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そして10年後に  作者: violet
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10年前の希望

前後編の短いお話です。

「ママ、写真撮って。すごく可愛く撮って。」

ハイハイと笑う母。

「今夜交換しようって約束したの。」

今日も菩提樹の下で待ち合わせなの、と母に待ち合わせ場所を教える。

待ち合わせ時間は、朝早いから面会時間の前で母はまだ来てない。

いつも、朝1時間ゲームをしてから学校に行った。

ゲームも長く続ける程の体力はなくなってた、ママが車で学校に送ってくれる。

治療で髪の抜けた頭も見られたくなくて鬘を被っている。


小児白血病、薬物療養を始めてもう1年。

子供は進行が早い、もう半分諦めている。

そんな事言ったらママが泣くから、私の秘密。

いろんな事調べたって言わない。

病気になって大人びた私にママが、急がなくっていいって泣くから。


「今日は運動会だからレクリエーションルームに行きましょ。」

ママが時計を見て言った、学校の運動会は参加できなかったから病院の運動会に参加させてもらった。

今日の私は体力あるから歩いていける。

仲良しのハル君は、車イスで来る。

ハル君の身体は傾いていて、身体に力が入らないって聞いた、頭もギアをつけている。

でも、とっても優しいの。

ハル君に手を振ると、ハル君も動く方の手で降ってくれた。

ハル君は綱引きをするみたい。

テーブルを挟んで、ハル君と隣の病室の5歳のゆみちゃんが紙テープの端と端を持った。

ヨーイドン!

看護師さんの掛け声で引っ張りっこ。

真ん中で紙テープが切れて引き分け。

「来年の運動会もしたい。」ハル君が楽しそうに言う。

ハル君は病院で大きくなった。病院内学級に通っている、小学生は全員で6名。長期入院の子供だけが通う。

私は時々入院するけど、普段は自宅から学校に通っている。


折り紙の玉入れをした、看護師のお姉さんが、頑張ったねと誉めてくれた。

また、来年の運動会もしたい、ハル君も私も一緒なんだ。

来年があると思いたい。

10年後は何してるかな、ママにお料理習いたい。



「ママ、薬飲むと眠くなっちゃうの。」

「瑠璃子、飲まないとダメよ、6時にカズ君と待ち合わせなのね?ご飯の後、寝たら? ママが帰る時に起こしてあげるわ。」


「瑠璃子ちゃん、起きれる?ママ、また明日来るね。」

「うん、ありがとう。」

そうして面会時間ぎりぎりまでいたママが帰っていく。

消灯までに歯磨きして、体温計って、隣のベッドの子とお話したりテレビを見る。



カズ君はゲームの中の相棒、本当の名前も年も性別も知らない、多分男の子。

いろんな話をした、不思議な事がいっぱいだった。

言葉が重なる、タイミングが重なる、考えが重なる、想いが重なる。

こんな人、他にはいない。

喧嘩した後は、早く仲直りがしたくって、1日が待ち遠しかった。

お互いの最初の言葉が、ごめん、でカズ君も同じだったと解って大笑いした。

ゲームの中の菩提樹の下で待ち合わせ。アバターは何にしよう、カズ君に貰ったバングルは魔法スキルアップだから外せない。

『ルー』

『カズ』

時間通りにカズ君が来た。

ダンジョンに行ったり、菩提樹の下で話をして終わる時もある。

『昨日、運動会だったの。』

『へえ、平日にするんだ?』

『うん、疲れちゃったから、寝落ちしちゃうかも。』

『振り替え休日なの?

じゃ、今日はゆっくりイベントのアイテム集めでもしよう。』

『ありがとう。』

連絡先も登録してあるけど、私もカズ君もゲーム以外では使わない。

今日は、特別。可愛く撮れた写真を送信した。覚えていて欲しくって。忘れられたくなくって。

さっきカズ君の写真も届いた、カッコイイ男の子だった。

本人と信じてる。

男の子だと思うとドキドキする、ちょっと嬉しい。


もう半年以上、毎日のようにカズ君と待ち合わせしている、ゲームの中だけの友達。

私がゲームをしている時、ママが泣いているのを知っている。待ち合わせの為に、私が生きようとしているから。



ああ、痛い、痛い、痛い。

急に激痛が、今までになかった痛み。

指が震えて字が打てない、マイクをオンに初めてする。

「カズ君、ごめん、もう落ちる。」

声が震えないように・・ゆっくり話す。

カズ君も音声にしてきた。

「どうしたの?」

カズ君の声だ、初めて聞いたのが最後の時になんて。

涙が溢れる、痛さと・・

「カズ君に会いたい。」

思わず言葉にでた。

「いつなら会える?」

カズ君も会いたいと思ってくれるの?

「会えないの、もう。」

「会えるよ!今じゃなくても、きっと会える!」

「10年後の今日、6時に東京タワー・・・・あ、あ!!!!」

10年後の夢をみたい、10年後もあると思いたい。

震える手は、思わずナーズコールを押してしまった。

まだログアウトしてないのに、痛みで考えていられなかった。

手が震えて、ログアウトのアイコンにマウスを持っていけない。

マウスを持つ手の力が抜けてくる。


「瑠璃子ちゃん、どうしたの?」

優しい看護師さんの声がベッドの横のスピーカーから聞こえてきた。

「あああ!!!」


病室に響くたくさんの足音、看護師さんだけじゃない。

「直ぐにご家族に連絡して!」

「しました、直ぐにご両親が来られます。」

「コーディネーターに連絡ついたか?!」

「こちらに向かってます。」

「瑠璃子ちゃん頑張って!ICUに移動だ!」

医者も、看護師も瑠璃子を生かそうと懸命になっている。

まだ12歳、まだ未来がある、まだ、まだ。

お母さんに似て美人になるはずなんだ、ステキな彼氏ができるはずなんだ。


身体にたくさんのチューブがつけられる、瑠璃子の胸は小さな呼吸を繰り返している。


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