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41話・帰ってきた弟(リード視点)

 前回と違う点は、カナ様が起きている。けれど、反応がない。立たせれば、その場に立っているけれどそれだけだ。

 こんな症状は聞いたことがない。

 今回も、自然に治るまで待つしかないのだろうか。

 何も映さない空虚(くうきょ)な瞳。


「どうしたんだ、カナ」


 あれからカトル様がずっと声をかけているけれど変わらないままだ。

 あの出来事は、彼女の本当の意思だったのだろうか。


『カトルとともにこの世界で生きていきます』


 そう言いにきた時から、すでに彼女の瞳には光がなかった。

 帰りたいと言っていた、あの希望を抱く彼女の瞳と違う、絶望の色に染まったような。

 私の勝手な、想像かもしれない。けれど――。


 何が駄目なんだ? もう一人の私が問い掛けてくる。

 カナ様がこの世界に残れば、カトル様は喜ぶ。私は、二人の笑顔を横で見続けられるというのに? 私の望む未来だろう?


 違う、私が見たいのは――。


 コンコンコン


 勢いよく、部屋をノックする音が響いた。


「帰ってそうそうに申し訳ありません。急ぎ、殿下にご報告とお願いがございます!」


 私によく似た声がする。帰ってきたのか?

 もう一人の聖女、リサ様を連れ戻しに出ていた私の弟。


「ルードか、入れ」

「失礼します。――っ?! カナ様?!」


 何かを悟ったような顔になり、弟は急ぎ足で私達のもとに来た。


「今から言うことは、すべて真実です。急ぎ、対処をお願いします! カナ様は―――」


 ーーー


「そんな戯れ言を信じろというのか?! 偽者の女の言うことを」


 目の前で、弟がカトル様に蹴り飛ばされた。それは一瞬の出来事で、私は動けなかった。また、私は彼を助けられない。


「お願いします。カナ様の為なんです」


 ルードは必死に頭を下げる。彼がここまでするのに、カトル様は、拒絶するのか……。


「殿下、もしかしたらカナ様をもとに戻せるかもしれません。いつでも何があっても対処できる様にして、試させてみてはどうでしょう。殿下も横でカナ様を守っていただければ。今現在、カナ様に施す術がまったくないのですから……」


 私も蹴られるのを覚悟して提言した。すると、カトル様は少し考え込み頷いた。


「リードが言うなら、やってみよう。ただ、カナに何かあれば二人揃って、覚悟をしておけ」


 説得できたようだ。私が交わした契約のおかげか、複雑だが、仕方がない。


「聞き遂げていただきありがとうございます」


 私は礼をして、弟を連れて部屋を出た。


「さっきの話、信じられるのか?」


 弟は、今まで見たことがないくらいに力強く頷いた。


「わかった、すぐに準備をする。お前は手当てをしてもらってこい。ただ、こちら側に並んでもらうぞ」


 そう言い残し、私は走った。


 ーーー


 カナ様といつも練習をしていた場所。ここに私達は並べられた。

 リサ様とアリスト様はたった二人で私達の前に立つ。


「いいか、カナに何かあれば、(みな)首が飛ぶと思え」


 アリスト様側の人間すべての命をカトル様は天秤に乗せる。

 これほどまでに、カナ様に執着する(さま)は、見るたびにマナエル様という空いてしまった穴がどれほど大きなものだったのかを思い知る。


 けれど、カナ様はマナエル様ではない。他人の替わりなどと期待してはいけなかったのかもしれない。


「兄上、リサちゃんはカナの為に――」

「殿下、リサ様は先程話したように――」


 アリスト様とルードが同時に口を開く。先ほど蹴り飛ばされ、なお、弟はリサ様を庇っている。もしや、彼は……。


「うるさい、ルードは黙っていろ。カナがただ一人の聖女だ。その女がカナの為に働くのは当たり前だろう。カナから聖女の魔力を奪ったのだから」


 確証もなく彼は断定する。奪ったかどうかは、本人にしかわからない。それに無自覚だった場合はリサ様のせいではない等、色々と考えられる状況は他にもあるというのに。


 リサ様が祈るように、精霊の名前を呼んだ。


「シェイド」


 弟が言っていた、闇の精霊の名前。

 私は小さく同じように呟いてみたが、魔法は発動することはなかった。

 カナ様が黒い闇に包み込まれる。これで、彼女についているという魔獣の卵がなくなるのだろうか。

 魔獣の卵のせいで、カナ様があの様になっていたとすれば、もとに戻って――。


 しかし、闇に包まれるという光景のためか、まわりから不安の声が次々とあがる。


「カナ様は無事なのか?」

「あれは、本当は魔女の呪いでは?」


 その言葉は、私達はもちろん、カトル様にも聞こえてしまっているだろう。


「カナ! 魔女め、光の聖女を闇に捕らえるとはどういうつもりだ」

「兄上!」

「殿下、私が説明したではないですか! すぐに終わります!」

「カナ! カナ!」


 不安の種が、カトル様から芽吹いてしまったのだろう。


「もうやめろぉぉーーーー! 私はもう、失いたく――――っ」


 カトル様は剣を抜き、リサ様へと向かった。

 私はカナ様のそばから離れられず、カトル様を止めることが出来なかった。


 剣が何かに突き刺さる鈍い音がした。


「兄上」


 アリスト様が、リサ様の前に出て、カトル様の剣を止めた。

 その身を貫かれることで…………。

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