旧領民たち(5)
ハウサ、リシュ―との話し合いが終わったアークは急いで屋敷に戻る。リシュ―が来てからずっと大荒れしているミネルヴァのフォローをしなければならない。
「何があったんだ?鬼のような形相で戻ってきたぞ。」
アークが戻ってくるのをテュールが待っていた。何も事情が分からないままにミネルヴァの嵐に巻き込まれてとても戸惑っている。
「ミネルヴァは今どこに?」
「寝室で泣いてる。」
アークは急いで寝室の前まで行って一つ呼吸を整えた後、ゆっくりとノックした。返事はないのは分かり切っていたのでそのまま入る。
「ミネルヴァ入るぞ。」
部屋は明かりを付けず、カーテンも閉めているのでとても暗い。その中で、ミネルヴァがベッドに腰かけていた。
「ミネルヴァ、、」
アークは隣に腰かけてミネルヴァの肩を抱き寄せるが、彼女はぷいと顔をそむけてしまう。アークは彼女の顎を指で支えてくいっとこちらに向ける。泣きはらした顔は涙の跡がくっきりと残り、目は充血していた。
アークはハンカチを取り出して彼女の顔をやさしく拭う。
「こんなに泣いて。美人な顔が台無しだ。」
「誰のせいだと思ってるの。」
「何が気に入らなかったんだ?」
「それに気づかないところ。」
ミネルヴァはすっかり商人の教育を受ける前の口調に戻っている。今はどこにでもいるただの女の子だ。ミネルヴァは父のしっかりとした教育を受けてきた結果、非常に可憐で優秀な女の子になったのだが、昔からアークのことになると建前とか外面をほっぽり出して等身大に戻る傾向がある。
「まあ、そう怒るな。リシューには商人時代にとても世話になったんだ。あいつのおかげで冒険者たちが競ってうちの店から買っていってくれたんだから。」
「世話って、、下の世話もでしょう。」
「ミネルヴァ、そんなこと言うもんじゃないよ。」
慰めるはずが思わず注意してしまう。父や兄ほどではないがアークも妹を大変可愛がっている。そんな妹の口から下品な言葉が出てきたのはショックだ。
ミネルヴァはアークに注意されて自分の言った下品な言葉に気づいたらしい。少しはっとしたが、開き直って怒る。
「なんでそんなにあの人の肩を持つの?急にやって来た女冒険者に!もう私知らない!!」
また癇癪を起こしそうなミネルヴァを落ち着かせるのはただ一つ、アークはミネルヴァをぎゅっと抱きしめた。ミネルヴァは一瞬ビクッとしたが、だんだん落ち着いてくる。
ミネルヴァの体は華奢だった。こうしていると昔を思い出す。姉イアンナは父と商売に、兄テュールは軍人学校に行っているとき、寂しいと言って泣く幼いミネルヴァをアークはよくこうやって落ち着かせていた。
しばらく抱きしめてそのままミネルヴァを見つめる。彼女の綺麗な顔が至近距離にある中でアークは一言謝罪した。
「悪かった。」
「何が悪いかやっと気づきました?」
「いいや、、」
「まったくもう。」
ミネルヴァは苦笑すると、アークの頬にチュッとキスをした。アークはびっくりして距離を取る。その様子を見て彼女はおかしそうに笑った。
「お兄様は悪くありませんよ。私の勝手なヤキモチです。」
「ミネルヴァ、、」
アークは彼女の頭をポンポンと撫でた。
「お前は俺の妹だ。誰よりも大切に想っている。」
「その言葉忘れませんからね。約束ですよ。」
いつの間にかミネルヴァの口調はいつも通りの丁寧なものに戻っていた。先ほどまでのめそめそと泣いていた女の子はどこにもおらず、いつものミネルヴァにもどっていた。
こうして久しぶりの兄妹喧嘩は無事に終わった。




