脱出
総攻撃から数時間でレオの軍はほぼ壊滅した。
残党との小規模な戦闘はいまだに続いているものの、おおよその決着はついたということで貴族たちはレオを捜索するために山に小隊を派遣する。
「なあ知ってるか?レオって角が生えてるらしいぜ。」
「人を喰ったことがあるって噂は聞いたことがある。」
「おっかねえな。出会いませんように。出会いませんように。」
ルイに従ってやって来ていたルビコン子爵家の兵士たちはぺちゃくちゃとそのようなことを話しながらレオを探していた。
貴族ごとに10人一組の小隊を出し、山の斜面をのぼりながらレオの捜索を続ける。
レオの兵士たちはほとんど全滅しているから大丈夫だと聞かされているが、暗い中でいるかわからない敵を探すということで、兵士たち怯えている。
しばらく探していると向こう側から何やら明かりが見えた。
「明かりが近づいてくる。」
兵士たちは怯え、一斉に剣を抜く。
「こちらルビコン子爵家。誰だ!」
「ロンドン男爵家です。」
明かりを持った相手が言った。
相手も10人のようだから、おそらく味方の捜索隊だろう。兵士たちはホッとして武器をしまった。
「ご苦労様です。ロンドン男爵家は少し北側の担当だったはずでは?」
「そうでした!実は夜の闇で道に迷いまして。ありがとうございます。」
「いえいえ。」
先ほどからこのように道に迷う部隊がちらほらと見受けられる。真夜中の山なので仕方がないが、レオを逃がしてしまう穴にならないか心配だ。
「そりゃこんな真夜中に捜索したら道に迷うよな。明日、日が昇ってから捜索すればいいのに。」
「貴族たちがレオを捕まえる競争をしてるからだよ。」
「なるほどな。道理で貴族様たちが焦っているわけだ。」
ざっざっざっ
兵士たちは一斉に会話をやめた。上の方から足音が聞こえる。獣か?いや確かに人間の足音だ。
他の貴族の捜索隊だろうか。いや、明かりは見えない。この真夜中で明かりを付けずに移動する捜索隊はあり得ない。
まさか、、、、
明かりを持っている兵士が恐る恐る明かりを掲げてあたりを照らす。
いた。
兵士たちから10歩ほど斜面を登ったほどところに4人の人影が見えた。
レオだ。レオに違いない。
他に大柄の男、中柄の男、そして女の影が見える。
「ひっ」
レオを見つけた時には捜索隊に一つづつ与えられた笛を思いっきり吹くことになっていた。
しかし、笛を持っている兵士は恐怖のあまり動くことができない。
レオはゆっくりと斜面を下ってきた。
明かりで照らされて不気味な顔が青白く映る。
「数えたところ10人か。10人一組で俺の捜索をしているといったところか。そしてここの担当は君たちということだな。」
穏やかな声で語りかけてくるところが、かえって恐怖を増大させる。声も出せない兵士たちはコクコクと頷くことしかできなかった。
何人か勇敢な兵士たちが剣を取り出したが、それに合わせてレオの後ろにいた三人も武器を持った。
「まあ、待て。」
レオは手を横に伸ばして後ろの三人を抑えた。
そして兵士たちの方を向き直り、静かに語りかける。
「君たちは俺の兵の強さを知っているな。無益な殺し合いをしたくない。そこをどいてくれるか?」
先頭に居た兵士が声が震えてしまうのを必死に抑えながら返答する。
「こ、この山にはルイ様が率いる1万人以上の仲間たちが、、い、いるんだぞ!い、いくら悪魔でも1万人の兵士にはかなわない。」
「ああ、そうだ。山を捜索している兵士たちが全員ここにやってきたら俺はひとたまりもないだろう。」
「だが、少なくとも目の前にいる10人くらいは始末できる。」
レオはギロリと兵士たちを睨んだ。口調は穏やかなままだが、目だけで今にも殺してきそうな気が立っていた。兵士たちはますます怯えてしまう。
「君たちはレオを発見した部隊として讃えられるだろう。だが、君たち自身はその賛辞を受けることはできない。なぜなら俺に殺されるからだ。」
レオは兵士たちの不安を的確に見抜いていた。
躊躇している兵士たちに追い打ちをかけるようにレオは新たな提案をする。
「アーク、あれを。」
レオにアークと呼ばれた男が彼に袋を渡した。
レオはその袋を兵士たちの足元に放る。落ちた音でわかる。金だ。
「この中には今俺たちが持っている財産がすべてある。金貨100枚以上あるだろう。」
「100枚、、、」
兵士たちは信じられないというように袋を覗くが、確かに袋にはパンパンに金貨が詰められていた。
一人当たり金貨10枚だ。普段は農民である彼らにとって、自分が自由にできる金貨なんて持ったことがなかった。
戦うならば間違いなく殺されるが仲間たちが駆け付けてレオを討つことができ、兵士たちは発見者としての名誉が与えられるだろう。もっとも騎士でもない一般兵の彼らにとって死後の名誉なんて意味がないものだが。
一方でレオを見逃せば大量の金貨がもらえる。当分は遊んで暮らせる金だ。暗闇の中、自分たちの他にレオを見つけている部隊はないだろう。自分たち次第でレオと出会ったという事実をもみ消すことができる。
それでも。もし彼らがレオに家族を殺され、土地を荒らされ、家に火を付けられた兵士たちだったら戦っただろう。だが幸か不幸か、ルビコン子爵家は王国の西端にある領地の一つでレオの被害はほとんど皆無であった。
彼らが命を捨ててでもレオと戦う理由はなかった。
「ありがとう。恩に着る。」
無言で道を空けた兵士たちに一言礼を言って、レオと3人の部下たちは彼らの間を通り抜けていった。
「おい、おい。分かっていると思うが、誰にも言うなよ。俺たちは何も見なかった。」
レオたちが去ってしばらくして、兵士たちは「レオの捜索」を続けるために山を登り始めた。




