第73話 三人の時間
二日間を殆ど丸々鍛錬に費やし、三日後。
ユウトは頼んでおいた武器を受け取るため、ドバンの店に来ていた。
「来たな。今日は三人だけか?」
「ええ、まぁ……」
どこか歯切れの悪いユウトとは対照的に、エリスとソフィアは嬉しそうな顔をする。
「これからデートなんです」
「ほお……」
感嘆の声をあげながらドバンがユウトを見る。
しかし、当のユウトは居心地の悪そうな顔をしていた。
――ふむ? ユウトが誘ったという感じでは無いな。
ユウトの態度でドバンはそう判断したが、それは正しい。
この状況を作り出したのは主にギルツであり、その意図を察したサーシャ達が気を回した結果だった。
それは、朝食の席で今日の予定を決めていた時だ。
「俺達だけ?」
「あぁ」
驚いて聞き返したユウトに、ギルツが頷いた。
「全員顔合わせは済んでるし、頼んであるのはお前の武器だけだ。わざわざ全員で行く必要も無いだろ」
「いや、確かにそうだけど。それを言ったら俺一人でよくないか?」
「はあ……」
「そんな、駄目だコイツ。みたいな溜め息吐かんでも……」
「吐かれたくないなら、改善しろ」
ギルツはもう一度深い溜め息を吐くと、責めるような視線を向ける。
「あのな。確かに俺達は遊びに来ているわけじゃない。幾らそれを分かってついて来ているっても、お前を慕って一緒に居る女を気遣うくらいのことはしろ」
「う……」
「嬢ちゃん達も、少しくらい文句言ったって良いんだぜ。デートくらい連れてけってな」
「あはは……」
気まずそうなユウトを横目に、エリスとソフィアも困った顔で笑っている。
二人とてユウトからデートに誘われれば勿論嬉しいし、デートもしたいと思っている。だが、そのことをユウトに告げるには、二人は気が回りすぎた。
エリスとソフィアがパーティーに加わってから、ヴァルドの襲来、王都への引越しとそれどころではなかったし、今もスバルがヴァルドに操られている。
そんな状態でデートがしたいなどと言い出すのは不謹慎だと思ってしまうのだ。
一方のユウトは、どちらを選ぶか結論が出ていない状態でデートに誘うことなど出来るはずも無く、当然二人一緒にという選択肢も無い。
ギルツはそんな両方の都合を概ね理解しているため、こうして背中を押していた。
「それとも、嬢ちゃん達のデートは不満か?」
「そういう訳じゃないけど……」
「なら、たまにはサービスしてやれ。夜まで帰ってくるなよ」
「うん……。うんっ!?」
頷いた後、僅かに時間を置いて、ぎょっとした顔でギルツを見る。
いつの間にかドバンの店に行くだけでなく、そのまま夕方までデートすることになっていた。
納得いかない部分は多々あったが、ユウトは恨みがましい目でギルツを睨むのが精一杯だった。
「ユウトさんとデート……」
「えへへ。どこに行こうかな」
二人があまりに夢見心地で嬉しそうにしていたので、今更デートはしないと言える雰囲気では無かった。
直後、「ウチも行くっす」と元気に手を上げたウェンディはサーシャに言いくるめられ、大人しく留守番することになっていた。
そして、今に至る。
――好き勝手言ってくれるよな。
館を出る際にギルツに言われたことを思い出して、釈然としない気分になる。
ここには居ないギルツに内心で恨み言を積み上げていると、ドバンが用意していた物を取って来た。
「とりあえず、依頼のもんは完成してるぞ」
そう言って、ドバンは白夜と同じ白と黒の刀身を持つ脇差と、五本の漆黒の飛刀を広げる。
「勿論、こいつもな」
ニッと笑いながら、今度は手にした白夜を抜いた。
研ぎ直して輝きの増した刃が光を弾く。
ユウトがそれを見たのを確認すると、再び鞘に納めた。
「脇差の方は見た通り、白夜と同じ魔物の素材を混ぜた鋼を使用している。飛刀の方は使い捨てになることを前提に、頑丈さを優先して極力安価で済むようにした。飛刀の方は俺も手探りで作ったんで、何か気になる点があれば言ってくれ」
ドバンの説明を聞きながら、ユウトは脇差と飛刀を確かめる。
脇差の方は白夜を参考にして、ユウトに合わせてあるのだろう。短い分違いもあるが、握った感触は白夜と変わらない。飛刀は脇差よりも更に短いが、借りていた試作品より僅かに長い。短刀代わりにも使えそうだ。
「……気に入ったようだな」
飛刀を握ってあれこれ試しているユウトを見て、苦笑する。
まるで子供が新しい玩具で遊んでいるような今のユウトの様子を見れば、誰でも分かる。エリスとソフィアもそんなユウトに頬を緩めていた。
指摘されて気付いたユウトは、照れたように飛刀を専用の鞘に納める。刀や脇差を抜くのに邪魔にならず、かつ、投擲に移りやすいよう抜きやすく工夫されたドバンの特製品だ。
「ええ。ありがとうございます」
「飛刀の予備は幾つか作っておく、減ったら取りに来い」
「はい」
「あぁ、それと――」
「はい?」
「デート。しっかり楽しんできな」
意地の悪い笑みを浮かべたドバンは、その言葉を最後にユウト達を追い出した。
まさか店を追い出されると思っても居なかったユウトは、あまりの対応に店先で呆然としていた。
「追い出された……」
「ですね」
そんなユウトを見て、エリスがくすくすと笑う。
少しでも早くデートに行かせてやろうというドバンなりの気遣いだが、ユウトとしてはむしろ突き放された気分だった。
「武器も受け取ったし、これで憂いなくデートを楽しめるわね」
そう言うとソフィアがユウトの腕に自分の腕を絡ませた。
「え、ちょ――」
「ほら、エリスも」
「はい」
戸惑うユウトを無視して、エリスも躊躇い無くソフィアと逆の腕を取る。
――うぁ……。
両の腕に触れる柔らかい感触と二人から漂う甘い香りに、頭がボーっとしてくる。さして女性に対する耐性が無いユウトには刺激が強すぎた。
腕を組めて心底嬉しそうな二人は、ユウトを半ば引きずるようにして、大通りに向かった。
大通りに出た三人は、そのまま目に留まった店に入って商品を見ながらあれやこれやと話をし、結局冷やかしに終わった。
そうやって何軒もの店を回り、そんな何でもない時間を、エリスとソフィアはとても幸せそうに過ごしていた。
そんな二人に触れていて、ユウトも自然に幸せだと感じていた。
だって――本当に幸せそうに笑うのだ。
ただ一緒に居るだけなのに、それが何より嬉しいのだと言っているようで。それがユウトも嬉しくて、頭の隅にあった罪悪感や居心地の悪さも、いつの間にか消えていた。
「あのさ。行きたいところがあるんだ」
二人にもっと喜んで欲しいと思ったユウトは、二人にそう提案していた。
ユウトの案内で大通りをしばらく歩き、とある店の中に入った。
「いらっしゃ――、ユウトさん!」
ユウトの顔を見た店主が、挨拶の途中で驚く。
「お久しぶりです。ゼスさん」
「ええ。お久しぶりですね」
ユウトが笑いかけると、ゼスも人の良い笑みを浮かべた。
そう、ここは前にユウトが護衛についた商人であるゼスの店だ。ゼスの店は雑貨屋で、冒険者が使うような道具もあるが、女性が好むアクセサリーや小物なども置いてある。
普段武器や防具ばかり気にしているユウトが唯一知っている品揃えの良い雑貨屋でもあり、だからこそ、ここに来たのだ。
「もうBランクに上がったらしいですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「それで今日は――、おや?」
ゼスがようやくユウトの両側に立つ二人に気がついた。
「そちらのお嬢様方は?」
「はじめまして、エリスと言います」
「ソフィアよ。ユウトの仲間なの」
ゼスの問いに応じるように、エリスとソフィアが自己紹介を行なった。
「そうでしたか。私は商人のゼスと申します。今日は何をお探しでしょうか?」
自己紹介の最後にスッと頭を下げ、再び上げたゼスの目はユウトに向いている。
三人が単なる仲間でないことは、絡められた腕で一目瞭然だ。その上で、用があるのはユウトだろうと察していた。
「帽子と、ちょっとした装飾品みたいなのってありますか?」
「勿論です。帽子はあちらに、装飾品でしたらアクセサリーなどが――」
手の平を向けて帽子が置いてある一角を指し示し、更に別の方向に向き直ろうとしたゼスをユウトが止める。
「あぁ、いえ。えと、リボンのようなものは」
「髪につけるものでしたら、帽子の近くに置いてありますよ」
「どうも」
「何かあれば声をかけて下さい」
軽く会釈をしたユウトに笑顔を返したゼスは、自分が居ない方が良いと判断したのだろう、そのまま店の奥に下がっていった。
「ユウトさん。帽子とリボンなんてどうするんです?」
エリスの声はどこか緊張している。
帽子は別にしても、リボンは主に女性が使う物だ。ユウトが使うという考えたくない事態を除けば、贈り物と考えるのが妥当だ。
だが、問題はその相手だ。
エリスの緊張を感じとったユウトが内心で苦笑する。
幾らなんでも目の前の女性を放っておいて、他の女性への贈り物を買うほど鈍感ではないつもりだ。
「うん、二人にプレゼント」
その言葉に、エリスとソフィアが安堵と歓喜の混じった顔をする。しかし、すぐにソフィアが不思議そうな顔をする。
「でも、なんで帽子とリボンなの?」
「帽子で耳を隠せれば、常に外套を羽織る必要は無いだろ?」
ソフィアは今もフード付の外套を羽織り、当然フードも被っている。
耳を隠すために必要なこととはいえ、町中や屋内でもこれでは逆に怪しまれる。それとは別にしても、折角美人なソフィアがずっと顔を隠しているのは勿体無いと思っていた。
「私の……」
自分のためだと聞いて、ソフィアが更に喜びを強めた。それとは反対に、今度はエリスがどこか落胆した表情を見せる。
今の説明だけでは、エリスはソフィアのついでのようだ。実際、エリスにはそう聞こえたのだろう。
だが、当然そんなつもりは無い。
むしろ耳を隠すためということこそ、単なるついでであり、建前だ。本音は別のところにある。
「ソフィアへのプレゼントを帽子にしたのは、そういう理由もあるんだけど。単純に何かをプレゼントしたいんだ。ソフィアとエリスの二人に」
「――はい。ありがとうございます」
誤解が解けて、瞳を潤ませたエリスは花の咲いたような笑顔を浮かべた。
「やったわね、エリス。ねぇユウト。プレゼントっていうならユウトが選んでくれるのよね?」
エリスに抱きつくようにしたソフィアが、ユウトの顔を覗き込むようにして笑う。
二人とも嬉しくて堪らないという様子だった。
「センスに自信は無いけど……。気に入らなかったら言ってくれよ?」
元より自分で選ぶつもりではあったが、改めて考えると、不安になってくる。
異性に贈り物をするなんて始めての経験だ。
しかも、身に付けるのはこの二人。半端な物では、逆に二人の魅力を妨げてしまう。
正直、似合う物を選べる自信は無かった。
「大丈夫です。ユウトさんが選んでくれたものが気に入らないはずありません」
そう断言したエリスの瞳は真剣だった。真横で頷いているソフィアも同じ目をしている。
――これは……責任重大だな。
仮に二人に似合わない変な物を選んでも、おそらく嬉々として身に付ける。周りがなんと言おうと、どう見ようと気にしないだろう。
それはそれで嬉しいのだが、下手な物は選べないという重圧が強く圧し掛かる。
ユウトは戦場に向かう時よりも真剣な表情で、プレゼントを選び始めた。
ユウトがエリスとソフィアに背を向けて、プレゼントを選び始めてから少し経った頃。
ずっとユウトの背中を嬉しそうに見ていた二人が顔を寄せた。
「ねぇ、エリス。ただ受け取るだけで良いのかな?」
「……そうですね。私もそれは感じてました」
ユウトがこうして気持ちを表してくれるのは初めてだ。だからこそ本当に嬉しかったのだが、同時にその気持ちを単に受け取るだけでは申し訳ない気がしていた。
「でも、どうしよう」
しかし、どうすれば良いかが分からないソフィアが小首を傾げると、少しの間考えていたエリスが口を開く。
「私達も、ユウトさんに気持ちを伝えるというのはどうでしょう?」
贈り物というのは、相手に伝えたい気持ちを形にしたものだ。
だから、その気持ちへのお返しは、同じように気持ちであるのが一番ではないだろうか。
贈り物に込める気持ちは場合によって様々だが、今回はおそらく好意だ。少なくとも二人はそう期待している。僅かながらに一歩踏む出してくれたユウトに、きちんと自分達の気持ちを伝えたかった。
「それは良い考えね」
「考えてみると、まだちゃんと気持ちを伝えて無いですし……」
しかし、悲しいかな、二人の間には微妙な立場の違いが生じていた。
「え? エリスまだだったの?」
「――え?」
咄嗟に聞き返したソフィアに、エリスが顔を向ける。
即座にしまったという顔をしたソフィアが目を逸らす。
「ソフィアさん……? もしかして……?」
「いえ、その……。あのね、エリス」
いつの間にか遅れを取っていたことを知り、エリスが落ち込みはじめた。
そう、気持ちを伝えるのは、エリスにとっては初めてだが、ソフィアは既に済んでいるのだ。
「た、確かに好きだとは伝えたけど、多分仲間としてだと思ってるだろうし? なんにせよ良い機会じゃないかしらっ?」
キスまでしたのだから、そんなはずはないと思いながら、なんとかエリスを励まそうとする。
エリスはしばらくの間沈黙して。
顔を上げると――その瞳には決意の炎が灯っていた。
「そうですね。ユウトさんも少し積極的になってきてくれましたし、むしろ今の方がタイミング的には絶好ですっ!」
「ええ、そうよっ! 今日こそユウトを落としましょう!」
エリスに触発されたソフィアもテンションが上がる。
殆ど必死になってプレゼントを選んでいるユウトは、そんな二人には気付かなかった。
「えへへ……」
ユウトと腕を組んだ両側の二人はゼスの店から出てからずっと、蕩けたように頬が緩んでいた。
ユウトの左側に陣取るソフィアは外套を脱ぎ去り、耳が隠れるほど深い大きめの丸い帽子を被っている。反対側に居るエリスは長いリボンを銀髪に絡ませるようにして結んでいた。
ユウトが二人に贈ったプレゼントであり、二人の表情の原因の一つだ。
もう一つの原因は、店を出る直前に遡る。
ユウトが代金を支払い、ソフィアは帽子を、エリスはリボンを着けると、すぐに二人はユウトと腕を組んだ。
ゼスはそんな三人を見て、「お似合いですよ」と三人に向けてそう言ったのだ。
それをエリスとソフィアに向けた言葉と判断したユウトと違い、二人にはゼスの意図通り伝わった。
プレゼントを贈られて既に陥落寸前だった二人は、それで完全に陥落した。
周囲からそう見られたことが嬉しくてしょうがなかったのだ。
それでいながら、既に周りのことなど気になっていない二人に対し、ユウトは逆に周りが気になっていた。
――喜んでくれるのは嬉しいんだが、視線が痛い……。
大通りの中、三人は異常な注目を浴びていたからだ。
それも仕方が無いことだろう。
何せ、エリスもソフィアも極めつけの美少女で、そんな二人が一人の男と腕を組んで蕩けた顔をしているのだ。
殆どの者が最初に二人の美貌と蕩けた表情に目を奪われ、その後二人の間に居るユウトに視線を向ける。
その視線の中身は、羨望、妬み、殺意、落胆と様々だ。
元々それなりに注目は浴びていたのだが、今まではソフィアが外套を被っていたため、男と美少女と町中で外套を頭まで被った不審者というおかしな組み合わせに対する困惑の視線が多かった。
そんな視線であれば特に気にせずに済んだのだが、今や大半が悪意と化した視線を無視するのは難しかった。
今度は別の意味で居心地が悪くなったユウトを余所に、多少正気に戻った二人が目配せをする。
「ユウトさん」
「ん、何?」
「もうすぐ陽が落ち始める時間ですし、最後に行きたい場所があるんです」
そう言われて二人に連れて行かれたのは、外壁の近く、王都を一望できるほどに高い場所だった。
ユウト達が着いた頃には、太陽が地平線に沈みかけていた。
「丁度良い時間みたいですね」
見下ろした王都は黄褐色に染まった空に照らされ、包み込むような優しい雰囲気を醸し出していた。
「綺麗……」
「ああ。でも、どうしてこんな場所を?」
エリスとソフィアは王都に来てから殆どずっとユウトと一緒に居た。ユウトも知らないこの場所を知る機会は無かったはずだ。
「院長先生に教えて貰ったんです。素敵な場所だから行ってみなさいって」
なるほど、と納得した。
過去に王都に住んでいたサーシャならば知っていてもおかしくない。
「確かに、素敵な場所だ」
こんな綺麗な風景を見たことは無かった。元の世界は雑多として高い建物ばかりだったため、地平線なんて見えなかったし、そもそも風景を気にしたことなんて無かったように思える。
考えてみれば、こちらの世界に来てからも風景なんてまともに見た覚えが無い。
のめり込む様に目の前の風景に集中しているユウトの横顔を見て、僅かに微笑んだソフィアが声をかける。
「そうね。でも、これだけじゃないわよ」
「え? 他にも何かあるのか?」
この光景で満足していたユウトは、意外そうな顔で聞き返す。
「ええ。少し目を閉じていて」
これ以上の何かがあると期待したユウトは、ソフィアの言葉を疑うことも無く素直に目を閉じた。
ユウトが目を閉じたのを確認すると、エリスとソフィアは顔を見合って殆ど同時に頷いた。
気持ちを伝えると決めていた。
言葉で伝えるだけでも良いが、それだけでは全部が伝わらない。もう言葉だけでは足りないのだ。
初めて芽生えた気持ち、それを知ってからずっと育み続け、一緒に居られるようになって、もっと大きなものになった。きっと、これからもどんどん大きくなるだろう。
それが嬉しくて、幸せで、大事にしたかった。
そのことを伝えたい。
貴方に会えて、こんなに素晴らしい気持ちを抱くことが出来たと。
見返りはいらない、なんて綺麗事を言うつもりは無い。やっぱり、出来れば応えて欲しい。そうなれば、きっと今以上に素敵な気持ちになれる。
そんな思いと、僅かな願いを込めて。
二人はユウトの頬に顔を近づけた。
――っ!?
両の頬に柔らかい感触と暖かい吐息を感じ、ユウトはすぐに目を開けた。
瞳だけを動かして左右を見ると、すぐ近くに二人の顔があった。
僅かな間を置いて、一歩離れた二人の頬は夕日の中でもはっきり分かるほど紅く染まっている。
何をされたか把握しつつも、きちんと理解できていないユウトは頭が真っ白になっていた。
動揺しているユウトを余所に、二人は揃って正面に移動すると、真っ直ぐにユウトを見つめて――。
「貴方のことが好きです」
声を揃えて、そう告げた。
対照的な金と銀の髪が風に靡き、黄褐色の夕日が二人を背後から照らしている。その絵画のような光景と、美しい二人の姿にユウトは目を奪われた。
魅了されたように見入ったユウトは僅かな間をただただ呆然と過ごし、言葉の意味を理解した瞬間顔を真っ赤にして、口元を手で覆った。
何となく、好かれているだろうことは思っていた。二人の態度にも表れていたし、ソフィアに至っては以前に一度告白されている。
それでも、こうして真っ直ぐに想いを伝えられれば、強く心に響く。
何より――本当に嬉しかった。
――やばい。顔がにやけそう。
口元を覆ったのは衝撃を受けたからだけではなく、嬉しくてにやけそうだったのを見られないようにするためだった。
ユウトがそんな状況にあるとは知らず、二人はホッとしたように硬くなっていた表情を崩す。
「ようやく伝えられました」
「プレゼント、凄い嬉しかったから。私達も気持ちを伝えようって決めてたの」
はにかんだ二人の表情に、ユウトの胸が詰まる。
――このままで良いのか……?
まだユウトの心は決まっていない。だからこそ、中途半端に気持ちを伝えるようなことはしなかった。
だが、それは本当に誠実な対応なのか。二人にここまでさせて、自分だけ応えないのが正しいのか。
そこまで考えて、すぐに自分の勘違いを正す。
――違う。正しいかどうかなんて知らない。
今になって、出掛けにギルツが言った言葉が腑に落ちた。
「正しいか間違っているかなんてどうでもいい、とは言わんがな。何より大事なのはお前自身の気持ちだと思うぞ」
その言葉を、好き勝手言いやがってと否定していたが、ギルツの言う通りだったのだ。
デートの間、どうみても二股をかけている自分を否定したか。あげたいからと二人分のプレゼントを選んだことを不思議に思わなかったか。
確かに、最初はどこかで悪いことだと、二人に申し訳ないと思っていたが、すぐにそんなのは忘れていた。
そして、今真っ直ぐに向けられた好意に応えたいと思った。
何のことは無い、正しいか間違っているかなんてとうに二の次になっていた。
――今はただ、二人の気持ちに向き合いたい。
そう思ったら、自然と口が動いていた。
「俺も、二人のことが好きだよ」
今度は、エリスとソフィアが胸を打たれる番だった。
「どちらと付き合うとかは、まだ決められない。二股かけてるみたいで、ごめん。でも、これが今の素直な気持ちで、精一杯の答えなんだ」
どちらも好きだから、どちらも選ばない。
酷い言い草だ。自分でもそう思う。だけど、それが精一杯だった。
二の次だとは言っても、無視することは出来ない。どちらとも、というわけにはいかないのだ。
しかし、それはあくまでユウトの主観の上では、ということに過ぎない。
ほろほろと二人の瞳から涙がこぼれた。
それを目にしたユウトがぎょっとする。
「あっ、いや。ごめんっ! やっぱ今の忘れて――」
泣かせてしまったと焦って前言を撤回しようとしたユウトに、二人が首を横に振る。
悲しいわけではないと。だから、忘れろなんて言わないで欲しいと。そんな意思を込めて。
――だって、こんなに嬉しいんだもの。
まさか応えて貰えるとは思っていなかったのだ。
二人は王都に来る途中、ギルツから聞いていた。ユウトは自身の価値観から、複数人と付き合ったり結婚したりすることを受け入れていないようだと。
だから、時間をかけてと思っていたし、それまでは好きだと伝えて貰えることもないと諦めていた。
ユウトの価値観が変わっていないのは、今の言葉で分かる。それでも、好きだと伝えてくれたのだ。多少なりとも自身の価値観を曲げて。
嬉しくないわけが無い。
嬉し涙が止まらない二人を前に、まさか嬉しくて泣いているとは思わないユウトが右往左往している。
その様子が可笑しくて、二人は涙を流しながら声を殺して笑い出した。
ひとしきり笑うと、二人の涙は止まっていた。
「ありがとうございます。今は、先程の言葉だけで十分です」
「だけど――」
「良いのよ。今は友達のことも心配でしょうし、それが済んでからで。ね、エリス」
「はい」
これだけでも二人にとっては予想以上の成果だ。
僅かに価値観を曲げるくらいには、ユウトが好意を寄せてくれているのは分かった。後は本当にゆっくりで良い。ユウトの友人を助け出して、憂いを無くしてから。だけど――。
「その時は手加減しません」
「その時は手加減しないわ」
声を揃えた二人に、ユウトはキョトンとして、すぐに苦笑いを浮かべた。
そんなユウトを余所に、二人の表情は明るく、晴れやかだった。




