないかと。
ルーが許してくれた時はどんなに嬉しかったか。
いつも一番わかりあえてたんだ。魂が重なっているとさえ感じた。
ルーが朝6時にインしてくる、僕の居るイギリスは夜の10時だ、1時間ぐらい遊んでルーは学校に行く。
ゲームの中で知り合ったのは偶然、でもそれは必然だったんだ。
東京タワーの朝6時はさすがに人は少ない。
東京タワーも広い、細かい待ち合わせ場所は決められなかった。
でも正面玄関に違いない、いつも菩提樹の正面で待ち合わせていたから。
多分、ルーは来ないだろう、と思いながら来てしまった。
あれから10年、君は生きてるの?
あれは・・・?
若い女性を見ると全部がルーに見えてしまう、違うってわかっているのに。
「カズー!」
声が聞こえた、どこだ?
「カズー!」
声をたどると、若い女性がいた。
「ルー?」
僕の声に女性が振り返りほほ笑む。
「魔法のスキルアップのバングルはずっと宝物よ。」
「あれをドロップさせるために何度ダンジョンで死んだか。」
ルーはすごくかわいい女の子だった。
二人にしかわからない言葉で確かめる。
「カズは来ないと思ってたの、でももし来たらと思って呼んでみてよかった。」
ウフフと笑顔が眩しい。
僕も同じだよ、と笑う。
「ルーはルリコ?病気なの?」
「瑠璃子です。白血病で死にかけてたの、ドナーの人が間に合って助けてもらったの。」
それから拒絶反応とか大変で、ゲームにはもどれなかった、と瑠璃子が告げた。
今なら大丈夫なことも10年前はダメだった、医学の進歩はすごいのよ、と瑠璃子が笑う。
お医者様も研究者もとってもとっても頑張ってるんだ、話し出すと止まらないのごめんなさい、と瑠璃子が言う。
変わらないな、そんなこと知っていたよ。
瑠璃子にとって魔王は癌細胞だ。勇者はドナーである。リスクを覚悟のうえで自分の骨髄を分け与えてくれた。医者や看護師を含め医療従事者は戦士である。
10年で医療は技術もサービスも格段に進歩した、それでも変わらないものがある。
医療従事者達の患者を助けたいという願い。
そこに患者の生きたいという強い意志があれば奇跡は起こりえる時もある。
瑠璃子にとってカズ君は希望であった、生きたいと願う希望だ。
「僕は一仁、イギリスからインしてたんだよ。あの時ゲームのマイクが音声を拾ってたから状況を想像してた。瑠璃子はもういないかも、と思いながらここに来たんだ。」
「魔法のスキルアップバングルのおかげね!復活の魔法がかかったんだわ。」
「瑠璃子、僕の仕事の中心はアメリカなんだ、もう少しで日本に帰れると思う。
待っていてくれる?」
「私が医師免許取れるまで待っていてくれるならね。」
「それは待てないな。学生結婚だな。」
「え、カズ、私達何も知らないのよ。」
「でも1番気が合うだろう。いやかい?」
「ずっとカズに会いたいってがんばったの、うれしい。」
そっと唇を重ねる、あまい。
「まず朝食を食べよう、瑠璃子の今日の予定は?」
「午後から授業があるの、後藤田瑠璃子、22歳よ。」
「桐生院一仁、25歳、午後から仕事だ。まず朝食でそれから瑠璃子の家に挨拶だね。
夜は僕の実家に連れて行くよ、時間を空けておいてくれ。」
どちらからともなく手が繋がれる、目が合う。
温かい、半分に欠けていた魂が戻ってきた様な錯覚さえする。
「これからよろしく、お嫁さん。」
瑠璃子の頬がピンクに染まる、かわいい。
「こちらこそ、旦那様。」
瑠璃子の家族は朝から訪れた客に右往左往していた。
まさかカズ君が本当に東京タワーに来るとは思えず、娘を早朝に送りだしたらしい。
出勤前の父親と名刺を交換する。
瑠璃子は名家とまではいかないが、娘が医者を目指すのに問題ない裕福な家の一人娘だった。
お互いに名刺を見ながら、結婚に支障がないことを確認する。
「今夜、実家に連れて行く予定です、その前に指輪を買おうと思っております。」
もし、東京タワーにルーが現れたら、プロポーズするつもりだった、昔の写真しかしらないくせに。
それほど10年間恋焦がれていた、生きて出会えた事は奇跡なんだ。
今日東京タワーに行くかをすごく悩んだ。
東京タワーに行ってルーが来なければ現実に終わる。
行かなければ、ずっと夢みたままでいられるからだ。
でも奇跡は現実に踏み出した勇気の元にきた。
これから、いろんな食い違いがあるだろうが、僕はルーと共にあるべきなんだ。
やっとこれでスタートがきれる、瑠璃子も同じなんだろうか?
「ずっとね、夢見てたの、この10年。今日が来ないと何も変えれなかった。これから現実に生きていける。」
瑠璃子が笑って言う。
「僕もだよ。」
夜の待ち合わせをして別れる、それぞれがあるべき今の場所に戻って行く。
10年違う場所にいた。これからの長い時間を一緒に過ごすために、止まっていた僕達の時間が動き出した。
小さな恋物語、お読みいただき、ありがとうございました。




