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第74話 動向


 ユウト達三人がデートをした翌日。

 朝食のため居間に向かったユウトは、その直前で足を止めた。

 ――やっぱり居る、よな。

 もうすぐ朝食の時間なので、いつも通り居間の中ではエリスとソフィアが配膳をしている。居て当たり前なのだし、今を避けたとしても、どうせすぐにでも顔を合わせることになる。それは分かっているが、どうにも顔を合わせるのが気恥ずかしかった。

 入り口の脇で蹲り、ぺたぺたと自分の顔を触る。

 ――どんな顔すれば良いんだ……?

 雰囲気と勢いに呑まれて、ついつい告白まがいのことをしてしまった。そのこと自体は後悔していないし、二人に泣かれてはしまったが、嫌だったわけではないと言っていた。もしかして、嬉し泣きだったのかな。と思ったりもして、昨夜は時折無意識に頬が緩んでしまっていた。

 しかし、一夜明けて、改めて二人と顔を合わせると思うと、どんな態度を取れば良いか分からない。いや、多分いつも通りの顔をしていれば良いのだろう。だが――。

 ――俺、いつもどんな顔してたっけ?

 今度は頭を抱えてうんうん唸り始めるが、考えれば考えるほど分からない。そもそも考えてしていた顔では無いので、普段の顔なんて分かるはずも無い。

 ふと、二人はどうなんだろうと思い、居間の中を覗き込む。――と、エリスと目が合った。エリスはきょとんとして、相手がユウトだと認識すると頬を赤らめた。


 「エリス……?」


 手の止まったエリスを不思議に思い、ソフィアがその視線を追う。そして、入り口から顔を覗かせるユウトに気付いた。

 ソフィアにも気付かれ、隠れている意味が無くなったユウトが二人の前に出て行き。


 「おは、よう……」


 顔を見ることが出来ずに目を逸らしながらそう言うと。


 「は、はい。おはよう……ございます」

 「その……おはよう」


 二人も同じようにユウトの顔を見れずに俯いた。

 それでいながら、お互いにちらちらと顔を見ようとして、すぐにまた目を逸らす。どうやら恥ずかしいのはお互い様らしい。

 そんなことをしばらくの間繰り返していると。


 「……お前ら、それいつまでやってる気だ?」


 呆れたような声に、三人がビクリと肩を跳ねさせて、一斉にユウトの背後――声の主に視線を集める。そこには、「何やってんだ、こいつら」と言わんばかりの顔をしたギルツがいた。


 「ギ、ギルツか。脅かすなよ」

 「脅かすなじゃない。……別に、俺はお前等がいつ、どこでイチャつこうが見て見ぬ振りをしてやるがな。せめて邪魔にならんところでやってくれ」

 「あ……」


 三人の声が重なる。

 言われて気付いたが、居間の入り口を完全に塞いでいる。しかも、エリス達と朝食の用意をしていたらしいサーシャが、困った顔で台所から顔を覗かせていた。

 あせあせとユウトが入り口からどくと、ギルツが何もなかったような顔でユウトの横を通って席に着き、エリスとソフィアは俯きながらサーシャのところへ戻っていった。

 そして、一人居間に残ったユウトは。


 「ああいうの、子供の教育に良くないんじゃねぇかと俺は思うわけだが。どう思うよ、なあ?」


 などと、朝食の準備が整うまでねちねちと言われ続けた。




 その一方で、ユウトいびりを楽しみながら、ギルツは内心で安堵していた部分もあった。

 異世界から来たせいか、ユウトの価値観は所々こちらの常識から外れているところがある。そのため、エリスとソフィアとの関係が上手く進展していなかった。

 一般的なこちらの世界の男がユウトの立場にあれば、とうに二人共に手を出していたことだろう。それをしようとしない部分も二人が気に入っているところなのかもしれないが。

 それはそれとして、昨日のデートで何かあったようで、三人の雰囲気が随分変わっていた。今まで以上に互いを異性として意識するようになったようだ。意図して三人をデートに行かせたギルツとしては、それは喜ばしいことだ。

 しかし、見えないところでならば、どうぞ好きにしてくれと言ってやるのだが、流石に飯時の居間の前であれをやられるのは困る。あの桃色空間にあてられる者が続出してしまう。

 ――思い出すと口から砂糖を吐き出しそうだ……。

 初々しいというか、いっそ「乙女かっ」とツッコミを入れてやりたかった。いや、実際にその内二人は乙女なのだろうが。

 何はともあれ。

 ――これで、憂いが一つ減ったな。

 ここから先、どうなるかは三人――というか、エリスとソフィア次第だろう。ユウトの価値観を覆すなり、妥協させるなりして、二人同時に付き合えるように仕向けなければならない。だが、そこまで手を貸すつもりは無い。

 ――まあ。貸す必要も無いだろうが。

 ギルツの目には、ユウトの陥落は秒読み段階にあるように見えていた。

 何だかんだ言って、両側に二人を侍らして当然の顔をして戻ってきているのだから、心のどこかでは受け入れているのだろう。

 そうして、自分の手を必要としなくなっていくことに安心しながらも、どこか寂しく感じていた。




 食事が済むと、ユウト、ギルツ、エリス、ソフィア、それにウェンディの五人は旅支度を整えた。と言っても、元々今日出ることは決めていたため、装備を身に付けるくらいだし、ウェンディに至っては特に何も持っていない。

 五人が支度を整えて館を出てきた時には、サーシャ達が先に厩舎から三頭の馬を館の玄関前まで引いて来ていた。

 館の裏側には厩舎がある。元々が馬車を利用することが多い領主の館だけあって立派なもので、ユウトとギルツが連れていた馬も気に入っているようだった。その二頭は当然として、もう一頭は今回の旅のために用意したものだ。

 今回の旅は五人だ。女性が三人とは言え、二頭で乗り分けるには馬の負担が大きい。ウェンディが正確な場所を口にしないこともあって、どの程度期間がかかるか分からない以上、極力馬に余計な負担はかけたくなかった。

 しかし、そうなると乗り手が三人必要になるのだが。幸運というべきか、ソフィアは前にウェントーリ大山脈から戻る際に乗馬の訓練をしていた。時間の余裕があったこともあり、別れを惜しむソフィアの気晴らしも兼ねて練習していたのだ。おかげで、別れる時には一応一人で乗れる程度には上達していた。

 そうして騎手の件は解決したのだが、今度は別の問題が発生した。

 ユウトの後ろに誰が乗るか、だ。

 当然、最初はエリスがユウトの後ろにと言い出したのだが、ソフィアが全力で却下した。曰く「エリスだけずっとユウトとべったりなんてずるいわっ!」とのことだ。

 別の女(ウェンディ)がというのも素直に頷けないところではあったが、ユウトがウェンディを異性として見ている気配が全くと言っていいほど無かったため、二人は渋々承諾した。

 それはともかく。全ての準備を整えた五人は、その時には来ていたアニー達に皆の護衛をお願いし、サーシャ達に「行ってきます」と告げて、館を出た。

 あっさりとした別れの挨拶だったが、これで良い。旅に出る以上危険は伴うが、魔物と戦いに行くわけでも無いし、これからこんなことは何度もある。その度に今生の別れのようなこともしていられないし、当然に行って当然に帰ってくるという願掛けもあった。

 そうして王都を出て、すぐ。


 「なんで案内役のあんたが一番行くのに不満そうなんだ……」


 前を向いたまま、背後に乗っているウェンディに声をかける。

 勿論、今どんな顔をしているかまでは見えないが、少なくとも館を出る直前まではそんな顔をしていた。


 「もうちょっと見て回りたかったっすー。まだ帰りたくないっすー」

 「子供かっ」


 ぶーたれているウェンディにツッコミを入れる。

 王都の滞在期間は五日、王都に来た日と今日を除けば正味三日だ。二日目の買い物では色々歩き回ったが、その後はほとんど出歩いては居ない。観光気分だったウェンディが不満に思っても仕方が無いかもしれない。しかし、そもそもウェンディが居るのは、ユウトを母親の元へ連れて行くためだったはずなのだが。


 「……目的を完全に見失っているな」


 そんなウェンディの様子にギルツも半ば呆れている。

 ウェンディの母親が重要な情報を握っているらしいということが分かる前であれば、「なら行くのは無しで」と言ってしまえたのだが、今となってはそれも出来ない。

 唯一行き先を知っているウェンディがこれでは、どこに向かえば良いのかも判然としない。もっとも、ユウトだけは大方の予想がついていた。


 「仕方ない。とりあえず南側を回って東に行こう」

 「……どこかで通ったルートだな?」

 「何か知ってるの?」


 ユウトの指示にギルツとソフィアが問うような視線を向けた。ほとんど迷い無く行き先を告げたユウトに疑問をもったらしい。


 「いや……。ただの勘だよ」


 そう否定したが、ほとんど確信に近いものがあった。未だ正体を明かさないウェンディがユウトの想像している通りの存在ならば、目的地はあそこで間違いないはずだ。

 その後、今度また連れて来るという約束で、ようやくやる気を見せたウェンディが出した指示は、やはりユウトと同じだった。




 アルシールの王城内。

 その中でも最も高い位置にある一室に、ある男が向かっていた。その男は白銀の鎧を纏い、大振りの大剣を腰に下げた偉丈夫だ。

 男は目的の部屋に着くと扉を強く三度叩き、返事を待たずに開けた。中に入ると、男は膝をついて頭を垂れた。


 「陛下。近衛騎士第一席シグルド、参上致しました」


 部屋の中に居たのはアルシール王レオンハルトであった。

 レオンハルトは読んでいた本を置くと、シグルドに向き直る。


 「ここには我等しか居らん。畏まる必要は無いと言っているだろう」

 「いえ、私は臣下の身ゆえ」

 「相変わらず頭の固い男だ」


 ふっと息を吐いて苦笑する。

 その口調は玉座に座している時とは違い、友人に向ける気安いものだった。

 ここはレオンハルトの私室のすぐ近くにある書庫だ。使っているのはほとんどレオンハルトだけで、私室同然になっている。そのため、相談事や気分転換にシグルドを呼ぶことがあり、今日もそうだった。シグルドが返事を待たずに部屋に入ったのも、レオンハルトの意向でそうするようにと前々から言われていたためだ。

 王城内でも意外と知る者は少ないが、レオンハルトとシグルドは子供の頃からの知り合いだ。シグルドの父はレオンハルトの父である先王に仕える騎士だった。シグルドの家系は代々騎士を輩出していることもあり、次代の王とそれを支える騎士になって欲しいという意図から互いの父親によって子供の頃に引き合わされたのだ。

 今でこそどう見ても主従という関係だが、子供の頃はそういったしがらみとは無関係に付き合える良き友人だった。そんなこともあり、レオンハルトにとってシグルドは最も信頼する者の一人だった。


 「申し訳ありません」


 シグルドが頭を下げたまま硬い返事をした。それを少しだけ寂しく感じる。

 シグルドが近衛騎士になった辺りからだろうか、友人という関係を表に出さなくなったのは。

 それも仕方が無いことなのは理解している。シグルドに限らず、軍事や内政で強い力を持つ者とは公私の区別をつけなければならない。しかし、邪推する者や兎に角粗を探そうとする者の中には、そのような理屈すら通じない者も居る。そういった者の付け入る隙を完全に排除するためには一切の私を見せないのが一番確実だ。シグルドはそれを分かって徹底しているのだ。


 「なんにせよそのままでは話も出来ん。そこに座れ」

 「はっ」


 そこまで言われて、ようやくシグルドは立ち上がってレオンハルトの対面にある椅子に座った。

 すると、シグルドが机の上にある本に目をつけた。


 「また、それをお読みになっていたのですか」

 「うむ。まあ、今回は必要になるかと思って確認していただけだ」


 そう言って、本の表紙を手でさする。

 本と言っても、申し訳程度に製本しただけで中身は単なる手記だ。古い物であるため、ところどころ色褪せたりしている。レオンハルトはこの手記が好きでは無かった。正確には手記に記されている内容がだ。しかし、好きではないが故に、暇があると読むようにしていた。――同じ過ちを犯さないように。

 もっとも、今回はそれが理由ではなく、今後必要になるかと思って、内容を改めていたのだ。

 「さて」と一呼吸置いてから、レオンハルトの表情が真剣さを帯びる。


 「呼んだのは他でもない。ここに来て活発になっているエイシスの動きについてだ」


 漠然とした問いだったが、シグルドはその意図を正確に理解した。


 「聖櫃に足を踏み入れた侵入者が彼の国の宮廷魔術師であるならば、その目的も同じと考えるべきかと」

 「……聖櫃の解放、か」


 侵入者――ヴァルドの素性が知れる前であれば、クーデターのどさくさに紛れて侵入した賊で片付けられるが、その身がエイシスの宮廷魔術師であり、クーデターにエイシスの兵が加担していたことからすれば、ヴァルドの行動はエイシスの目的に基づいたものと見るべきだ。そして、意図して聖櫃を目的としていたのであれば、解放以外の理由が存在し得ない。

 聖櫃の中身は秘匿されており、アルシール内で知っているのは代々の王と近衛騎士第一席だけだが、四大国の一つであるエイシスが知っているのはおかしな事ではない。しかし、知っているのならばこそ、腑に落ちない。


 「……何故そんなことをする。まさか滅びが目的などと言うわけでもあるまい」


 聖櫃は解放されてはならない。代々のアルシール王が伝え聞く言葉であり、その中身を知った時レオンハルト自身も強くそう感じた。中身を知っていればこそ、普通ならば手を出そう等とは思わない筈だ。


 「……意のままに操る術がある。若しくは、その自信があるのかもしれません」

 「そういえば、ヴァルドは魔物を操っていたらしいな」

 「はい。セインの報告によれば」

 「直接対峙したのはセインだったな。お前の息子は本当に優秀だな」


 既にセインがヴァルドと相対したことは報告を受けていた。だからこそ、エイシスが関わっていることが分かったのだ。聖櫃に侵入した賊が何者かも分かって居なかったため、セインの持ってきた情報の価値は大きい。


 「恐縮です」


 ――つまらん。

 息子を褒められて少しは喜ぶかと思ったが、返って来た反応はいつも通りで、思わず顔を顰めた。

 シグルドはこう見えて子煩悩というか、親バカな面がある。セインが近衛騎士になった時はしばらくの間目に見えて機嫌が良かったし、下の息子――カインが家を飛び出した時は酷く動揺し、二人の妻から逆に叱責されていたくらいだったのだが。

 ――む、横道に逸れたな。

 思考を正し、レオンハルトは改めて表情を引き締めた。


 「狙いは冒険者だったらしいな」

 「セインが近衛騎士にと推挙した、ユウトという者です」

 「そうだった。あのセインが推挙した冒険者と聞いたが、エイシスが狙ったとなると尚のこと興味が湧くな」

 「セインが言うには、実力は現近衛騎士の中でも中の上、将来性なら一番だろう、と」

 「ほお! あれがそこまで言うのか」


 シグルドの言葉に、レオンハルトが目を輝かせた。

 セインの能力はレオンハルトも当然知っている。いずれはシグルドの後を継ぎ、第一席につかせることになるだろうと考えているくらいだ。そのセインが将来性一番というのなら、それだけで相当なものだと期待が高まる。レオンハルトは王であって戦う者ではないが、男として強い者に対する憧憬はあった。

 

 「――と、すまんな。つい、興奮してしまった」


 しかし、今はそんな話をしているのではないと、すぐに我に返った。


 「ならば、その者を狙ったのは、邪魔になるのを恐れてか?」

 「おそらくは。ヴァルド本人が、近衛騎士になられては邪魔になると言っていたそうです」

 「ふむ……。やはり、エイシスの狙いは聖櫃に一貫しているか」


 ヴァルドを一度撃退したのは近衛騎士だ。その近衛騎士に戦力を増強されたくないと思うのは自然であるし、その分聖櫃の解放も困難になるのだから、それを避けるためというのは理由としては妥当だろう。

 結果的に失敗に終わっているが、ヴァルド自身は今のところユウトが死んだと思っている可能性が高い。仮に、そう思っているならば――。


 「次はどう出るか」

 「聖櫃の解放を確実になそうとするならば、近衛騎士を王都から遠ざけようとするでしょう」


 それ以上の戦力で正面から潰すというのも手だが、一番確実なのは相手にしないことだ。一度邪魔をされているからこそ、余計に直接やりあうのを避けようとするだろう。


 「……国境を狙って、その守りに近衛騎士を呼び寄せる。そして守りの薄くなった王都を本隊で襲撃といったところか」

 「件の魔物は並の騎士では相手が難しいと聞いています。それが複数体現れれば――」

 「近衛騎士を動かさざるを得んな」


 苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

 それが狙いと分かっていても、そうなった場合放置することは出来ない。確実に近衛騎士の数を割くには良い手だ。


 「それにしても、エイシス王や民達は何とも思っていないのか……?」


 魔物は本来人と相容れない存在だ。一部の例外を除けば、人を襲い、知性も無いのだから当然だ。

 いくらヴァルドが宮廷魔術師で、魔物は操られているとはいえ、そんな存在を懐に入れることを容認するなど正気の沙汰とは思えない。仮にアルシールでそれを行なえば、大多数の者は反発するだろう。

 そもそも、魔物を操るということが何を意味するのか、国が違うとはいえ、マルクス大陸に生きる者なら知らないはずは無いのだが。

 すると、何かに気付いたシグルドの顔色が変わる。


 「……ヴァルドが操れるのは魔物だけ、なのでしょうか?」


 その言葉に、今度はレオンハルトの顔色が変わった。

 確かに、魔物しか操れないとは限らない。そして、その場合、最悪と言って良い事態になっているおそれがある。


 「すぐにジェイクに確認を取らせろ。既に国同士の問題では無くなっている可能性がある」

 「承知しました」


 レオンハルトが焦ったように指示すると、シグルドは即座に部屋を後にした。

 そして、一人書庫に残ったレオンハルトは更に思考に耽る。

 ――多少ルール違反ではあるが、事情が事情だ。ジェイクも無碍にはしまい。

 現在四大国は互いに国の内情を探る手段は殆ど無いが、全ての国に存在し、連絡を取り合えるギルドだけはその例外だ。他国の内情にもそれなりに詳しいし、他国にあるギルドと連絡も取れる。

 ギルドは本来国同士のことに不介入だが、それを超えた――それこそ国そのものが操られ(・・・・・・・・・)、|他国を巻き込んで滅亡に向かおうとしている《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》ような場合には、話は別だ。しかも、相手は魔物を操ってすら居る。ここまで来ると、国同士の紛争や戦争という枠に収まらない。

 休むことなく考えていると、更にその先に至り、ポツリと呟いた。


 「もしかすると、既にフォルセナとバイセルにも手が回っているか」


 聖櫃の解放が目的ならば、同様の封印が存在する他の二国に手を出さない理由は無い。今はまだアルシールにかかりきりだとしても、いずれそうなるのは間違いない。

 仮に全ての封印を解放したとして、その後に何をしようとしているのかは分からない。四大国の支配か、大陸全土か。もしくは、それらとは全く関係の無い何かか。なんにせよ、自分勝手な理想や妄想に他ならないだろう。

 そう思うと、自然と口を衝いて出ていた。


 「何故、彼を静かに眠らせてやれんのだ……っ」


 その独白には、言葉に出来ない様々な感情が篭められていた。


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