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兄弟様は主人公らしい  作者: トミネ
序章 主人公は私じゃない
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 それから、私が仕事から帰って部屋で寝ていただけであったこと、名前は伊藤いな、という事などを簡単に説明して、二人の事、そして、この世界の事を教えてもらった。

 結論から言うと、此処は異世界の様だ。フォーシズ、と言う大きな島が有り、其処に四つの国が存在する。スペルリング、サーマルク、オルスタム、ウィンファルター。其々が王を置く王国であり、今私達が居るのは、オルスタムの端の街、更にその外れに建つ宿屋なのだそうだ。其処の女主人であるのが、銀髪の美人、ティアナさん。その客で赤い髪の人がアークエストさんで、二人が昨晩、光が灯った森の中で私を見つけて保護してくれた、と言うのだ。

 そもそも何故、夜中に野次馬根性を発揮したのか、と言うと、今四つある国の中の二つに、神の使いとして話題になっている人が居て、その二人がどうやら突然現れたらしく、森に光が灯った、もしかして!と思ったから、なのだそうだ。残念ながら私はそんな神の使いと呼べるような大層な器量も力量も全く、一切、微塵も無いので、即座に否定はしたけど、違う世界から来た事は間違いないと思う事は伝えておいた。知らない国だらけだし、ナチュラルな赤髪や銀髪なんて私の世界には存在しないし、剣なんて日本じゃ銃刀法違反だし。

 色々私の事を伝えた後に、二人は私が異世界の人だと信じてくれて、その事を黙っておく方がいいと結論付けた。私は記憶喪失で、自分の名前も知らない人になった。だから、この世界の事を知らなくても当たり前、の設定を作ってくれたのだ。有難い。でも、二人の話を聞きながら、聞き流せない事もある。


「…男尊女卑が酷い?」

「そう。昔この世界で流行病があって、女性が、しかも成人した女性が醜くなって死んで行くっていう病だったんだけど、治せる薬も無くてね、どんどん女性の数が減っていったの。それを見た男どもが、女が弱いから病に掛かるんだ、元々卑しい存在だから醜く死ぬんだ、なんて馬鹿な事を言って、権力者どももそんな戯言を支持して、女性の立場が弱くなったの」


 憤りと呆れで、ティアナさんはうんざりしていた。性差別は経験した事は無いけれど、私の経験と重なる。あれも一種の差別なのかもしれないと思ったからだ。もう関係ないけれども。


「このオルスタムはその中でも一番被害がマシだった国なんだけれど、逆に差別は酷いものよ。周りの国から卑しい女が多い国だと卑下される事を恐れて、自国で取り締まり出したの」

「農業と商業の国、オルスタム。四国の中で唯一、女が商材として、奴隷として売買できる国なんだ」

「腐ってるわよね、本当に。因みに奴隷は身体の一部に印を施される。私も昔奴隷にされそうになった事があったけど、処女じゃなかった事を理由に逃げ切れた事があるの。貴女、その辺は大丈夫?」

「処女だと奴隷になりやすいの?処女じゃないけど」

「価値が上がって、値段が倍になる。元貴族は特にな。ティナは元貴族だから、おそらく処女だったら100万は下らなかったな」

「ふん、100万如きで私を買えると思うなよ、って言うのよ。少なくともその10倍から考えるわ」

「どれだけ高い奴隷だよ」


 奴隷、なんて縁遠い存在だと思ってたけど、まさかもっと遠い筈の異世界トリップなんてものを経験したから、奴隷が近い存在になったのかな。嫌だなぁ、これでもっとエゲツないモノが現実味を帯びたら。奴隷もかなり嫌な部類なんだけどさ。

 オルスタムはフォーシズで一番広大な土地を持つ国家で、国土の三分の二が田畑や森、その残りが商業施設と王都、で形成しているのだそうで。人口も多いが、半分以上は農業民であり、農家は人を必要とする。女の奴隷は人手そのものとしても、産む意味でもかなり重宝される。女という生き物を必要とする国だからこそ、その商売が成り立つのだろう。厄介だ。


「まぁ私の場合、奴隷になりそうだったから処女じゃ無いって言ったし、相手がそれに怯んだ隙に持っていたお金を叩きつけて回避して、()()()()()此処まで来たのだけれど、こんな女そうそう居ないと思うわ」


 得意気だが、彼女だって相当恐ろしかったに違いない。貴族のご令嬢が何故奴隷に、とその経緯もきになるけど、半分以上この世界のせいなんだろうし。そしてそんな世界に来てしまった私も、本当に他人事ではないと痛感していく。


「…ティアナさんはどうしてこの宿屋をする事になったんですか?」


 ふと、女性の立場が弱い世界で女性経営者はかなり珍しいのでは、と思った。さっきもこんな女そうそう居ないって言っていたし。


「ティナで良いわ、敬語も要らない。私も貴女のことをイナって呼ぶから。あ、因みに彼もアークで良いから」


 彼女はそう言って微笑んだ。アークエストさんも軽く頷く。私も了承した。


「…私はね、一応王家に次ぐ地位を持つ家の人間だったの。落とし子だったのだけれど」

「落とし子?」

「簡単に言うと、母親がオイタして別の男との間に子どもを儲けた、その子どもの事よ」

「ん?つまり、父親とは血の繋がりが無いって事?」

「そう。もっと言うと、兄が居るけど、その兄とも血の繋がりは無いわ。兄は父と本妻の子で、私は側室であった母と、父の執事の子。因みに、その執事に処女は奪われてるわ」

「………」


 …どうしよう、私も中々の波乱万丈人生だと思ってたけど、此処にも居た。でもこの世界、女性の立場が弱いって事は、珍しい事ではないのでは?本妻とか、そんな立場だってあやふやな気がする。と言うか、宿屋やってる理由が知りたかったのにちょっと違う方面を知ってしまったわ。


「イナの世界じゃ少ないかもしれないけれど、この世界じゃ私みたいな境遇は珍しくもないわ」

「そ、そう…でも、それなら益々この状況が謎なんだけど…」

「そうよね。散々言っているように、この世界は女性の立場が弱い。でも、一応私のようにある程度身分が有った女性には、お金で何とかなる場合があって、その最たるものがこの状況なのよ」

「…お金で、()()()()()()()()、と言う事?」

「正解!元はね、父に婚約を持ち掛けられてたの、王族にって」

「うん」

「子供を生まされる為だけの人生には絶対になりたくなかったから、私に充てがわれたありとあらゆる物を全部売り飛ばして、お金に変えて準備してから、私は貴女の執事の子なので王族にはなれません!って言ってやったら、案の定その事実を知らなかったみたいで奴隷商を呼ばれたの。来たっ!って思って、おまけにその執事に処女も奪われてるので、奴隷の価値も下がってます!って言って、手持ちのお金を半分渡して先ず奴隷を回避、その半分を父に渡して、()()()()()()()を、立場ある父から買った、と言うわけよ」


 成る程、彼女の辛いであろう過去を話させてしまった。でも、ティナはとても満足そうだ。武勇伝の様に話す彼女は、当時の辛さも怖さも全て誇りに思っているのかもしれない。だったら良い、話を聞けて。ならば私も話そう、見ず知らずの異世界人を助けてくれた、自分の事を曝け出してくれた、優しい人に。

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