神の使いとやら
気付いた時には、この馬鹿げた世界にいた。俺を保護した奴は、この馬鹿げた世界の一国の王だと言った。そして俺を神の使いだと言って、物凄く、気味が悪い程に、猫可愛がりする。
この世界の名前はフォーシズ、そしてこの国の名前はスペルリングと言うらしい。日本ではない、所謂異世界に来てしまったらしいが、それだけで馬鹿げた世界と言ったのには理由がある。女が極端に少ない上に、卑しい存在として扱われ、王宮に居る女は全て、子供を生むためだけに存在するからだ。そしてそれを補う様に、見事に男だらけで、妃や側室のポジションに居るのも男だった。つまり、性の対象が男なのだ。別に、他人の趣味嗜好にとやかく言う事はしないが、俺は男に性的な感情は一切抱かない。だからこの状況は正直かなり苦痛だ。
そんなある日、この国の王たる男が、俺を抱こうとした。ふざけるなと、王だということも忘れ、思い切り突き飛ばしてやった。自分の対象は女であり、女を抱く事はあっても、男を抱く趣味も抱かれる趣味も無い。今後それを強いるのであれば、俺が女を嫌がる様な理由を示してみせろ。そう言い放ってやれば、そいつはこの国の歴史を話してきた。流行病によって女が少なくなった事、それは女が元々卑しい存在だからだ、と。聞いていて、心底呆れた。理由がチープだ、チープ過ぎる。日本でも女性を軽んじる事もあるが、いつの時代も、場所も、理由は下らない。此処も例外じゃなかった。だから言ってやった。
「残念だが、そんな理由では俺は納得しない。俺が居た世界では、そんな考え方をする奴が軽蔑される。それは俺も例外じゃない。納得どころか更に心象を悪くしたな」
神の使いと言うのなら、恐らく貴重な存在なのだろう。だったら、俺の機嫌を損ねる真似はするな。そう、含めて言ってやった。これで自分のケツの心配は、当分しなくて済むだろう。精々悩んで、この気味の悪い現状を変えてくれ。俺は取り敢えず、あの場にいた、目を覆いたくなる様な状態の女性達を解放してやりたいと思う。それと同時に、俺と一緒に来たはずの父さんの居場所も探さなければ。
〇
おかしい。おかしいんだ。何なんだこの状況は。俺は母さんと一緒に居たはずなんだ。なのに、母さんは牢屋に閉じ込められ、そのせいで俺は言う事を聞かされそうになった。
此処が日本じゃないと気付くのは早かった。気付いた時にはお城の前に居たから。突然現れた俺と母さんに、門番らしき人が直ぐに飛んできて俺と母さんを離し、別々の場所に連れて行った。俺は王様の前、母さんは牢屋だ。そして王様は言った。母親を助けたければ言う事を聞け、と。お前は神の使いだ、言う通りにすれば母親の命は助けてやる。そんな事を言われて、直ぐに分かりました何ていうのは愚かだ。状況もわかず判断を下すのは愚か者のする事。母さんを助け、自分も助からなければ意味がない。そもそも、神の使いとかよく分からない存在なんて知らない。だから、状況の説明を求めた。そうしたら、この世界の事と、国の事を教えてくれた。フォーシズという世界のウィンファルターという軍事国家である事。そして自分がその国の王であり、俺が神の使いと言われる貴重な存在なのだという事。最後に、昔流行病によって女性が少なくなり、卑しい存在であると、されている事を。
だから母は、牢屋に連れていかれたということか。冗談じゃない。
「俺は女性を卑しい存在なんて思わないし、そう思う奴等の言うことなんて絶対に聞かない。母さんを人質にして言う事を聞かせようとする奴らなら余計にな。俺が貴重な存在で、おまけに何かさせたいなら、対等な立場にならない限り有り得ない」
そう言った俺を面白いと、王様は笑った。当面の間の、俺と母の身の安全を保障してくれたけど、母を牢屋から出すことは出来ないと言われた。その代わり、城の中を俺は自由に動いて良いと言われたが、そのお陰で嫌なものを見た。女性が、沢山牢屋閉じ込められていたのだ。そして、妊娠している人も居た。母は牢屋の中で、そんな人達を介抱していた。一日も早く、こんな状況を変えたいと誓うには、十分だった。
他にも、軍事国家というだけあり、軍服を着た人達が多い様だ。小姓のような存在の男も居る。俺は女性が対象だから、そんな事があっても俺を巻き込まないで欲しいと、取り敢えず王様に言っておいた。




