招集
リシュ―たち開拓団を第4都市に送り出してから1週間後、ユナの元に都にいるシービ教団の団員から情報がもたらされた。アークはちょうどそろそろ来ると思っていた。
「、、、アーク様。都からお手紙が。」
「ああ。ついに来たか。」
都からの手紙にはただ一言『ハバロフ招集』とだけ書かれている。
ハバロフ招集。
王国の建国者であるハバロフ王が貴族の忠誠心を測るために抜き打ちで都に招集をかけたことが由来となっている歴史あるものである。
現在は招集と言っても形骸化しており、4年に1度全貴族が都へ集まって政治や経済などについての問題を話し合ったり、晩餐会で交流を深めたりするイベントと化している。
正直に言ってアークはこの招集には行きたくない。
現在ラプラス王国の国王であるゼロルド1世が引退を考えているという情報が駆け巡っているからだ。王の子供は4人いるため後継者争いが起こる可能性も低くはなく、そのような争いに巻き込まれる恐れも出てくる。
それに今はミカンダ地方の領地発展に忙しく、都で優雅に晩餐会に参加している暇はない。
しかし、これは伝統的な貴族の義務である。文句を垂れながらもアークはいかなければならない。
ミカンダから都までの距離が遠いのでできるだけ早く出発しなければならない。昔とは違い、忠誠心を競って都に早く着く速いもの競争になっているわけではないが、遅刻はよろしくないだろう。
したがって、少数で時間を短縮しながら都まで向かう必要があることを念頭に置きながら同行者を選ぶ必要がある。
アークはしばらく考えていたが、結局この部屋にいる4人だけで向かうことにした。護衛のユリア、教団員のユナ、そして妹のミネルヴァだ。
「ユナとユリアとあとミネルヴァ。」
「えっ私もですか?」
アークの言葉にミネルヴァは驚いた。確かに今回の招集で彼女にやらなければならないことがあるわけではない。一方でミカンダ地方には課題が山積みだ。しかし、働きづめのミネルヴァにとって、都に行くことはいい気分転換になるだろう。
「ああ。ミカンダに来てからゆっくりと二人でいる時間がめっきり無くなってしまっただろ?」
「別に気を使わなくてもいいですのに。」
ミネルヴァはこの前に自分がリシュ―と喧嘩したことに対して兄が気を使っていると思っているのだろう。とても恐縮している。だが、実際にそのことも6割くらいは理由だ。
「留守はテュール兄さんに任せるから大丈夫だろう。久しぶりに都に行かないか?」
「じゃあせっかくお誘いいただいたので参ります。」
ようやくミネルヴァは折れた。ミカンダでの仕事を放り出して都に行くことに罪悪感を感じているようだったが、同時に兄との久しぶりのお出かけがとても嬉しいらしい。とても顔が喜んでいる。
出発の準備をしている頃には鼻歌まで歌っていた。
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ハバロフ招集を来週に控えたラプラス王国都ホリヌス。
その王宮にて。
ゼロルド1世と大宰相ルーベルは大貴族たちを待っていた。大貴族は王家と遠い親戚であり、王国に4人しかいない公爵である。また、選帝侯という名前が表す通り、次の王を決める際には非常に大きな影響力を持っている。
「選帝侯がお越しになりました。」
「通せ」
4人の選帝侯が「王の間」に入ってきた。重要な会議がある場合はこの部屋が使われる。
「みんなよく来てくれた。もうすぐハバロフ招集により王国中の貴族がここにやってくる。前から言っていたが、私はこのハバロフ招集をもって国王を引退し子供たちに後を任せるつもりだ。」
王は前置きもなく本題に入る。今回の議題は王国の命運を決める後継者問題だ。
「私には4人の子供がいる。長男のレオ、長女のカサブランカ、次男のルイス、次女のマリーだ。この中から次の国王を選びたいが、選帝侯たちの意見も参考に決めたい。ここでは無礼講とする。遠慮なく意見を述べてくれ。」
王はそう言って意見を待ったが、選帝侯たちは気を使って何も言わない。そのため、王は一人ひとりの子供たちについて順番で意見を求めることにした。
「長男のレオはどうか。」
レオの名前が出た途端、選帝侯たちはいっせいに渋い顔をする。そのうちの一人が代表して意見を言う。
「レオ様は武力では圧倒的な力を持っております。将軍としては王国でもトップクラスの実力でありましょう。しかし一方で、凶暴な面があり、人を苦しめることに喜びを覚え、暴君になることは想像に難くありません。」
大宰相は「それはあまりにも言い過ぎだ」というように目で注意したが、王は頷くしかなかった。初めての子供、しかも男の子ということで王国中がレオを甘やかした。その結果として、わがままで自分の思い通りにいかないと激しく怒る性格になってしまっていた。武力に対しては天性の才能があるものの、あの性格だとその才能も恐怖でしかない。
「あいつは良くも悪くも子供のようだ。確かに民を導く王としての素質は欠けるところがあるな。」
「ではマリーはどうか。」
長男の次は末っ子のマリーについて尋ねる。これで選帝侯たちは確信した。王は可能性のない人物から聞いているのだ。そうなると王に忖度して意に沿った意見を言い始める。
「マリー様は慈愛に溢れ、民を慈しみ、弱者に寄り添い、多くの人々から敬愛を受けております。おそらく、王のお子様の中で民衆の支持が最も高いのはマリー様でしょう。兄や姉との関係も良好ですので王になった後、兄姉による内乱が起こる可能性もほとんどありません。ですがそれは大きな弱点でもあると考えます。マリー様はあまりにも優しすぎる。馬車から降りて裸同然の貧民に自分の羽織っていた毛皮の洋服をあげるような御方はすべての民に目を向けなければならない国王には不向きであると考えます。」
王も同意する。
「マリーは優しい子だ。私が背負っている国王としての責任と重圧をあの子に背負わしたくないな。」
王は3人の子供たちに対しては王として接することを心掛けたが、末っ子のマリーに対しては普通の父親のように可愛がった。
まっすぐな愛情を受けたマリーは可憐に成長し、王国中の貴族たちから結婚の申し込みが殺到している。国王として苦しむよりは、貴族の夫人として幸せに暮らしてほしいというのが父親としての願いであった。
「付け加えますと、マリー様は教会勢力と密接なつながりを持っておられます。もしマリー様が国王になると、ただでさえ大きい教会の力がさらに強大なものになってしまうでしょう。」
マリーは教会との波長が合うのだろう。教会ととても仲良くしているが、王としてはあまりよろしくない。宗教勢力の政治への介入は防がなければならないものであった。
ここで王はしばらく黙った。次はどちらについての話を聞こうか迷っているようであった。すなわち、王が残りの二人のどちらを王とするかで迷っているということでもある。
やがて王はゆっくりと言った。
「カサブランカについて聞こう。」
選帝侯が語り始める。
「カサブランカ様は政治、行政、軍事などに幅広い知識を有しております。それに、領主として実際に領地を運営した経験もあります。国王になっても安定した手腕を発揮できるのではないかと思います。」
「領地を治めるのと王国を治めるのは雲泥の差だがな。だが確かにその通りだ。短所は?」
「やはり、貴族との関係が最悪であることでしょう。カサブランカ様は貴族を激しく嫌い、敵対心が溢れております。あの方が国王になっても、王国中の貴族が納得しないでしょう。」
「カサブランカはなぜあれほどまでに貴族を嫌っておるのか。」
王は苦笑した。
カサブランカの唯一にして最大最悪の欠点は貴族を嫌っているということだ。これは憎んでいると言った方がいいのかもしれない。
どうやら、彼女は「王国のすべては王によって治められなければならない」という心情を持っているようであった。その気持ちもよく分かるが、国土の8割が貴族によって治められているラプラス王国において、貴族との対立は最悪である。
「確かに致命的な欠点だな。王国を運営するには貴族との協力が必要不可欠だ。」
「最後にルイスについて教えてくれ。」
ルイスの名前が出ると、選帝侯たちは活き活きと語り始める。みなルイスのことはとても評価しているらしい。
「ルイス様は非常に優秀なことはもちろん、貴族たちとも良好な関係を築いております。調整力がとても優秀なルイス様が国王になられましたら、貴族たちも喜びましょう。」
ルイスの欠点は何も言わなかった。まあ、大きな欠点は特にないだろう。王は必ずしも優秀である必要はないが、愚かであってはならない。宰相や貴族とうまく関係を築いていくことこそが重要な役割だからだ。
「分かった。そなたたちの忌憚なき意見に感謝する。」
王は立ち上がって礼を言うと、選帝侯たちをドアのところまで見送った。
彼らが全員退出すると扉を閉めて声が漏れないようにしてから大宰相に尋ねる。
「ルーベル。いまの選帝侯たちの意見はどう思う?」
「やはり選帝侯と言えども所詮は貴族。彼らの意見が貴族の意見と思って構わないでしょうな。」
「貴族はルイスを推す、ということだな。」
「確かにルイス様は貴族と良好な関係を保っているように思います。しかし、それが行き過ぎて貴族の影響力が大きくなりすぎることが心配であります。」
「ルイスはあまりにも貴族にべったりだ。あいつが王になったら国政が貴族に完全に乗っ取られる可能性だってある。」
貴族にとって、貴族と最も仲がいいルイスを推すことは至極当然のことである。一方で、貴族と王国の利益が必ずしも一致するとは限らない。ルイスを王にすることの危険性はそこである。
「貴族に寄りかかるルイスと貴族を激しく嫌うカサブランカ。この二人を混ぜて割ったらちょうどいい君主ができるのだがな。」
王は苦笑しながら本音を話した。




