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ストックがある安心感。
中に入っても内装も西洋だ…すごい。
「私と圭佑は先にボスへ報告してくるわ。夕陽、その子を私の隣りにある空き部屋へ」
「分かった」
入ってすぐに大きな階段がありそこから上の階へ行けるみたいだ。2階建てなのだが広すぎる…私が行く部屋もボスと呼ばれる人がいる所と同じ2階らしく階段を登ったところから摩耶たちとは別れた。
「こっちだ」
長い廊下を歩いてと奥の扉をノックし開けた。そこには物語に出てくるようなメイドが3人…メイドなんてこの世に存在していたのか。
「お待ちしておりました夕陽様、そちらのお嬢様が例の方でございますね?」
「あぁ、報告が終わり次第摩耶も来る、それまでによろしく頼む」
夕陽は私をふかふかなソファーに座らせて一人の女の人に話しかけると私を見た。
「陽和は彼女たちに綺麗にしてもらえ、後で摩耶も来る」
夕陽はどうするのだろう。
「俺もボスのところに行って自室で着替えてくる…陽和は髪も切ってもらうといい」
「おまかせください」
ありがとう、と口パクで伝えたら頭を撫でてくれた。夕陽がいなくなると同時に3人のメイドが動き出した。
「さて陽和様、まずは綺麗に洗いましょうね。瑠衣はお洋服を、紗英は髪を切る準備をお願い」
「「はい」」
連れて行かれた場所はお風呂…お風呂に入るのは初めてだ、いつもはシャワーで返り血を流す程度だったからな。そんなことを思っている間に体の隅々まで洗われた、肌を見てみると実験の後がたくさん。仕方ないか、色々やってきたからな…その後、ゆっくりお風呂に使った後は本に出てくるようなかわいいデザインのワンピースを着させられ椅子に座った瞬間首に何かを巻かれ髪を切り始めた。
私の髪は母が数年に一度くらいにか切っていないので大分長くなっていた。数分後、切り終わり鏡を見たら前髪は眉に少し掛かるくらいに、後ろは腰ぐらいまでになっていた。
「とてもお似合いですよ!そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私は明菜、このたび陽和様のお世話をさせていただきます」
「瑠衣です」
「紗英と申します」
「2人は私と違い屋敷の管理が基本ですが、何かあれば2人もご用件を承ります」
私はテーブルに置いてあった紙とペンを手に持った。
”よろしくお願いします”
「「「はい!」」」
その時、ノックが聞こえ摩耶が入ってきた。摩耶は先程とは違う明るめの服を着ているのは夕陽と同じく着替えたからか。
「あら、可愛くなったじゃない」
「整い終わりましたわ、摩耶様」
「ありがとう…さて陽和ちゃん、ボスが貴方を待っているわ」
真新しい靴の感覚に戸惑いながらも摩耶の後ろを着いていく、必死に着いていくけど広すぎて正直迷子になりそうだ。
「着いたわ、ここよ」
ノックをすると低い男の声が聞こえた。扉を開け中に入るとすぐ近くにソファーとテーブル、奥にあるディスクにはボスらしき男の人が座っている…隣に立っている女の人は秘書なのだろうか、部屋の横を見ると夕陽と圭佑さんもいる。
「ようこそ機密組織スネークへ組織員を代表としてボスである私、西原克敏が歓迎しよう。立ってては疲れるだろう、座ってくれ」
ボスの言葉にソファーへ座る、このソファーもフカフカだ。
「私の隣にいるのは妻の都姫だ、秘書を務めている」
「よろしくね」
「そういえば私達もまだ自己紹介してなかったわね、私は西原摩耶」
「俺は安藤圭佑」
「北原夕陽だ」
紙を使うのもアレだから立って深くお辞儀をした。
ところで、機密組織スネークと言ってたか…そういえば実験を終えた時に誰かが言ってたな、機密組織スネーク…能力者が大半を占め能力者の保護や違法能力者の拘束、違法組織の鎮圧とかなんとか。ここがバレたら即死ぬとか言っていたが言葉通りになったみたいだ…ってことは、夕陽達も能力者?
「そうだ」
「…?」
今の私は声が出せないはずだったが。
「君はこれから声を出す練習をしてもらうよ」
ん?
「驚いただろう?私の能力でね、特定した人間の心が読めるんだ」
なるほど、だから私が何を考えているのか分かるということか。
「…理解が早くて驚きだよ、君については資料を全て読ませてもらったよ。今までの実験内容から君の使える能力まで細かく記されている…陽和の要望通り、明日に君の母親と合わせよう。彼女は今地下の牢屋にいるからね」
ありがとうございます。
「君のことについては明日から色々相談させてもらうよ、今日はもう遅いからゆっくり休むと良い」
そういえばもう夜だったな…研究所にいる時は時間など知らなかったが夜は確かに実験が無かった、まあ大量の死体処理が合った時は長いこと寝ていなかったけどそれで疲れていないのは実験の成果なのだろうな。そういえば…前は痛みとか感じていたけどいつから感じなくなってたんだろう、空腹とか疲れとか、まあ彼らにとっては実験の成功例といったところか。
「…君は、随分割り切っているのだね」
そのように育てられ作らされて来たから…私はあの研究所では唯一の完成品、攻撃に特化した物。寧ろ彼らは防御に力を入れてきたけど私に勝てる防御は完成しなかった、毎回私が先に殺すの。
「陽和…君はもう自由だ、もう殺人兵器ではないよ」
いつの間にか目の前にいたボスに抱かれていた。
自由?私は自由なの?
「そうだよ」
もう殺さなくてもいいの?
「さあ、もう寝よう…疲れただろう?」
ボスに抱っこされて部屋を出てから記憶が途切れた。目が覚めたら外が明るくてカーテンの隙間から光が溢れていた…朝なのか。
「おはようございます陽和様、朝食は旦那様方と一緒なので準備が終わり次第案内いたしますね」
温めのお湯で顔を洗って身支度を整え終わると明菜について行く。扉を開けると大きく長いテーブルがあった、そこにはたくさんの料理が乗っている。奥の席にはボスがいて、ボス寄りに都姫さん、その隣が圭佑…テーブルの向かい、ボス寄りが空席、空席、夕陽になっていた。
「陽和は夕陽の隣ね」
私は夕陽の隣に座った。
「おはよう陽和、昨日は夜遅かったがよく寝たかい?」
確かによく寝れた。
「そうか、それはよかった」
「陽和、貴方は向こうでご飯を食べていなかったようだから最初は胃に優しい物を食べて慣れさせましょうね」
都姫さんに言われて目の前に置かれているものを見ると確かに皆のものより液体物だ。
「ゆっくり食べてね」
「それじゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
心の中で初めていただきますと言った。スプーンを持って一口食べる…とてもおいしい、こんなに美味しいものは初めてだ。次々と手が進み完食…ごちそうさまでした。
「全部食べれたようね、少しずつ固形物を増やしていくわね」
都姫さんの言葉に頷く、楽しみだ。
「さて、この後は君の母親に会わせる。彼女たちの処分が決まった、君と会えるのはこれが最初で最後になる」
そこは予想していたのでいい。
「摩耶、夕陽、二人も来てくれ」
「「はい」」
早速移動する、牢屋はここの地下にあり屋敷の奥にある目立たない一室から地下へと行く階段を降りる。見張りの人達も数人いて地下はうす暗かった。
「面会として使っている部屋に彼女はいるよ」
ボスの言葉通り、その部屋に入ると母はいた。母は私を見ると安心したように見えた。
「葉山久子だね?」
「…はい」
私はボスに背中を押され母に近づく、母は怪我も多く少しやつれて見えた。
「…保護されたようね、鍵は開けた?」
頷く
「そう…貴方の名前、夫は実験体には必要ないって言ってたけど私がこっそり付けたの。いくら自分達が科学者で実の子が実験体だとしても、私にとっては実の娘なのよ?名前を付けたっていいじゃない………だから私は貴方に陽和と名付けた。いつか陽を浴びれる日が来るようにと…その願い、叶ったわね…良かったわ」
私の外見は母親に似たらしい、鏡で見た私と母やそっくりだ。
「陽和、貴方はもう狭い部屋の中で血を浴びなくても良い…陽を浴びて…自由になれたのよ……私の愛する子…どうか幸せにね」
母は、私を愛してくれていたのか…ずっと苦しい思いをしていたのか…稀に見た辛そうな表情はこのことだったのか…お母さん…貴方は…。
「時間だ」
お母さんが静かに立ち部屋を出る…待って、お母さん…伝えたいことが…ッ!
「…ッ…お…かあ…さんッ」
「ッ!…陽和ッ?」
喉が痛い、でも伝えなくてはならない。
「あ…りが…とう」
「ひ…より…」
最後に見た母の顔は泣きながら、それでいて幸せそうな笑顔だった。その後、捕まった研究者達は全員自害…母は私の事もあり自害を逃れられたがそれを拒否、一枚の写真を大事そうに抱え自害したそうだ。その写真は父と母、そして私が幸せそうに笑っている写真だったそうだが私は母の遺体と共に焼却を願った。私の書類が入っていた引き出しには私に宛てた手紙とペンダントが見つかり、手紙の内容に少しだけ涙が出たのは気のせいだ。
その翌日から私の声を出す練習が始まった。
「陽和様の場合ただ忘れているだけなので声の出し方を思い出せば後は様々な人とお話になれば大丈夫ですよ。と言っても喉に負担が掛かりますから無理のないように」
先生は明菜、私はその日の午前中は練習をしていた。ちなみに昼食はそれぞれで、夕陽たちは任務が無い間は同じ敷地にある組織の建物で鍛錬や事務処理を行っているそうだ。夕陽、摩耶、圭佑の3人は機密組織スネークの中でも上位トップで私が今いるこの本邸に部屋がある。他の人達はそれぞれ寮があってそこで寝泊まりをしているのだそうだ。
「陽和」
「ゆう、ひ」
「午後からこの屋敷の案内をするが大丈夫か?」
「うん」
まだ上手く声が出ないが何とか出せるようになった。
午後になり夕陽に屋敷を案内してもらっている。
「ここが資料室だ」
資料室と呼ばれる部屋には多くの本棚、天井にまで本棚がある。橋には階段があって上の階にある本も取れるようになっているし椅子と机、ソファーがあるし日の当たりがいい場所にもソファーがあるためとても良さそうだ。
「紙に書けば借りる事もできる。もちろん陽和も出来る」
楽しみだ。次に資料室を出て階段を降りるとすぐ中庭に出れる扉があった。
「ここはこの屋敷自慢の中庭だな、中庭から外の庭にも行くことが出来る。裏庭なんだが東屋があったり噴水があったりとすごいぞ」
「…す、ごい」
「庭師が一人いて彼が全ての庭を管理している」
一人で…それはすごい、中庭だけでもこの広さなのに。
「うらにわ」
「行くか?」
「うん」
私の言葉に夕陽が少し笑って案内してくれた。夕陽は基本無表情だけど少しながら表情が動くのが分かる、私は表情筋が実験で動かないようにさせられたというのが書いてあったので表情が動くのは難しいそうだ。
「ここが裏庭」
裏庭も凄かった、中央には噴水があり離れたところには東屋がある。たくさんの植物があって綺麗。
「暖かくて天気のいい日はあの東屋で本を読むといい」
「うん」
屋敷に戻った時明菜が来た。
「夕陽様、陽和様、旦那様がお呼びです」
「分かった」
ボスからのお呼びとはなんだろう…まあ私の事だろうけど。ここへ来て早2日、これからどうしていいのかまだ決まっていない…私の資料を見てボスが色々決めていることは知っているけど詳しいことはまったく知らないのだ。
「失礼します」
「案内中すまないね、どうだい?この屋敷は」
「ひろい…でも、すてき」
「それは良かった…さて、陽和について大体の整理が着いたよ。陽和、君は影を操る能力者で攻撃力がとても高いのは自分でも分かるね?」
「はい」
その他にも実験で様々な能力を使ったことあるけど、不思議と今は影しか使えない。
「今までの能力は植え付けて実験し、出し切ったら使えなくなったんだろうね。だから今は使えない…実験結果を見るとやはり影の能力のほうが殺傷率が100%」
私が覚えている中で影を使った実験は絶対殺してるからな。
「で、だ…その能力を我が組織で使ってみないかい?」
「…?」
殺すことしか出来ないこの能力を?
「殺すこと以外、できることはあるよ。向こうでは殺すことしか考えられていなかったけどね…君の母親は殺すこと以外にもできそうなことを考えていたみたいだ、ただそれを実験しようにも周りの目があるためできなかった…それが書類に混ざってあった」
ボスから紙を貰い夕陽と2人で読む。確かに攻撃などの事も書かれているけどそれ以外にもたくさんあった…影と同化、影の中に入り他の影から出れる、影の世界…なるほど。
「…色々あるな」
夕陽の言葉に頷く、これが見つかったら母も即刻殺されていただろう。
「この力を検証し、ぜひ組織の戦力になって欲しい」
「…ひと、たくさん、殺してるけど?」
「それは我々も同じだ」
ああ、そうか…彼らもそうだったのか。
「分かった、頑張る」
「ありがとう…夕陽、明日施設の方の案内を頼む。本当は私がやるはずだったんだがな」
「ボスには仕事が溜まっていますので」
「…都姫が運んでくる仕事を処理しないといけなくてな」
「今まで陽和に関する書類の方をやっていて溜まっているのよ」
…申し訳ない。
「ボス、ごめん、なさい」
「陽和は悪くないさ」
「そうよ、この人が悪いんだから。そうそう陽和、今度一緒に買物に行きましょうね」
「…かいもの?」
「今陽和が使っている部屋をこれからも使ってもらうわ、元々客室みたいなものだったけど色々家具がからね」
ベットがあるだけで十分だと思うが…。
「…これから陽和は私達の家族でここが家になるんだ。自分が好きなものを置くといい」
「かぞく」
家族…ここが家…何か不思議に感じだ。
ふと夕陽を見ると夕焼けの光を浴びて昼とは違う雰囲気を出していた。彼は私を見て満遍の笑みを浮かべた……眩しい。
「あの夕陽が笑顔を…」
「陽和が夕陽に懐いているいるし…珍しいこと続きね。これは朝陽達に報告しなきゃ」
「しなくていいです」
にしても笑顔か…表情筋があるはずなのに本当に動かないとは、何とも言えないな。そんな事を考えながらその日は終わった。
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