第35話 スラ子の真実! 同接勝負最終日は大波乱!?
「いやぁ、良い天気だ。最高の配信日和だな!」
同接数勝負最終日、天気は快晴。
俺たちは12時間耐久配信の会場である草原フィールドで準備を行っていた。
「ルピたん、照明、オッケーよ」
「ありがとう、マッスル女将!」
「社長、ステージの飾りつけも終わったぞ」
「助かるよ、リュシエル」
大規模な配信になるので、マッスル女将やエルフの里の皆も手伝いに駆け付けてくれていた。
事前に会場を告知したおかげで、早くもちらほらと見物客の姿もある。
「今日は頑張りましょうね」
「ええ、絶対に勇者パーティの同接数を抜くわよ」
「バズリア存続を目指して、ファイトや!」
エルミア、カリーナ、スラ子は今日の予定を確認し合って、気合を入れていた。
そんな活気あふれる雰囲気の会場に、けたたましいアラーム音が響く。
『魔物襲撃警報、魔物襲撃警報。近隣の住民は避難してください』
その場にある全ての魔導板から、一斉に大音量で警告が発せられる。
俺はぎょっとして、自分の魔導板に視線を落とした。
そこには真っ赤な文字で、『該当地域は即時退避』と記されている。
「な、なんだ!?」
慌てる俺へ、エルミアが駆け寄ってくる。
「大丈夫です、社長。今のは王都からの『魔物襲撃警報』です。以前に、ダンジョンからあふれた魔物が村や町を襲うことがあるとお話しましたよね。大規模な被害が予想されるとき、全ての魔導板に警報が送られることになっているんです」
「ああ、なるほど。この世界のインフラの一つか」
「被害が予想される地域は――この近隣ではないですね」
エルミアがぽちぽちと魔導板を操作して、警告を受けた地域のリストを出してくれた。
王都から北西の地にあるダンジョン周囲の地域が該当している。
「俺たちに出来ることはあるかな」
「いえ、基本的には勇者パーティや王国直属のS級パーティが討伐に向かう筈ですから――」
「あ、あかん!!」
「ちょっと、スラ子!?」
俺とエルミアの会話を遮るように、少し離れた場所からスラ子とカリーナの声が響いた。
「どうしたのよ、アンタ」
「あかん、あかん、あかん、どうしよう……」
「こら、待ちなさい!」
見ればスラ子が明らかに取り乱した様子で頭を抱えて、ふらふらと駆け出している所だった。
カリーナはそんなスラ子の姿に困惑しつつも、彼女を追いかけている。
俺とエルミアは顔を見合わせると、一緒にスラ子たちの後を追った。
「どうした、スラ子、カリーナ。何かトラブルか?」
少し進んだ先で、俺たちはスラ子とカリーナにあっさり追いついた。
どうやらカリーナが、スラ子を抱きかかえて捕獲してくれたようである。
「わかんないのよ。この子、急にこんな調子で」
カリーナは困ったように眉を寄せる。
口調はいつもの調子だが、その声色に心配が滲んでいる。
「スラ子ちゃん、どうしたんですか?」
エルミアが膝を曲げて、スラ子に目線を合わせて優しく問いかける。
その姿をじっと見つめた後、スラ子は眼に涙をためて声を震わせた。
「あかん、あかん、もうお終いや。もう……ぜんぶ、おわりや」
そのまま、スラ子の頬にぽろぽろと涙が流れ落ちる。
「村が……ゴーシェ村が、滅ぼされてしまう」
「ゴーシェ村?」
俺は魔導板をその場で再確認した。
スラ子の言うゴーシェ村は、確かに警告リストの最上位に乗せられている。
「そのゴーシェ村が、アンタの大切な場所ってこと?」
「で、でも、大丈夫ですよ。すぐに王都から、救助隊が」
「あかんねん!!」
エルミアの言葉に被せるように、スラ子が叫んだ。
その勢いにエルミアはびくりと肩を震わせて、押し黙る。
「あっ、あかんねん……。王都は、全部の村や街を助けてくれる訳やない。あの聖女のお告げで『女神に愛されている』土地だけを守ってくれるんや」
「そうなんですか!?」
驚いて声をあげるエルミアへ、スラ子はさらに続けた。
「しかも、『女神に愛される』のは、本当はお告げで決まってるんやない。王国への献金でぜんぶ決まってるんや!!」
「なんですって!」
「つまり国へ献金をおこなえる地域だけが、王国専属の冒険者に守って貰えるということですか?」
平等とは程遠いその防衛システムに、カリーナとエルミアが困惑する。
――成程。王都でスラ子が怒った時、勇者の顔色が優れなかったのはこれが原因か。
あの真面目な勇者は、きっと本心では全ての人を守りたいのだろう。
だが、王国の枷で、思うように剣が振るえないということか。
「うちは……。うちの出身は、ゴーシェ村の近くのダンジョンだったんや。そこで一人の女の子に拾われて、楽しく暮らしとった。クリリィっていう可愛い子や。うちのこの見た目も、その子と同じなんや」
スラ子は嗚咽をもらしながらも、堰を切ったように話し続ける。
これまでずっと心に秘め続けていた思いが、溢れ出しているのだろう。
「大好きやった。ずっと幸せが続くと思ってた。でも、ある日、……魔物被害で村は半壊状態にまで追い込まれたんや。ゴーシェ村はのどかで穏やかな村だけど、地方の貧しい村や。当然、献金なんてする力はない」
悔し気に、スラ子は拳を握り締める。
「誰も……誰も、助けになんて、きてくれんかった」
ぐっと唇を噛み締めると、スラ子は顔をあげた。
「だから! だからうちは、沢山稼いで、稼いで稼いで、ゴーシェ村を守って貰えるように献金するつもりだったんや。その最低金額が1000万G!! これを――」
スラ子は震える手で、スライム型のアイテムボックスを取り出す。
ずっと長年貯金を続けてきていたのだろう。
可愛らしい造りのその入れ物は、かなり年季が入って細かな傷もついている。
「これを貯めるために、うちは、ずっと頑張って……。クリリィを、助けたくて、頑張って……うっ、うう、あぅ」
スラ子はその大切なアイテムボックスを、乱暴に地面へ叩きつけた。
ガシャンと中の金貨が何枚か零れ落ちる。
その様子を、忌々し気に睨みつけた。
「もう、なぁんも意味ないわ。うちのしたこと、全部、全部無駄やった。間に合わへんかった。もう一回襲われたら、今度こそ、ゴーシェ村は終わりや」
ぼろぼろと涙はスラ子の瞳から流れ続け、地面を濡らしていく。
「おわりや。うちのしたこと、全部、無意味やった。お金なんて、いくら、あっても……」
いつの間にか、俺たちの周りには人だかりが出来ていた。
配信に協力するために来ていたマッスル女将たちや、見物の視聴者たちも、皆が集まっていた。
エルミアは絶句した表情を浮かべ、カリーナは怒りに顔を歪めている。
――きっと、皆、想いは同じだった。
「スラ子、そんなこと言うもんじゃないぜ。君の頑張り、無駄なんかじゃない」
俺はスラ子が投げ捨てたアイテムボックスを拾い上げ、埃を祓う。
そして、零れ落ちた金貨を中に収め直した。
「そ、そんな、慰めなんか要らんわ」
スラ子は肩で息をしながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「……堪忍な。もう、うち、バズリアでも活動できへん。バズリア存亡がかかっている皆には悪いけど、とてもじゃないけど、もう」
「そうか。それは困ったな」
俺の言葉に、辛そうに眉を寄せるスラ子へ、俺は膝をついて手を差し出した。
「バズリアは、ライバーの夢を全力で応援する箱なんだぜ。スラ子、君の夢は何だ?」
「え……」
「金を溜めることか? 王国へ献金することか?」
「う、うちの……、うちの、夢は……」
「それとも、ゴーシェ村を救うことか?」
「……!!」
スラ子の瞳に、再び涙があふれた。
長い長い沈黙ののち、消え入りそうな声が呟かれる。
「そう。そうや。うちは、クリリィを。ゴーシェ村を、助けたい」
俺はニイッと笑うと、スラ子の手を取った。
「よく言った! それなら、俺が社長としてやるべきことは一つだな!」
「えっ、でも、社長さん。もうすぐ、耐久配信開始の、時間が」
「関係ないさ!」
俺が立ち上がって視線を向けると、エルミアとカリーナも力強く頷く。
「予定変更、緊急配信だ!」
俺は大きな声で、堂々と宣言した。
「ゴーシェ村を防衛する生配信、始めるぜ!!」
Fever Gage ★★★★★★★★☆☆




