D-04実験記録
冷たい鉄の扉を越えた先。
そこは異様な静けさに包まれていた。
壁には無数のコードと、配線が絡みついている。
かつての実験機器らしき装置が、半ば朽ちたまま放置されていた。
「ここ、本当に稼働していたの……?」
紗香が低くつぶやく。
空気は乾いていたが、どこか“生臭さ”が残っている。
中央の壁に設置されたターミナル。
今は黒いままだが、祐一が隅のブレーカーを入れると、
「キィィィィ……」と軋むようにモニターが点灯した。
画面の中央には――
『研究管理者:鏡花 誠一』
『記録ファイル No.37〜No.51』
『パスコード認証を開始します』
「……父さんの名前。ここが、彼の研究の拠点だった」
紗香が手を伸ばすと、画面が自動で反応し始める。
彼女の血中にある“認証因子”が作動したのだ。
「――認証完了。ようこそ、柚山 紗香様」
一瞬の沈黙ののち、映像ファイルが自動的に再生された。
⸻
【映像記録 No.37】
モニターの中には、白衣を着た一人の男――
間違いなく、紗香の父・鏡花誠一が映っていた。
『これが最後の記録になるかもしれない』
『私は“D-04”計画を止めることができなかった』
『感染因子を持つ血液は、予想以上に安定している。だが――』
『生体を石化させる“共鳴反応”が発生した』
『それは、特定の血液型にのみ反応する。
私の娘――紗香のような、特異な因子を持つ者だけが解毒の鍵になる』
祐一が、紗香の横顔をそっと見つめた。
『私はこの施設を封印する。
この研究は人の手に負えるものではない。
だが、私の死後――真実に近づく者が現れるなら。
どうか、これを“警告”として受け取ってほしい。』
映像はそこで途切れた。
「……お父さん、知ってたんだね。
私が、ただの人間じゃないってことを」
紗香の声は震えていたが、涙は流れていなかった。
「それでも――
お前を守るために、この施設ごと封印したんだろうな」
祐一が肩にそっと手を置く。
しかし、次の瞬間。
突如、画面が切り替わり、別のログが浮かび上がる。
『No.52:アクセス不能領域の解放通知』
『実験体 No.1 / 石化中 / 反応再活性中』
「まさか……これって……」
警告灯が赤く点滅を始め、冷たい機械音が鳴り響いた。
『“最深部へのアクセスが検知されました”』
『実験エリアB-3の封鎖を解除します』
――何かが、“目覚めよう”としている。
祐一と紗香は、再び顔を見合わせた。
「行こう、まだ止められるはずだ」
彼女はうなずいた。
そして、父が命をかけて守ろうとした“真実”を知るために、二人は先へと進む。




