第32話 中間結果発表は、まさかの大苦戦!?社長、動く!!
同接数勝負が始まってから1週間後、俺たちバズリアメンバーは再び王城に集まっていた。
中間発表がおこなわれるからと、呼び出されたのだ。
「さて、結果が楽しみだな」
「私たちの配信、いつも以上に沢山見て貰えましたし、いけますよ」
「グッズの売り上げも順調や」
「あの王子の悔しそうな顔を拝んでやりましょ!」
謁見の間で盛り上がる俺たちの前に、勇者パーティが姿を現した。
「やあ、君たち。久しぶりだね」
相変わらず、勇者はきらきらとした爽やかオーラ全開だ。
カリーナとスラ子は、ひっそりとエルミアの影に隠れていく。
俺はその姿に苦笑しつつ、勇者へと向き直った。
「ああ、おかげさまで最高の配信ができているぜ」
「それは良かった! お互い、いい勝負をしようね」
「勿論さ!」
しばらくすると、役人からの声がかかった。
「王子と聖女様、ご入場です!!」
ちなみに、今日はカメラは回していない。
勝負の中間日にあたるこの日は、配信の休息日にすると通達があったからだ。
こんな盛り上がる場面を撮影できないのは残念だが、ルールならば仕方がない。
「来たか、おまえたち!」
「皆さん、こんにちはぁ」
ファンファーレの音の後、王子と聖女が高座に姿を現す。
王子は俺の姿を見つけると、じっと見下ろしながらニヤニヤと笑みを浮かべてきた。
なんだか少し嫌な予感がしつつも、気を取り直して頭を下げる。
「このたびは、お呼び出しありがとうございます、王子。まさか中間発表を聞かせて頂けるとは。励みになります」
「構わんよ。生意気な貴様の面子を潰してやるのが、楽しみでなぁ。――おっと」
「もう、王子。それでは結果を話してしまったのと同じではないですかぁ」
聖女は桃色の紙を揺らしながら、くすくすと嘲るような笑みを浮かべている。
「ちょっと、それはどういう――!」
あまりに失礼な彼らの態度にカリーナが声を荒げた。
しかし、それに被せるように王子が声を張り上げる。
「つまりは、こういうことだ!!」
王子の合図で、役人が前に出て大きな紙を広げる。
そこには、この同接数勝負の中間結果が記されていた。
■勇者パーティ
7日間での合計同接数:567万
■バズリア
7日間での合計同接数:312万
「なっ!!」
圧倒的な大差での劣勢に、俺は言葉を失った。
「そ、そんな……こんなに差が?」
エルミアも衝撃で声を震わせている。
「待って、おかしいわよ。昨日までは、かなり接戦だったはずよ」
そう、同接数はある程度は外部からもカウント可能だ。
だから俺たちだって、勇者パーティの同接数を記録して勝負の参考にしていたのだ。
「あ、あかん!! 昨日の夜の配信や。そこの同接数が爆発しとる!」
慌てて自分の魔導板を取り出して操作し始めたスラ子が、悲鳴を上げた。
「何だって!?」
俺はスラ子の出した画面を覗き込む。エルミアとカリーナもそれに続いた。
<<【勇者パーティ】S級の古代神殿ダンジョン攻略>>
→同接225万
「これは……」
「最高レベルといわれる、S級ダンジョンの攻略配信さ」
唖然とする俺たちの隣で、勇者の凛とした声が響いた。
「最近、古代神殿ダンジョンから魔物が溢れて村や町を襲う被害が増えていたんだ。だから、私たちが攻略に乗り出したんだよ」
「被害に遭ったひとたちも、みんな応援してくれているわ」
勇者の声に続くように、女僧侶も言葉を発する。
「民衆の命と安全を守って、心をつかむ――これが、勇者のやり方よ」
そこには確かな誇りと信念が感じられた。
「社長。君の配信は、楽しさを追求しているね。それも、素晴らしいことだと思う」
勇者は俺を見つめて微笑む。
自信に満ちた笑顔だった。
「だけど、この世界は常に危険にさらされている。そこに安心を、希望を与えるのが、本来の配信の使い方なんじゃないかな。私たちは、民の為に――」
「嘘吐き」
勇者の言葉に割り込むように、低い声が響いた。
それを発したのはスラ子だった。
あまりに予想外の発言に、その場にいる全員が硬直する。
しかし、スラ子の声は止まらなかった。
感情が爆発したかのように叫ぶ声は、泣いているかのようでもあった。
「綺麗ごとばっかり、大概にしいや。何が安心や。何が希望や! ”助ける相手を選別している”あんたらが、それを言うんか!」
「……!!」
それを聞いた勇者の顔が、はっきりと青ざめた。
僧侶も顔を歪め、更に後ろにいる武闘家と剣士も動揺している様子だった。
俺は、直感的に今の状況は非常にまずいと判断した。
スラ子にも事情があるのだろうが――ここは王城のど真ん中だ。
下手すれば国家反逆罪で、バズリアどころか俺たちの首が簡単に吹っ飛ぶ。
「は、ははは。スラ子、どうした? なかなか良い演出だが、今は撮影外だぜ?」
スラ子を庇うように前へ進み出ながら、あえて軽い調子で告げる。
俺の言葉に、スラ子はハッと我に返ったようだ。
「しゃ、社長さん……ごめん……」
消え入りそうな声で呟くスラ子を、エルミアがぎゅっと抱きしめる。
「良いんですよ。大丈夫です。何があっても、私たちは味方です」
「そうよ! あの王子をぶっ飛ばすなら、いつでも手伝うわよ?」
「カリーナ、頼むから事態をややこしくしないでくれ……!」
わちゃわちゃとした俺たちのやりとりに、スラ子が小さく吹き出した。
まだまだ元気はないが、その姿に俺は少しだけ安堵する。
「いやぁ、申し訳ない。予想外の負けで、ちょっと動揺してしまったみたいだ。不敬な発言は、俺が謝罪するよ。どうか許して欲しい」
俺が深く頭を下げて詫びると、勇者は小さく首を振った。
「大丈夫、構わないよ。こちらこそ――ごめん」
最後に付け足された謝罪は、誰に対してのものかよくわからなかった。
ただ、いつもきらきらと明るい顔をしている勇者が、今だけは表情を陰らせていた。
「話は終わったか?」
不躾な王子の声が、俺たちの頭上から響く。
「全く。不敬な発言は、惨めなお前達の負け惜しみの結果として、寛大に許してやろう!」
「それに、助ける相手の選別なんて、人聞きか悪いですわぁ。私が受けた女神さまの神託を元に、神に愛されている土地を優先的に守っているだけですものぉ」
「そうだ。全ては女神さまのご意思だ!」
王子と聖女は、ふんぞりかえって笑っている。
「――女神さま、ね」
俺はぽつりとつぶやく。
前に会った時から、可笑しいとは思っていた。
彼らの言う「女神さま」が、俺の知る「ラブルピ女神」であるならば――
『私は地上へ直接干渉することはできないのですが、いつも見守っていますから!』
ラブルピ女神は、地上へは干渉できないと言っていた。
ならば、あの聖女の正体は?
「さて、中間発表も終わったみたいだし、そろそろ俺たちは帰らせて貰うよ」
俺は思考を中断して立ちあがる。
同接数勝負逆転の構想を練る必要があるし、それ以上に、スラ子やみんなを落ち着かせてやらなければいけない。
「分かった。またね、社長。引き続き、いい勝負をしよう」
勇者は流石と言うべきか、すっかり元のきらきらした表情に戻っていた。
でも、もしかしたら――彼女も内心では、かなり苦労しているのかもしれないな。
「おう。必ず追いついて、最後は勝つ!」
勇者へ宣言した後、俺は王子と聖女へ向き直った。
「では、俺たちはこれで失礼いたします」
「ふん。せいぜい、あと1週間の活動を頑張るんだな!」
「応援していますよぉー」
気持ちのこもっていない激励を受けて、俺たちは王城を後にした。
◇ ◇ ◇
宿屋に戻ると、スラ子は疲労の為か、スライムに戻って眠ってしまった。
俺とエルミアとカリーナは、三人で作戦会議を始める。
「王子がむかつくとか色々あるけど、勝負の結果自体は不正が無さそうね」
「そうですね。S級ダンジョンの正面からの攻略――これはあまりに強いです」
「しかも、まだ制覇途中だ。ここから連日、勇者パーティはこのダンジョン攻略を続ける。きっと同等かそれ以上の同接を稼いでくると思って間違いないだろう」
現状を整理して、俺たちは、うーむ、と悩みこんだ。
「私たちも、高難易度ダンジョンに挑戦してみますか?」
「でも、S級は無理よ。私やエルミアでも危険なのに、社長とスラ子は耐えられないわ」
「む、むむう」
「……結果が出ないとき、つい焦って、他人に寄せていきたくなるものだ」
「えっ?」
「不審者?」
「だが、それも結局、しっくりいかないことの方が多い。それに何より、あわないことは、楽しくないし続かなかったりもする」
俺は前世でのVtuber時代を思い出していた。
同接数やチャンネル登録数が増えずに焦り、迷走していた日々。
誰もが人の真似をしてみたり、突飛なことをしてみたり、試行錯誤を繰り返していた。
勿論、その過程だって、楽しめるなら大歓迎だ。
だけど、苦痛になったり、それが原因で止めていってしまうライバーも多かった。
そして最後、本当の切り札となるのは、大抵――、
「エンタメ配信、解禁するぜ!!」
自分のやりたいことを真の楽しむとき、その熱量だ!
Fever Gage ★★★★★★☆☆☆☆




