旧領民たち(3)
しばらくして、出て行ったミネルヴァが落ち着きを取り戻して帰って来た後、少数で別室に移動しこれからについて話し合いに入る。別室には商人代表ハウサ、冒険者代表リシュー、アーク、ミネルヴァが入った。
しかし話し合いをしようとするも、とても気まずい空気が漂っている。元凶は当然ミネルヴァとリシュ―だ。あんなに大勢の人がいた中で言い争っていたのだから、たった4人になって言い争わないわけがなかった。
先手を打ったのはリシュ―だ。ニヤニヤしながらミネルヴァを挑発する。
「ミネルヴァ様。そんなにボクを見つめて、、照れるじゃないか。」
「は?別に見つめておりません。」
「ミネルヴァ様、なにか思うようなことがあるならいまのうちに言ってくれよ。」
「お兄様。お父様がさんざん言っておりましたよね。商人として隙がないようにしなさいと。特にイアンナお姉様のように、自分の火遊びでウォーデン家に泥を塗るようなことをするなと。」
ミネルヴァはリシュ―に対する苛立ちをアークの方に向けた。そもそもこの兄がこの女を引っかけなければ押しかけてくることはなかったのだ。
だがアークは冷静に反論する。感情的な女性に論理で対抗しようとするのは完全に悪手であるが、アークは少し女心に疎いところがあった。
「それはミネルヴァだけじゃないか?父上はお前をたいそう可愛がっていたからね。商人の娘なんか政治家に嫁がせるのが一般的だと伯父上に言われたときなんか、『イアンナはともかくミネルヴァは絶対に他所にやらない!』って叫んでいたし。」
ミネルヴァは末っ子の妹ということで、父にも兄弟にも大変可愛がられて育てられた箱入り娘である。そのため、頭は優秀であるのだが、精神的に少し幼さが残ることもあるのだ。また、純粋で少し潔癖なところもある。
「むしろ俺は女を口説けないやつが商人として客を口説けるわけがないだろうってよく言われていた。」
「だいたいミネルヴァ様はいい加減に兄離れをしないと。もうすぐ20歳になるんだから」
胸を張って妹を論破してくる兄と、それに乗っかり挑発してくるリシュ―。ハウサは巻き込まれないように窓際に立ってコーヒーを飲んでいる。
「私は若くして領主になったお兄様がちゃんと政治に取り組むことができるように監視をしているだけです。別にお兄ちゃんから離れられない弱い妹ではありません。だから余計なお世話です。」
「お兄様」から「お兄ちゃん」と、昔の呼び名に戻っている。いつの間にか声も少し涙声になってきていた。
「こんな田舎にライバルなんていないと思って安心していたところにボクがやって来てごめんよー。でもミネルヴァ様もヤキモチ焼いちゃって昔を思い出すなあ。」
「うるさいですね。そもそも私はミネルヴァ=ウォーデンですよ!それなのになんでそんなに普通に話しかけてくるんですか。そんな口の利き方、他の貴族なら首が飛んでもおかしくありませんよ!」
さんざん挑発してくるリシュ―に対して、ミネルヴァはついには身分を盾に攻撃した。まるで大衆劇に出てくる悪役の貴族そのまんまである。身分を持ち出さないと相手を攻撃できないというのは、言い争いとしてはもう「負け」である。
ミネルヴァも自身の負けを自覚しているのか、だんだんと嗚咽を漏らし始める。
あ、泣く。
アークが慌ててミネルヴァの肩をさすったが、ミネルヴァはその手を払いのけた。そして半泣きの顔でアークを睨んで叫ぶ。
「もう知りません!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!!」
俺!?
ミネルヴァと言い争っていたのはリシュ―なのにまさか自分が言われるとは夢にも思っていなかったアークはびっくりした。そういう所も含めてアークは「疎い」のである。
「あーあ、アーク君。ダメじゃないか。妹を泣かせるなんて。」
ミネルヴァが出ていった後、リシュ―がニヤニヤしながら他人事のように言った。




