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自分の意思が芽生え始めた頃、何とか両親や兄弟に取り入ろうと、気を引こうと、当時思い付く様々な事をやった。駄々をこねたり、逆に良い子にしてみたり、年齢を重ねて小学校で良い点数を取ってみたり。でも、全部は無駄な事だった。
縁切りの時に知った事だけど、生まれて父に養子縁組をしてもらってからは、朝から夕方、夕方から朝と保育園と託児所を行ったり来たりだったようで、家に居ることが少なかったらしい。小学校に上がって感じた違和感は、兄弟達が同じ小学校に居なかった事。兄弟達は有名な私立の小学校に行っていたようで、毎日送り迎えを両親がしていた。先ずそこで、私がこの家の出来損ないと、近所が気付き始めた。仕事で日中家に居ない両親と、部活や習い事で忙しい兄弟。休みの日は一家で外出する事もある、誰もが羨む仲良し一家の落ちこぼれ娘。
家が、近所が、そして学校が、私を無いモノとして扱う様になって、私の居場所は自分に充てがわれた部屋か、隣町にある橋の下の河川敷になった。3日に一回、千円がテーブルの上に置かれ、それが自分の生活費と気付いたのは、一年生の六月も終わりかけた頃だったか。一応給食費は両親のどちらかが毎月払ってくれていたから、学校から親に何か連絡が来る事も無かったし、家庭訪問も両親が多忙でと言えば、先生も私の為にわざわざ来る事も無かった。三者面談みたいな事も、多忙で、で終わる。遠足も体調不良と言えば行かなくて済むし、修学旅行だって同じだ。運動会や発表会も、体調不良で、と言って休んだけど、誰も何も言わなかった。因みに、入学式や卒業式も欠席している。中学もそれで乗り切った。進路も就職が決まっていたし、成績を気にする事も無く、こんなに体調不良が有効利用出来るなんて便利な学生時代だったと、思い返して思う。
途中、イジメもあった。でも、相手にしないを徹底してたら呆気なく終わった。私のような人がいる事で、他の人にイジメが行く事も無かった様で、小学時代も中学時代も、私の周りで大きなイジメを受けた生徒は居なかった筈だ。平和で何よりだ。
因みに、千円の生活費はずっと変わらなかった。お陰で中学校の制服が必要になった時、かなり焦った。小学校の時は、流石に両親が揃えてくれたらしいのだが、中学校はなんて言って良いのか分からなかったのだ。生まれてこの方、会話なんでほぼ無いそんな相手に、中学で必要な物をどうしたら揃えられるのか聞けなかった。だからと言って自分で用意出来るお金も無い。途方に暮れて、河川敷のホームレス仲間のおじさん達に相談したら、お金を掻き集めて私にくれた。返さなくて良いから、と。私は取り敢えずそれを手に、全てを揃えることが出来た。ただずっと、そのお金を返さなければと思っていた。そんなある日、町で見知らぬおじさんに声を掛けられた。三万でどうだ、と。この時、シメたと思った。そうだこの手があった、と。普通に稼ぐにしても、この年齢ならどこも無理だろう。だったらこの手しかない、そう思った。だから私はそのおじさんに言った、初めてだから倍だったら良いよ、と。その日、私は純潔を捨てた。何となく、誰に対してでもなく、ザマアミロと思った。
それからホームレス仲間のおじさん達にはバレない様に、少しずつお金を返していった。凄く心配されたし、逆に返されそうにもなったけど、何とか全額返し終えた。手元には未だ、中学生にしては多い額が残ったけど、いつまた必要になるか分からない。お金はあるに越したことはない。それから月に何度か援助交際は続けつつ、私は中学時代を乗り切った。
授業が全て終わった日、教科書や資料は全て捨てた。卒業証書が職員室で担任から筒に入った状態で手渡された日、それを途中のコンビニのゴミ箱に破って捨てた。家に帰って制服を脱ぎ、私服に着替え、忘れ物がないか確認して、家を出た。制服は、援助交際繋がりで知り合った制服マニアの人に売り渡した。イジメにあった時破られ、それを直した跡があるけど良いのかと聞いたら、それはそれで価値があるからと言われた。よく分からないけど、欲しいならとそのまま売った。他の体操服や靴も同じような人に其々売り払った。綺麗さっぱりになって、私は住み込みで雇ってくれた工場の社長さんの家に急いだ。私を含めた三人が集まるからと、歓迎会をしてくれる予定になっていたからだ。遅れるわけにはいかない。これから、私は社会人になる。決意を新たにした瞬間だった。
〇
「…つまり、貴女はご家族と全く合わないまま、今に至るの?」
私自身の過去を、何とかこの世界の人達が分かるようにと考えながら説明し終えると、ティナからそう問われた。
生まれた時から施設に預けられた為殆ど家におらず、義務教育なるものがあってどうしても学校という強制的に勉学を受ける施設に通うようになったらお金が必要になり、親は頼れず、頼らず、自分で身体を売って工面して、それが何とか終わってからは住み込みで働いて、成人してからは家族と縁を切り、充実した毎日を送っていた。この骨に肉を付けて話した。
「全くではないよ。たまに見かけはした、と思う。お互いに。会話はもう10年以上無いけどね」
「アンタも中々の人生だな」
「私が居た国はこの世界みたいに奴隷なんて制度は認められてないし、ティナの話は普通に犯罪になる。私の状況は育児放棄っていう状態になるから、ティナより随分マシだと思うよ」
「周りに味方が居たのが救いね、そのホームレスとか言うおじさま達」
「そうだね、本当に感謝してる」
もしもう一度会えるなら、大好きだったビールとおつまみを差し入れしに行きたい。その為にも、帰らねば。借りてる部屋も気になるし。
「…ねえ、イナ。もし良かったら、貴女此処で働かない?」
「え?」
話が急に変わった。
「貴女は元の世界に帰る方法が分かっているの?」
「それは…」
「残念だけど、私も分からない。アークは?」
「全く」
「なら、身分を保証された私の元に居るのは、決して損はない筈だわ。嘘も通しやすくなる」
「だな。此処は宿屋だし、俺みたいな旅をする連中が泊まるって事は、それだけ情報も入りやすいって事だしな。ティナが保証された身分である以上、此処で何か起きたとしても、女の立場が弱い、と言うこの世界の常識は軽くなる。それだけこの世界で身分と言うのはデカいんだ。アンタに損は無いだろうな」
「そんな特殊な場所なんだ…」
「そうよ、だから他なんかより良いと思うの。衣食住付きで、貴女は情報も入りやすい。私は働き手と友人を得られる。素晴らしいと思わない?」
「一番の要素は友達だろ、お前。まぁ、俺も当分居る予定だし、何かあったら俺も事情を知ってる手前助けになるよ」
…何というお得物件だこの人達。しかも、初めて私を友人にと言われた。どうしよう、本気で嬉しい。断る?そんな事微塵も考えてなんか居ない!
「…私で良ければ、何でもします。料理、洗濯、掃除、お任せ下さい」
「ふふふ、心強いけど勝手が違うと慣れるまで大変よ。それに、私の友人も忘れないで頂戴ね?」
「望むところだよ!」
気掛かりはある。借りている部屋と、会社への無断欠勤でクビになる事だ。でも、私が居なくては困る人があっちには居ない。だったらもうこの際、この世界で生きて行くことにしたらどうだろう?そうだ…情報を集めようとしてくれる二人には悪いけど、私はこの宿屋の働き手として、街の人としての人生を歩む事にする!決めた!




