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第72話 休息の一幕


 ドバンの店を訪れた翌日、ユウト達は館の広い庭を利用して鍛錬を行なっていた。

 昨晩店から戻ったユウト達はドバンに頼んだ武器が完成するまでの間をどう使うか話し合ったところ、鍛錬に使うと決まったからだ。話し合ったといっても、反対意見が出ることは無く、満場一致だった。

 飛刀の練習が必要なユウトは勿論、ギルツ達もヴァルドに一方的にやられたことを気にしており、改めて鍛え直したいと思っていた。特にエリスとソフィアは、試してみたいこともあった。


 「さて、準備はこれくらいで良いか。まずはどの程度動けるか確認しておきたい」


 そう言ったユウトの額には汗が浮かんでいる。

 言葉通り、つい先程まで準備運動代わりに走り込みと素振りをしていた。

 体を温めるという意味もあるが、多少疲れていた方が実戦に近くなるからだ。


 「おう」


 しかし、ユウトの言葉に返事をしたのはギルツだけだった。


 「……えぇと、皆はとりあえず観戦しててくれ」


 そう言ったユウトの視線の先では、エリスとソフィア、それにカール達やアニー達までもが呼吸を乱していた。

 返事をするのも億劫なのか、首を縦に振っている。

 ――やれやれ、無理に付き合わなくても良いのに。

 ユウト達が鍛錬を行なうと決めた際、一緒に居たカール達は自分達もやると言い出した。別に止める理由も無かったので、無理をしない程度にと言い含めた上で、参加を許可していた。

 そして、朝になって護衛に来たアニー達にも今日は鍛錬に費やすので護衛は不要だと伝えたら、何故か同じようにやると言い出した。こちらもやはり断る理由も無かった。

 しかし、何も丸々ユウト達と同じメニューをする必要は無い。特に後衛のエリス達やまだ幼いカール達は、そもそも同じメニューをこなすには無理がある。

 もっとも、アニー達に関しては良い機会だと考えていた。

 アニー達はユウト達が王都を離れている間の護衛役だ。家族を任せることになる以上、その実力は見ておきたかった。

 ――体力はまずまず、かな。

 途中でリタイアしたエリス達やカール達とは違い、アニー達は一応最後までユウトとギルツについて来た。

 魔術が使えないユウトとギルツはその分を武芸に費やしていることもあって、並の冒険者や騎士に比べれば体力も筋力もずっと多い。それを考えればついて来れるだけ上出来だ。

 そう考えてから、ギルツに向き直った。


 「多少の“強化”は有りで。死なないよう寸止めな」


 ユウトの手には見慣れない刀が握られている。最初にユウトが使っていた刀と同じで、昔ドバンが片手間で打った銘も無い刀だ。鍛錬のためにとドバンの店にあったものを借りて来た。

 “強化”を無しにしても良いのだが、それだと実戦から離れすぎてあまり意味が無いため、一方的にならない程度の出力は使用すると決めていた。

 

 「いざって時は任せるっすよ!」


 ユウト達から離れたところで、サーシャと共に座っているウェンディが息巻く。

 どこから出したのか、救護班と書かれた布を腕に着けている。


 「ちょっとくらい内臓はみ出てても治すっす!」

 「そこまでやらねぇよ!?」


 それはもう模擬戦とは呼べない。

 幾らウェンディが治療できるといっても、真剣で斬り合うつもりは無い。当然、寸止めはするし、ユウトも刃は返す。ギルツが持っている斧も普段使っているものではなく、鍛錬用に刃を潰したものだ。とはいっても、本気で殴れば骨くらいは折れるし、場合によっては致命傷にもなるので危険なのは確かだが。

 ウェンディにツッコミを入れた後、ユウトが視線をギルツに固定する。

 ギルツの方は既に準備万端の体で盾を構えている。それを確かめるとユウトも刀を抜いて、構えた。


 「始めるぞっ!」


 そう告げて、地面を蹴った。




 二人が模擬戦を始めて少し経つと、エリス達の息も整っていた。


 「ふぅ。私とエリスは魔術の訓練をするけど、貴方たちはどうする?」


 昨晩の時点で、エリスとソフィアは魔術の訓練を行なうと決めていた。模擬戦を行なうのも良いが、今はもっと根本的な部分で魔術や魔力の使い方を鍛え直したかったからだ。


 「私も一緒にやるね」

 「俺とテリーはユウトにーちゃん達の方に混ざるよ」

 「分かったわ」


 エイミィは魔術の方が得意だし、カールとテリーは武芸の方が得意だ。それぞれ得意な方に混ざるのは予想通りだった。

 三人の答えを聞いたソフィアは、今度はアニー達に視線を向ける。


 「アニーさん達は?」

 「私達はユウト様方に御指導頂きたいと思います」

 「そう。……なんというか、程々にね」

 「はぁ……?」


 気遣わしげな目で見られたアニーが首を傾げながら返事をすると、ソフィア達は端の方に寄って行った。

 残されたアニー達はソフィアの残した言葉の真意が分からず、議論を始めた。


 「何が程々なのかしら?」

 「疲れて護衛が疎かにならないようにって意味じゃない?」

 「私達とて正規兵だ。鍛錬は積んでいる」


 ネルの予想に、心外だとばかりにアニーが真面目に答える。すると、セリアが困ったように笑った。


 「そういう意味ではないと思うわよ?」


 こう言っては何だが、ユウト達が居るこの場でアニー達に護衛としての仕事を期待されているとは思えなかった。

 ユウト達が全員揃っている以上、アニー達の存在は護衛という点において大した意味を持っていないのだから。


 「じゃあ、なんだろう?」

 「ユウトにーちゃん達に無理に付き合うなって意味だよ」


 ネルが頭を捻っていると、横からカールが答える。それを聞いて、更に疑問が増えたという顔をする。


 「それってどういう意味?」

 「ユウト兄とギルツ兄の鍛錬は何ていうか……異常なんです」


 カールとテリーは王都に来るまでの間、何度も二人が鍛錬をしているところを見ていた。

 やっている鍛錬の内容は特に珍しいことは無い。カール達もしているような基本的なことなのだが、密度と時間が異常なのだ。同じように付き合おうとすると、カール達は勿論、現役の冒険者であるランド達ですらついていくのに必死だった。


 「異常……?」


 しかし、異常という言葉だけではその本質までは伝わらない。


 「多分言っても実感は湧かないと思うので、頭の片隅にでも残して置いてください」


 テリーも説明を諦め、ユウトとギルツの模擬戦に意識を向けた。

 口で言われたところで実感が湧かないのはテリー自身良く分かる。鍛錬の様子を見ていたテリーですらも、最初は気楽な考えで二人の鍛錬に付き合って、盛大に後悔したのだから。

 納得したわけでは無かったが、それ以上は聞かずにアニー達もテリーを倣った。




 しばらくすると、模擬戦を終えたユウトとギルツが戻って来た。


 「まずまずみたいだな」

 「ああ。調子は悪くないよ」


 改めて感触を確かめるように体を動かしていたユウトが、満足そうに頷いた。二人とも全身を汗で濡らしているが、目に見える怪我は無い。拮抗していたこともあるが、きちんと寸止めを行なっていた証拠だ。

 それを不満そうにしているウェンディは放っておくことにして、概ね状態を維持出来ていることに安堵した。、

 スバルに刺された傷をウェンディに治して貰って以降、ユウトはずっと実戦を避けていた。といっても自主的にではなく、王都に来るまではランド達が居たこともあって、周りが許してくれなかったのだ。

 鍛錬は行なっていたが実戦をしばらく離れていたため、実戦勘の衰えや体の不調が心配だったのだが、杞憂で済んだ。、


 「慣らしとしてはこれくらいで十分だろう」

 「後は飛刀術の練習か?」

 「ああ。そのつもり」


 ――あれで慣らし……?

 二人の話を聞いていたセリアが驚く。

 あくまで模擬戦であることを考慮しても、二人は遥かに格上だと感じていた。だが、それすらもまだ本気どころか単なる慣らしだったという。近衛騎士に推挙されたユウトについてはある程度予想もしていたが、ユウトと同等に戦っていたギルツの実力も底知れなかった。

 ――魔術を使えないと聞いてるけど、それを差し引いても騎士より上じゃないかしら……?

 騎士になるような者は大抵魔力が水準以上なため、魔術に頼る傾向がある。確かに魔術は強力だが、そのせいで大雑把な戦い方になりやすい。ギルツは正にそれとは対極的で、戦い方が巧い。


 「セイン様が良い勉強になると言っていたのは、こういうことなのだな」

 「多分ね。これだけの実力者と手合わせする機会なんて普通無いわ」

 

 アニーとネルも同じように考えていた。

 二人の実力はどう見ても並の騎士以上だ。単なる兵士でしかない三人は近衛騎士は勿論、騎士とも手合わせする機会は殆ど無い。兵士全体や隊ごとの訓練ばかりのため、個々人の実力を伸ばすための訓練は自主的に行なうしかないのだ。

 しかも、ギルツのそれは才能ではなく努力で身に付けたところが大きく、やろうと思えば誰もが身に付けられるもので、ユウトの“強化”のように真似できない類のものではない。

 最初はユウトについて言っているとばかり思っていたのだが、セインが勉強になると言ったのはむしろギルツの方だった。

 成長の機会を与えられたことに感謝しながら、更にやる気を出し始めた三人をギルツは目の端で捉えていた。


 「そっちはどうするんだ? 正直、ギルツの相手が出来そうなのは……」


 それに気付かず、ユウトがギルツに聞くと。 


 「ん? ああ、俺はあっちの三人やカール達をしごいてやるさ」


 そう言って不敵な笑みを浮かべた。

 この中で模擬戦をしてギルツの訓練になるのはユウトくらいだ。しかし、ユウトはユウトですべきことがあるし、そうでなくても、ユウトとの模擬戦を重ねたところであまり意味は無かった。

 ――多少腕があがったくらいじゃ、あいつに一矢報いることすら出来ない。

 一方的に自分を手玉に取った憎たらしい男の顔を思い浮かべ、斧の柄を握った拳に力が篭る。しかし、すぐに力が抜けた。

 どれだけ怒りを募らせても、何も変わらないのだ。

 ギルツとてまだまだ若い。これからも鍛錬を、経験を積んでいけば今よりもっと強くなれる。だが、そんな時間は無い。それに、仮に時間があったとして、ヴァルドに勝てるとは思えなかった。

 圧倒的な魔術師としての力を持つヴァルドに対し、ギルツはあまりに無力だった。

 今のまま単に戦士としての技術を磨いたところで、ヴァルドに通用する日は一生来ない。ギルツにはそう思えてならなかった。


 「……じゃあ、俺は端に移るな」


 ユウトはそんなギルツに何か言いたそうな顔をしたが、言葉を飲み込んだ。

 自分の鍛錬よりも他の者を優先した。それが、ユウトの目にはどこか成長を諦めているように見えたのだ。しかし、それをそのまま伝えることは出来なかった。

 ユウトがその場を離れると、ギルツは残った面々を見回す。


 「さて、まずは一人一人実力を見ようか」

 「お願いします」

 「……お願いします」


 やる気に満ちたアニー達とは対照的に、カールとテリーは諦めたような表情だった。




 「よっと」


 カンッという甲高い音をさせて、木に括り付けた的に飛刀が刺さった。

 元々槍を投げていたりもしていたため、ある程度は狙い通りに投げられる。しかし、足を止めた状態で狙い通りに投げられるだけでは意味が無い。

 槍と飛刀では性質が違うため、使用場面も変わってくる。槍よりも殺傷性が低い飛刀では致命傷になり難いが、逆に投げる際の隙は小さくて済む。

 想定されるのは高速戦闘中の使用で、足を止めた状態で投げる機会は無いだろう。

 そうなると、“強化”を使って動き回っている状態で狙い通りに投げられるようになる必要がある。


 「持てる数も限られるし、使う場面も厳選しないとなぁ……」


 ドバンに頼んだ飛刀は五本だ。要するに、一回の戦闘では五回しか投げられないことになる。戦闘が終われば回収も出来るが、連戦になることもあるため、不用意に使用するわけにもいかない。

 そんなことを考えていると、紅い髪が視界に入った。


 「あれ……?」


 その鮮やかな髪の持ち主は門の外から庭先を見ていた。


 「ローザさん」


 知った顔だったため声をかけると、ユウトに気付いたローザが柔らかな笑顔を見せて、ゆったりと腰を折る。


 「御無沙汰しております、ユウト様」

 「お久しぶりです。何故ここに?」

 「ジェイク様から皆様がこちらにいらしたと聞きまして、ご挨拶にと」


 そう言って、手に持っていた物を差し出した。

 引っ越し祝いということなのだろう。


 「えと、ありがとうございます。すみません、こちらから挨拶に行くべきでした」


 この館とローザの娼館はそう遠くない。ジェイクが言わなくても、いずれ耳には入ったはずだ。

 ユウトの認識だと近所というほど近いわけじゃないため、全く考えていなかったのだが、知り合いが近くにいるなら挨拶に行くべきだった。

 反省しながら引っ越し祝いを受け取ると、ローザが首を横に振る。


 「いえ。普通ならこれだけ離れていれば、ご挨拶に伺うことはありませんわ」

 「なら……?」

 「以前あれだけお世話になったのですから、当然です。お礼だってまだですのに」


 そう言って、流し目を作る。

 ――う。この人ほんと色っぽすぎるだろ……。

 ついつい顔が赤くなる。

 外見的な美しさは勿論だが、普段の育ちの良いお嬢様のような立ち居振る舞いと、時折見せる娼婦の色気のギャップが思春期真っ盛りのユウトには辛い。

 そんなユウトの反応にローザが満足そうに笑う。


 「相変わらず初心で可愛らしい方ですわ」

 「ユウトさん?」


 背後から届いた声にビクッとユウトが背筋を伸ばす。

 ユウトとローザが話しているのに気付いたエリスとソフィアが近づいて来ていたのだ。


 「あら?」

 「あの……どちら様でしょうか?」


 おそるおそるエリスが尋ねると、ローザは気品のある仕草で挨拶する。


 「はじめまして皆様。私はローザと申します」

 「はじめまして。エリスと申します」

 「ソ、ソフィアと申します」


 ローザに触発されたのか、二人とも普段しないような言葉遣いだ。

 ――うぅ。もしかしてまたライバルですか……。

 ――大人っぽくて綺麗な人ね……。それに凄い育ちが良さそう……。

 そんなことを思っているのが顔に出ていた。

 どこか気後れしている二人に、ローザは笑顔を向ける。


 「少し前に、ユウト様に助けて頂いた事があるんです。今日はこちらに引っ越して来られたと聞いたので、ご挨拶に伺わせて頂きました」

 「ご丁寧にありがとうございます。ローザさんはこの近くにお住まいなのですか?」

 「いえ。私はあちらの方に住んでおります」


 娼館のある方向に視線を向けると、エリスとソフィアもそれを追う。


 「そうでしたか。やっぱり……」


 後半は呟くような小さな声だった。

 エリスとソフィアは誤解していた。

 視線の先には、この屋敷と遜色ない大きな館が立ち並んでいる。二人はこれらが身分の高い者が住んでいる館と思っているが、ローザが住んでいるのだから、当然それらは娼館だ。

 自分達とは違う高貴な家柄の大人な女性の登場に二人が戦慄を覚えていると、更に後ろから声がかかった。


 「あれ、ローザさんじゃないか」

 「ご無沙汰しております」

 「ギルツさんもローザさんをご存知なのですか?」

 「ユウトよりも前にな。俺も何度か世話になったし」

 「そう、なの……?」


 エリスとソフィアが意外そうな顔を見せる。

 ローザも、少し前にユウトに助けて貰ったと言っていたのだから、ギルツが知り合いなのはそうおかしな事では無い。しかし、それ以前から知っていて、世話になったというのがピンと来なかった。


 「ん? あぁ……」


 そんな二人の反応に、ギルツはすぐに理由に思い至った。

 ローザを良く知らない者が陥りやすい勘違いだ。

 そして、それを理解した上で、ギルツは意地の悪い笑みを浮かべた。


 「ところでローザさん。ユウトを男にしてくれるって話はどうなったんだ?」

 「え?」

 「は?」


 ギルツの言葉にエリスとソフィアが素っ頓狂な声をあげる。ユウトは驚きすぎて声も出ない。


 「勿論、ユウト様がお望みならいつでもお受けいたしますわ。お礼のこともありますし、いつユウト様がお見えなられるかと楽しみにしてますのよ」


 ローザが少女のような恥じらいを見せながら、同性すら惹きつける色気を放つ。

 しかし、その色気も今のエリスとソフィアには届かない。


 「……へぇ」

 「……男に、ですか」


 ――ギィィルゥゥツゥゥァァッッッ!?

 分かってて話を振ったギルツに怨嗟の念を飛ばすが、その顔は泣きそうだ。

 エリスとソフィアから感じる威圧感が以前より増しており、ユウトの体は小刻みに震えていた。

 そんな三人の様子に、関係を何となく察したローザがエリスとソフィアの肩に手を置く。


 「少しだけ、お話させて頂いてよろしいですか?」

 「え? ……はい」

 「えぇ……?」


 突然のことに、二人の威圧感は霧散し、ローザ以外の全員がキョトンとしている。

 三人はユウト達から離れると、ローザが微笑む。


 「お二人はユウト様の恋人でいらっしゃいますか?」

 「いえ、私達はまだ……」

 「そうでしたか。ですが、皆様お気持ちは同じようですね」


 その言葉にはユウトのことも含まれていた。それに気付いたソフィアが否定する。


 「私達はそうだけど、ユウトがどう思っているかは分からないわ」


 その言葉はどこか寂しそうでもあった。しかし、ローザはゆっくりと首を振った。


 「いいえ。ユウト様も同じだと思いますわ。前にもお誘いしたのですが、断られてしまいましたから。心に定めた女性が居るのは間違いありませんわ。先程のユウト様の慌てようからして、それがお二人であることも」

 「その……、ローザさんもユウトさんのことを?」


 ユウトのことを良く見ていると思ったエリスが決意して尋ねると、ローザが優しい表情になる。


 「とても魅力的な方だと思いますけれど、私のような女ではあの方には不釣合いですわ」

 「そんなこと……。とても綺麗で、物腰も柔らかいし、育ちも良くて――」


 ソフィアがどこか必死な様子で褒める。

 そこには、ローザが不釣合いだというなら自分はどうなってしまうのか、という思いもあった。


 「ありがとうございます。でも、育ちが良くなんてありませんわ。私は娼婦ですから」

 「えっ!?」


 二人が同時に声をあげる。

 あまりに大きくて、離れていたユウトとギルツがビクッと体を硬直させていた。

 それくらい、今日一番の驚きだった。

 その容姿や物腰、立ち居振る舞いから、二人はローザがどこかの良家の令嬢だとばかり思っていた。

 しかし、二人は驚いてはいても、娼婦ということでその視線にローザを蔑むようなものは混じらなかった。

 それが分かって、ローザは花のような笑顔を見せた。


 「貴方達みたいな優しい娘なら、きっとユウト様も振り向くわ。何かあればいつでも相談にいらっしゃいね。……取ったりしないから安心して」


 最後に、ローザは悪戯っぽい表情を浮かべると手を振りながら帰っていった。

 去っていくローザを呆然と見送った二人だが、その心中には羨望のような感情が宿っていた。


 「今度、相談に行きましょう」

 「賛成」


 二人は真剣な――どこか決意すら感じさせる顔でそう言った。

 男女の関係に疎い二人からすれば、ローザは遥か先を往く先達だ。

 大人っぽい魅力に、育ちを勘違いさせるほどの気品と美しい所作、少女のようなあどけなさと同性すら惹きつける色気。ここまで完璧な女性は見たことが無いし、他に居るとも思えなかった。

 二人がそんな決意を固めていると、完全に置いてけぼりを食らったユウトとギルツも去っていったローザの背中を見ていた。

 

 「……何の話をしてたんだ?」

 「さあな。まぁ、お前にとっちゃ悪い話じゃないと思うぜ?」


 知ったような顔をしているギルツを軽く睨む。

 しかし、笑みを崩さないので、無意味だと悟ったユウトが話を変える。


 「ところで」

 「あん?」

 「模擬戦はどうなったんだ?」

 「あぁ。……全員戦闘不能。全滅だな」


 そう言って振り返ったギルツの視線の先には、疲れ果ててぐったりした五人の姿があった。



いつも本作を読んで下さり、ありがとうございます。

都合により、しばらくの間更新ペースが落ちることになりそうです。

週一はキープするつもりですが、ご容赦を。


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