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おまけ

 レリレアン国の東に位置するキャスト王国の端に、最近オシャレなカフェが出来たと貴族たちは遥々郊外まで足を延ばしている。


 カフェではハーブを使った食事やスイーツ、お茶を楽しむことが出来る以外に、オーナーの女性が作った各種化粧品を購入することが出来ると幅広い年齢層の女性が店の商品のファンになっている。


 今では他の国の貴族からも化粧品を買いたいとう手紙が毎日十数通届くような人気ぶりだ。


 お店の名前は“メレル”。遠い国の言葉で“はちみつ”という意味。



 ・・・はい、お嬢様のお店ですね。お嬢様はご自身の美しいはちみつ色の髪からお店の名前を付けられました。名付けのセンスも愛らしい。さすがです。


「レナト、ハーブ畑に行きましょう」

「はい、お嬢様」

「・・・」


 お嬢様がぷくっと頬を!膨らませて!ああなんて可愛いのでしょうか!こんな可愛い表情を毎日、私に見せてくれるだなんて・・・ここは天国でしょうか・・・いえ、まだ死ねません。お嬢様を置いてはいけません。


「レナト、私もうお嬢様ではないのよ?ちゃんと呼んでくれなきゃ嫌だわ」


 ぷいっとそっぽを向かれたお嬢様。ああ・・・いえ、恥ずかしいからと言って以前のように呼ぶのがいけないことはわかっているのです。ですが私にとってお嬢様はお嬢様。たとえ・・・結婚したとしても、です。


「すみません・・・ではなくて、ごめんね、フロラ」


 お嬢様・・・いいえ、そろそろ頭の中でも俺だけに許された愛称で呼びましょう。慣れないといけませんから。

 フローリシュお嬢様あらため妻のフロラは名前を呼ぶととっても嬉しそうに微笑みました。


 日焼け防止のつばの大きな帽子をかぶって俺の手を引いて「いくわよ」と楽し気に歩いて行かれます。

 繋いだ手の柔らかさ、弾けるような笑顔。ここに来てから俺の心臓は過労気味です。可愛さが毎日増していくお嬢様・・・じゃなくフロラとの生活は幸せそのものです。




 フロラのお店メレルの裏は、一面ハーブ畑です。温室もあり、季節外や土地の気候に合わないハーブも育てていらっしゃいます。俺はお店で料理担当、フロラは化粧品や新商品づくりを担当しています。フロラはずっとこういうことがしたかったのだと言っていました。もちろん俺はフロラを支えるのが生きがいです。お店作りを一から手伝わせていただけました。夫として・・・自分で考えるだけで喜びで震えます。俺が、フロラの夫だなんて。


 脱線いたししましたが、フロラのお店メレルはお昼だけカフェとしてオープンし、夕方までは化粧品を扱うお店としても開いています。お昼の忙しい時間はペルリタリア一族の奥様方が手伝いに来てくださっています。そういう短い時間だけ雇うのを“パート”というらしいです。朝夕は忙しい女性たちが時間のある昼間にお金を稼げるとあって、雇われたい人が沢山集まり、こちらの都合に合わせ厳選して選べました。人選はフロラ任せですが、指導は俺が担当しています。

 フロラはペルリタリア本家の娘ですから、人を選び使うことはうまくても教えるのは苦手としています。最初のうちは指導もしたがったのですが、だいぶ苦戦しておられました。落ち込むフロラの可愛らしさに俺は気絶するかと思いました。今思い出しても顔が緩みますね。毎日緩んでるのですが、仕方ありません。フロラが俺の奥さんになったのですから。






 二年前、まだお嬢様とお呼びすることしか出来なかった頃。夢を叶えられたお嬢さまの私室に夜に来るように言われた時は、こんな夢のような日々が訪れるとは思っていませんでした。


 フロラから、好きよ、愛してるわ、と言われたあの瞬間、死にそうになりましたが必死に耐えました。俺はお嬢様に出会った瞬間からお嬢様だけ、フロラただ一人を愛していましたが、フロラからも思っていただけるとは考えもしていませんでした。


 それを言うとフロラは「どう好きなのかしら?その愛は敬愛?わたくしはそれじゃ嫌なの!」と抱きつかれて・・・柔らかさとほのかな甘い香りに理性を破壊されそうになりました。



 いえ、破壊されました。仕方ありません、あのフロラに上目づかいで、好き、抱いて、と言われて冷静でいられるはずがありません。それでも何度も意思を確認し同意を頂いてから触れた自分を褒め称えたいと思います。翌日当主様に冷たい目で見られましたが、不実なことはしておりません。同意の上でございます。しかし半年ほど当主様からは敬遠されました。いまだにちょっと睨まれます。仕方ありませんので甘んじて受けさせていただいております。



 話を戻しますが、その夜のフロラは俺が十年仕えてきた中で見たことも聞いたこともない初めて見るフロラでした。絶対に誰にも見せません。俺だけのフロラです。


 あまりにもフロラが可愛いので、言葉にはできませんが、あの夜のことは今でも奇跡が起こった夜として俺の中に深く刻まれています。



 愛おしい、と思うことも、口にすることも許されたのだと分かった日から、俺はフロラをとにかく愛しました。全身全霊をかけ、すべてにおいて。

 重たいかもしれませんが、フロラがそれを望んでくれたから・・・俺はそれが嬉しかった。



 小さな頃に捨てられ、貧民街で泥水を啜っていました。ネズミを食って腹を下す、なんてこともしょっちゅうでよく死ななかったなと思います。

 ですがたまたまフロラに出会い、救われ屋敷で働かせてもらい、今があります。それを思えばあの国にペルリタリアが縛り付られていなかったら出会うこともありませんでしたから、ちょっとミスってしまったというその時の当主様には感謝してもしきれません。


 俺の人生の全ては、フロラによって作ることができました。だから俺の全てをフロラへと注ぐことが出来る今は、本当に幸せです。





「まあ、見てレナト」


 ある日の夜、フロラが一通の手紙を見せてくれました。


「・・・レリレアン王太子の結婚式の招待状、ですね」

「よく送ってきたと思わない?」


 俺は大きく頷いてから、フロラの肩を抱いて引き寄せました。嫌な気分になったのではと心配です。追放したくせに(させたんですが)国に来て祝えなどと言われたら、不快になるのは当然ですから。


「うふふ、レナト。私は大丈夫よ。レナトがいるもの」


 ぎゅっと抱きしめ返してくれるフロラから柔らかなハーブの香りがふわりと漂ってきて、胸がドキドキと鳴ります。いつも通りですね。フロラに触れるといつも胸が高鳴ります。


「まだ慣れないかしら?」


 押し黙ってしまったのでフロラに心配そうに覗き込まれました。上目づかいはダメです。反則的可愛らしさでクラクラします。ああ、我慢が出来ません・・・いえ、我慢しなくてもいい立場にいるのです。思わず執事の時の気持ちに戻っていましたが、違いましたね。




 フロラの顎を少しだけ持ち上げて、柔らかな唇を啄むように軽いキスをするとほんの少しだけフロラの頰が染まりました。これ以上可愛くなられるとは・・・もう今日は仕事終了としましょう。



 フロラを抱えて夫婦の寝室に向かおうとするとフロラが嬉しそうに笑いました。喜んでくれているようです・・・フロラ、明日お店休みにしませんか?聞かずに魔法で店の前の看板を臨時休業に変えました。いいですよね、最近ほんの少し忙しくて、フロラを独占出来ませんでしたから。


「レナトと結婚できて幸せよ。夢が叶ってよかったわ」

「夢・・・お嬢様さまの夢は一家で追放では?」

「あらやだ、私言わなかったかしら?“わたくし我儘だもの、一つも諦めたくないわ”って。レナトも私の欲しいもの、夢だったのよ?」



 そうだったんですね。思わず目頭が熱くなります。


 フロラは知らないでしょうが、俺の夢もあの日叶ったんですよ。絶対に叶わないと思ってた夢が。

 俺はお嬢様を死ぬまで側で支えたいと思っていましたから。でもそれは男の従者には難しいことも分かっていました。いつかは遠くから見守らなくてはいけないと必死に、血を吐く思いで諦めていたのに。



 叶えたからには、側にいてもらいますよ?



「愛してます、フロラ。俺だけのフロラ」

「嬉しいわ。ずっと私の側にいてね?離れたら嫌よ」


 そんな事、絶対ありませんから。死ぬまでずっと安心して愛されててくださいね。







 ハーブカフェの店メレルは、不定休です。時々急にオーナー夫妻と連絡が取れなくなるとパートの方々がぼやくときがありますし、遠方からきたお客様たちががっかりする日もありますが、これは仕方ないのです。


 明日も急なお休みによりきっと店の前はざわつくでしょうが、フロラの安眠を阻害されないように防音魔法はきっちりかけておきましょう。可愛い声が漏れたりしても困りますしね。





最後までお読みいただきありがとうございました。

今後の作品にも”ペルリタリア”という名前は出てくる予定ですがこの話との繋がりは直接ありません。でも何となくつながっているお話ってわくわくしませんか?⸜( •⌄• )⸝

また読みに来てくださいね。


ブックマーク、評価、お待ちしています!

ありがとうございました♪

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