友人がまさか
これはソロモンが魔法陣の中央で座禅を組む少し前。
魔法陣の中央に居るソロモンが深呼吸をしている。少し緊張してるのか、表情が少し硬い。てか若干怖い。
「あれあれー、ソロモン顔がこわばってるよー? なになに、まさかまさかな感じー?」
ニヤニヤしながらイサムが言う。こいつ完璧にソロモンのこと挑発してやがるな。
「だ、だれが緊張なんてするか!」
少しムキになりながらソロモンが返す。ソロモンよ、そんな感じで言ったら緊張してるって言ってるようなものだぞ?
「緊張してるー、なんて一言も言ってませーん」
更にニヤついた表情でイサムが返す。
あーあー、この二人は何やってんだか。売り言葉に買い言葉。子供みたいの言い争いが始まった。お前らは小学生か。
どんどん口論がエスカレートしていく。サンタロスも苦笑いが深まっていく。おれはギャーギャー騒ぐ二人に対して少し声に怒気を込める。
「イサム、いい加減にしろ。ソロモンもいちいちこのバカの言うことに乗せられるな、落ち着け」
おれは魔力を少し溢れさせながら言う。体をビクッ!とさせると二人共黙ってしまった。イサムは怒られたことに対し少し拗ねたようにムスッとしている。ソロモンは落ち着きを取り戻そうと座禅を組み始めた。ソロモンはこの調子なら大丈夫だろう。
「はあ……」
ため息が出る。ほんとバカな幼馴染たちだ。この世界に転生してからおれが腐った大人のようにならなかったのはこいつらのこんな性格のおかげでもあるから中々憎めない。
それにしても……
そう思い隣を見る。未だに怒られたことに対してブーブと文句を言ってるイサム。先程よりも威力を上げて蹴りを打ち込み黙らせる。蹴られたことに対して「なにすんだよ! また蹴って!」とかうるさく言っているがシカトだ。
(イサムの奴、魔力の量が桁違いに上がっていた。それに体格にも変化があったように見えるな。なにより、普段赤色に近い髪の色をしていたのに、あの状態だと青白くなっていた)
推測だがブーストの魔法は単に自分の前世を知って力を得るというよりは、現在の魔力と魔法陣から出た魔力を交わらせて潜在的な力や過去の力の一部を引き出す魔法のようだな。だからこそある一定の強さをこの世界の人たちは得ているわけだ。
なら、元から過去の記憶……それも異世界での記憶があるおれは?そもそも異世界転生者がこの魔法陣に入ったことはあるのだろうか?
(おれがこの魔法陣に入ったらどうなるんだろうか……それにあの魔法陣から出る魔力。自分の力である程度制御できないだろうか? 少し試したいことができたな)
そう考えていると魔法陣から光が漏れてきた。どうやら順調に進んでいるっぽいな。少し自分の世界で考えこみすぎたみたいだな。
「あれ? 漏れてる魔力の色が違う。さっきは青白かったのに今回は白色?」
それに金色が混ざっているみたいだな。これはどういうことだ?
「それはですね、魔法陣から漏れ出る魔力や魔法陣の光りの色によって過去の魔力の性質がある程度はわかるのです。基本は一色。赤なら火、青なら水といったように。しかし稀に二色、極々稀に三色の色を持った人もいるらしいですよ」
そう説明した後「わたしは三色の人には会ったことないのですが」とサンタロスは言った。三色以上は見たことがないのか。イサムやソロモンは二色だったな。二色でも十分レアケースみたいだし凄いことなんだろう。
「どんな進化をしてくるのやら。今回もレアケースみたいだし、悪いことにはならないはずだがな」
「たしかにねー。それにソロモンは魔法が苦手だからね。そのせいで家の人たちから居ない者扱いされてるし、そのことが解消できたらいいよね」
サザーランド家は代々新魔法の開発や魔道具の生産に力を入れている。そのため魔法が苦手なソロモンは居ないものとして扱われている。体術は得意なんだがな、この世界でも貴族や国のトップの家には代々の役職や地位を守るためにその家にあった才能が必要とされる。
イサムなら不死身の炎を宿した騎士としての、ソロモンなら国の頭脳としての魔法の才能が、おれなら国王の息子としての。おれの場合は力や才能はチート級であるが、はっきり言って性格は最悪だ。聖人君子ではないし見ず知らずのために命や時間を使うなどまっぴらごめんである。それに加えて地球での記憶のおかげで異常なほどの理解力と頭の回転の速さもある。
こうした要因のおかげで、おれはただの不気味な12歳の出来上がりとなのだ。
そうこしていると魔法陣の光りは次第に強くなり、イサムのときと同じように目を開けているのが困難なくらいに輝いている。目を開けれなくても魔法陣から尋常じゃないほどの魔力が流れているのが感知できる。
それから待つこと数分。
ドンッ!という衝撃とともに魔法陣の光が消えた。そして、目を開けるとゆっくりと中から歩いてくるソロモンの姿が見えた。
猫耳と尻尾を生やして……
「え? は? なんなのそれ?? どうしたらそんな進化をするんだ」
「いやいやいや!? なんでそんな風になっちゃてるわけ!?!?」
ソロモンのありえない姿に驚きを隠せない。普通考えてさ、親友がレベルアップしてきたら猫耳と尻尾を生やしました。なんて予想できるわけない。
「二人ともうるさいよ。俺だって言いたいことがないわけじゃないんだがな」
そう言ってソロモンは体から魔力を溢れさせる。その魔力は過去に遭遇したどの魔物も目じゃないレベルのものであった。
「——————ッッ!!」
「いくらなんでもそんなにとかやばくない?」
おいおい、こいつどんだけ化けるんだよ。
目の前には魔力をこれでもかと溢れさせながらニヤニヤ顔が止まらず、ついでにと言わんばかりに右手から風の魔法を操る幼馴染がいた。
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