第41話 変わり行く世界……そして!?
ゴーシェ村の魔物襲撃事件から、1か月ほどが経過した。
この期間に、世界の様相は大きく変化していった。
「見てください、社長。号外が張り出してありますよ!」
今日は配信は休みだ。
俺はエルミアと街に買い出しに来ていたのだが、エルミアが号外に気付いて駆け寄った。
「ああ、ついに王位継承者が変更になったのか」
「随分前から言われていましたが、時間がかかりましたね」
「ピエール王子は、利権を使って色んな相手を味方に取り込んでいたらしいからな」
「……改めて、恐ろしい人でした」
以前受けたセクハラを思い出したのか、エルミアが小さく身震いする。
俺はそんなエルミアの姿に苦笑しつつ、買い物袋からリンゴを差し出した。
「もう終わった話だ。気にすること無いさ。ほら、これでも食べて元気だしな」
「わあ、ありがとうございます!」
エルミアはリンゴを齧って、にこにこと笑顔になった。
その様子に、俺はほっと胸をなでおろす。
ゴーシェ村の配信でこれまでの嘘が露呈した聖女アリスは、あっと言う間に僻地の修道院へ送られた。
対外的には修行と言う名目だが、どう見ても実質、追放だ。
同じく大失態を見せたピエール王子だが、流石と言うか、かなりしぶとく王政内で生き残ろうと工作していたようだ。
しかし、最終的には王弟の強い働きかけにより、王位継承権を剥奪されたという。
「これで勇者たちも、もっと自由に動けるようになると良いな」
「そうですね。また皆さんとお会いしたいです。バズさんに武闘も習いたいですし!」
「良いな! 今度、コラボを打診してみよう」
勇者パーティには基本的に、お咎めは無かった。
彼らは真摯に命を懸けて世界を守り続けていたので、当然ではある。
これからは彼らは、王弟の管轄に入って活動するらしい。
ピエール王子と違って、王弟は人望が厚いことで評判の人物である。
マッスル女将も、「あの方なら大丈夫よ! 渋いイケオジっていいわよね!」とお墨付きを与えていた。
道の端の方で荷物を一度降ろして、俺はメモを取り出して確認する。
「買い出しリストはこれで全部かな?」
「大荷物になってしまいましたね」
「ああ。だが、仕方ないさ。バズリアグッズ公式ショップ、その記念すべき第一号店の準備だからな!」
実は今日、俺たちが買い出しに街へやってきたのは、バズリア公式ショップの準備の為だった。
「それにしても、驚きました。まさか、ゴーシェ村にお店を出すことをスラ子ちゃんが提案するなんて」
「バズリア存続のゆかりの地だし、店が出来れば人も訪れて村もさらに豊かになる。流石だぜ、スラ子」
ゴーシェ村の大騒動の後、魔物の残骸や破壊された建物の対応をしている最中、スラ子から提案があったのだ。「この村に、バズリアの店を開きたい」と。
元々、グッズの需要は高まり、公式ショップが欲しいとバズメイトからの要望は多かった。
俺たちも店を出す検討はしていたが、なかなか意見は固まらなかった。
そんなときの、スラ子からの電撃提案である。
クリリィをはじめ、ゴーシェ村の皆も大賛成してくれた。
と言う訳で、カリーナとスラ子は今、ゴーシェ村でショップ設営の準備中である。
俺とエルミアは一時抜け出して、必要物品の買い出しにやってきていたのだった。
「明日の配信で、公式ショップ設立をサプライズ報告だ!」
「わくわくしますね、ふふふっ」
「最近はライバルも増えてきたみたいだからな。俺たちも、ますます気を抜けないぜ」
「はいっ。頑張ります!」
解散を免れたバズリアは、元気に配信活動を続けている。
ダンジョン配信とエンタメ配信を織り交ぜつつ、更なるファン獲得を目指していくつもりだ。
ゴーシェ村での配信が大バズリしたのがきっかけとなったのか、最近では、俺たち以外でもエンタメ配信をする冒険者がちらほら現れ始めた。
配信世界もますます活発になっていき、俺としては大歓迎だ。
「……あ、社長。大変です。ピンクのリボンが足りません!」
横から覗き込むように買い物メモを眺めていたエルミアが、ふと気づいたように声をあげた。
「あれ、買い損ねていたか? リボンがあるのは雑貨屋かな」
「すぐそこですね。行ってきますよ」
「俺も行くぜ?」
「いえ、荷物も重いですし、社長は昨日も遅くまで書類と睨めっこでお疲れではないですか。体力仕事位、物理エルフのエルミアにお任せくださいっ」
にっこりときらきらした笑顔で、エルミアがガッツポーズをする。
見た目には華奢で細い腕なのだ。しかしこの体格でドラゴンを吹き飛ばすパワーを発揮するのが、なんとも素晴らしい彼女の魅力である。
「分かった、それなら任せようか。頼んだぜ」
「はいっ」
俺はエルミアを見送った後、荷物の番をしながら、街の様子を眺める。
活気にあふれた平和で穏やかな世界――に見えるが、少し郊外に出ればダンジョンが無数に存在し、魔王軍の侵攻の危機も常に存在する。
そんな世界でも、そんな世界だからこそ、俺は「好き」を追求することを諦めたくない。
誰もが笑顔になって、熱狂できて、苦しみなんて吹き飛ばせるようなエンタメを作っていきたい。
脳裏に浮かぶのは、前世で救うことのできなかった相棒Vtuberの姿だ。
(俺も理想に近づいていけているかな――白瀬)
そして、次に脳内に現れたのが、何故か以前一緒に配信したときのエルミアの姿だった。
『社長は年上の女性は、お嫌いですか?』
「ごほっ、ごほ、ごほごほ」
俺は回想に対して、現在進行形で咽た。
エルミアが俺に好意を持ってくれていることには、流石に気づいている。
俺だって、彼女のことは可愛らしくて健気でとても良い子だと思っている。
だが、今一つ踏み出せないのは、配信が忙しいということもあるが――前世での苦い記憶のせいでもある。
かつて中の人が男であると明言していた俺は、白瀬と恋仲ではないかとの噂が絶えなかった。
事実無根であり否定もしたが、定期的に厄介な騒ぎになったりもした。
そのことも、白瀬をすり減らした一因なのではないかと思えば、今でも気は重い。
あちらの世界とこちらの世界では勝手は違うのだろうが、実際の恋愛に対してはどうしても及び腰なのである。情けない話ではあるが。
「ねえ、ねえ、お兄さん」
考え込んでいた俺は、声を掛けられて我に返り顔をあげた。
見れば、美しく長い白髪を揺らしながら、紫の着物を身に付けた女性らしき人物が声をかけてきている。
「俺かい?」
「そうよ。ねえ、お兄さんって、バズリアの社長さんでしょ」
着物の女性はくすくすと笑う。よく見れば、頭の上には白い獣耳が二つ付いていた。狐の獣人だろうか。
「よく分かったな、その通りさ。もしかして、いつも配信を――」
俺はバズリアのファンが声を掛けてくれたのだと思い、笑顔でお礼を言おうとした。
しかし、そこからの相手の言動は俺の予想を遥かに飛び越えていった。
「好き。結婚しよう?」
「は、ぇ?」
あまりの急展開に、脳が追い付かずフリーズする。
俺が硬直している隙に、着物の狐娘は俺のことを全力でぎゅうぎゅう抱きしめてホールドした。
――そして、間が悪く、その瞬間にエルミアが帰ってきた。
「社長、お買い物終わりました。ピンク以外にも、可愛いリボンが――」
声を弾ませて近付いてきたエルミアは、俺と着物娘の状態に気づいた瞬間、ばさりと買い物袋を落とした。そしてしばし現実を受け入れられないように身体を震わせていたが、やがては涙目になりながらも、にこりと微笑んだ。
「そういう方が、好みだったんですね、社長。すみません。祝福したいのですが、私、私、どうしても、すぐには受け止めきれなくて……」
そう言い残すと、エルミアは全力疾走で身を翻して走り去ってしまった。
流石に速い。凄い、もう豆粒みたいだ。見えない。
いや、本当にどうしてこうなった!?
「んふふー」
狐娘は大修羅場にも拘らず、暢気に俺を抱きしめ続けている。
こいつもこいつで、どんなメンタルしてるんだ!
とにかく、早くエルミアを追いかけなくてはいけない。
そう思うのに全く拘束から抜け出せない。
もがきながらも、俺は全力で声を張り上げる。
「まて、エルミア。誤解だ。誤解だああああああっ!!」
そんな俺の叫び声が、虚しく街の大通りに響き渡るのだった。
Fever Gage ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
赤猫ルピアだよ。
ここまで読んでくれてありがとうにゃ!
バズリアの活躍はまだまだ続くけど、
この物語は一回、ここで一区切りになるよ。
もっとパワーアップして帰って来れるように頑張るにゃ!
ブックマークをして待っていてくれると嬉しいな。
★評価やコメントも、とても励みになるにゃ。
これからも、バズリアを宜しくお願いしますにゃ!




