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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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第27話 竜帝陛下に忠誠を

 頷くテユ様の整った顔を見上げながら、腰を撫で回す手をきゅっと抓ります。撫ですぎですわ。他の貴族に見える場所にいますのよ。唇を尖らせた抗議に、「すまなかった」と謝っておられますが、腰の手は離さないのですか。


 撫で回さないなら、婚約者が腰に手を回すくらいの動きは許しましょう。淑女の武器である扇がなくなってしまったため、伯母様のハンカチで口元を隠しました。


 ローズ系の良い香りがしますわ、よく見たら刺繍は薔薇じゃありませんこと? さすがは伯母様、素晴らしい組み合わせは見習わせていただきます。


「耳を塞いでおれ」


 両手で耳を塞ぐ仕草をされ、慌てて自分の手で耳を塞ぎます。手の離れた腰が、どこか涼しく感じられました。ずっと温かな手が触れていたせいね。


 フランカも、伯母も同様に手で耳を隠します。父や元王女様方も同じ仕草をするに至り、慌てて貴族も倣いました。


 キィイ!!


 耳を塞いでも聞こえる甲高い音が響いて、空を舞う竜が次々とテラスへ向かってきます。呼び寄せたのでしょうか、慌てました。


 こんなにたくさんの竜が降りられる場所はありませんのよ。それに、重さも耐えられなくて、建物が崩れますわ。ここは人間用に作られていて、竜が立つには小さすぎます。


 訴えようと手を外した私の前に、それはまるで魔法にかけられたような光景が広がりました。くるくると旋回する竜達が一列になり、順番に地上へ下降を始めます。まるで舞いのようでした。


 とても美しい光景です。


 甲高い音の合図を受けた竜が1匹ずつ降りて、影が小さくなったと思えば、庭に人が立っているのです。同じように数回繰り返され、ようやく竜が人に変化していることを理解しました。


 瞬く間に次々と麗しい人影が増えていきます。


 鱗の色をそのまま髪や瞳の色に宿した人々は、一様に整った外見をしていました。高貴な人々という表現がとても似合います。伝説にも竜は美しいと描かれていました。


「凄いですわね」


 感嘆の声を上げると、耳を塞いでいた手を優しく掴んで外されました。そのまま指を絡めて握られてしまいます。人前なのにと恥ずかしく思うより、竜に興奮してはしゃいでいました。


 婚約者なのだから節度を持って触れないと……そう思う反面、いいじゃないのと囁く声がします。心の中に私が2人いるみたい。


 子供みたいに喜んで笑う私と、マナー講師みたいに眦を釣り上げて理論を振りかざす私。今は子供の私が強いみたい。


 頬が紅潮した私の手をしっかり握り、テユ様は柔らかく微笑みました。オレンジに近い蜂蜜色の瞳が細められ、優しく指先に唇を押し当てられます。


「人はこのようなことに感動するのか」


 竜にとって当たり前でも、初めて見る光景に人は見入るもの。テラスに身を乗り出す貴族や、庭先に立つ侍女たちも驚いて固まっていました。これが答えですわ。


 竜の存在は伝えられていますが、複数いるとは知りませんでした。他の貴族が伝えた話も、民がもつ絵本も、竜は単体で描かれていました。しかし敵を退け、大地を豊かにし、天候を操る能力が、1匹の竜によってすべて齎される説より現実味がありました。


 きっと多くの竜が集まって、この国を守ってくださったのでしょう。


 風を操る竜が穏やかな天候を保ち、水を操る竜が豊富な水資源を作り、炎を操る竜は敵を吹き飛ばした。そうやって重ねられた厚意の上に、私たちの幸せな暮らしはあったのですね。そう実感できます。


「これは魔法ですか?」


「我々がもつ能力のひとつだ。人と同じ形を取らねば、日常が不便で仕方ない」


 確かに竜の大きさでは小さな仕事は出来ませんし、生活に必要な物や場所の確保も大変です。竜の住処が明かされない理由が不明でしたが、人型で暮らして来られたなら残っていないのも納得しました。彼らは人に紛れて生活し、人として姿を消したのでしょう。


「ステファニー、こちらへ」


 テユ様の声が少し遠いです。赤い竜が舞い降りて、真っ赤な髪の青年になりました。水色の竜が同色のドレスを纏った女性に変わる。様々な色を持つ竜が舞い降り、小さな黄色い竜が少年姿を取ったところで一段落したようです。


 私の手を引いたテユ様が、テラスの縁に手を置いて身を乗り出しました。12名の老若男女に、彼は声を張り上げます。


「皆、ご苦労であった」


「「「我らが竜帝陛下に忠誠を」」」


 ざっと足を引いて膝をつき、貴族の挨拶に似た優雅な仕草で返答がありました。どちらかというと騎士の敬礼に近いかしら。


 顔をあげた彼らは、じっと私に視線を集めます。


 どうしましょう、もしかして竜帝陛下の隣に人間如きが立つなんて! と不快に思われたのではありませんか?


 困惑して顔を向けた先で、テユ様が耳元に唇を寄せました。小声で囁かれたのは……。息がかかって擽ったいので、首を竦めながら聞きました。


「そなたの挨拶を待っておるのだ。何か声をかけてくれ」


「え、あ、その……竜の皆様、ようこそお越しくださいました」


「「「竜妃様にご多幸を」」」


「あ、ありがとうございます?」


 揃ってのご挨拶に、どうしたらいいのか。お礼が疑問形になるくらい混乱しました。竜の皆様は庭に膝をついておいでですけど、これは拙いと思いますの。


 国を守護してくださった方を中に招くのは当然ですわよね?

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