3
「これもいいんじゃない?」
「母様、これもいいと思うけど」
「陽和様にはこちらもよろしいかと」
上から都姫さん、摩耶、明菜である。ちなみに今は私の部屋に置く家具を見に来ている最中で私達の他に荷物持ちとして夕陽と圭佑がいる。
「陽和よりあの3人が盛り上がってるな」
「いいのか?」
「…家具にこだわりは無い、ベッドと本棚があれば十分」
毎日声を出してお話をしているため普通に話すくらいには出来るようになった…まあ話すのは疲れるからあまり声を出すことはしないけど。
今はスネークが懇意にしている家具屋に来ていて先に言った通り私の部屋に置く家具などを見ているのだが夕陽も圭佑も私もあのテンションには疲れ果てている。
「こだわりが無くともあの会話を終わらせるには陽和が決めたほうがいいぞ?」
「その方がいいと思うが」
2人が言うなら仕方ない、そう思いながら私は3人の元へ行った。
「陽和、こっちの方がいいじゃない?」
「これでしょう!」
「こちらはどうでしょう」
3人が見てるのは机、それぞれ指を指すのは恐らく自分たちの好みだろう。
「…こっち」
面倒くなって来ていた私はその後、3人が選び私がどっちかを決めるという方法を取っていった。小物類も見て回ったが最低限の物はいらないという私の意見を飲んでもらった、夕陽と圭佑も手伝ってもらいなんとか全ての買い物が終わった…と思っていた。
「あら、次はお洋服よ」
「は?」
「見た目は10歳でも16歳でしょう?立派なレディだわ、せっかく美人さんなのだから勿体無いわ」
「陽和の制服も作らないとだからついでにサイズも測りますね」
「夕陽様と圭佑様はどこかで隣接している喫茶店でお待ち下さい」
「終わったら連絡するわ」
逃げようとしたら摩耶にがっしりと手をつながれた。
「さあ行きましょう」
「服なんて、いらない…」
「んじゃ行こうぜ夕陽」
「陽和、頑張ってこい」
ドナドナされサイズを測られ試着室に入れられた。
「実験の後遺症で実年齢とかけ離れているけど時間が経てば実年齢の形に体がなっていくという医務部からの言葉よ。少しずつ成長して行くからサイズも色々変更しないとね」
都姫さんの言葉が最後でいつの間にか私は夕陽と圭佑と合流していた。
「大丈夫…じゃないな」
「目が死んでる」
摩耶と明菜の手には購入した服が入っている袋、3人の顔は満足そうだ…私は疲れ果てた、もう行かなくていいとすら思っている。
「さて、帰りますか!」
行きも帰りも圭佑の運転、30分くらいで屋敷に帰ってきた。購入した家具は明日届くそうで明菜が服だけをクローゼットの中に締まった。時間はお昼の1時…昼食は外で済ませたし今からやることも無い、今日は天気が良いから中庭へ行こうと思い部屋を出た。
この屋敷の中も大体把握したから一人でも自由に移動することが出来る。最初はどうしても迷子になり迷った時は近くの使用人に聞いていった…お陰で使用人の顔は全て覚えた、まあ名前は知らないけど。部屋を出て数分、中庭に着いた。
今は4月下旬で暖かいから東屋ではなく噴水の近くにある腰掛けベンチに座った。目を閉じると風で揺れる草花や鳥たち、開いてる窓から時折人の声が聞こえる…程良い日差しと風は研究室にいたら感じることができないものだ。実験体として一生を終えると思っていたがまさかこんな風になるなんて…驚きだ。
「初めて見る顔だな」
突然聞こえた声に閉じていた目を開けた。
「驚かせてすまない」
ボスと同じ歳に見えるこの男性は誰だろう…気配も感じなかったが作業着を着ているし、何者?
「俺は佐賀明宏。この屋敷で全ての庭を管理している」
「葉山陽和、です」
「ああ、克敏から聞いているよ。そうかそうか、君が陽和か」
…この人、ただの庭師じゃない気がする。
「流石に気付くな、俺はここの庭師だが屋敷の警備も兼ねている」
なるほど、まあ只の警備では無いと思うがそのことは頭の片隅に置いておくとしようか。
「克敏と都姫は昔からの友人でな、君の事も聞いていたんだが…なるほどな、育った環境が環境だったのか元々がこうなのか」
「…明宏さんは、何故庭師を?」
「ん?ああ、俺の能力が植物に関することの情報を操るんだ。だから管理には持って来いなのさ」
そういうことか、植物に関する情報というのは発芽から枯れるまでの全てなのだろう。植物っていう括りなのは樹木なども適用内か。
「陽和は植物が好きか?」
「…存在は知っていましたが、この目で実際に見たのは初めて」
初めて見た植物はすべて水々しく、綺麗に育っていてすごい…それはきっと明宏さんのおかげなのだろうな。
「そうかそうか、夕陽なんざあそこの東屋でよく読書をしているもんだ」
「夕陽から聞きました」
「陽和もぜひ読書に来てくれ、もちろん植物も見てくれな」
「もちろん」
こんな素晴らしい植物たちを見ない事はありません。
「そうだ、陽和はこのあと予定は?」
「…特には」
「んじゃ、花を植えてみるかい?」
今着ている服はしゃがんでも汚れないから大丈夫だとは思うが。
「新しい花を知り合いから貰ってな、これから植えようか思っていたんだが」
「花植えですか」
「おうよ、やってみるか?」
「…やりたいです」
「おう!んじゃ、こっちだ」
明宏さんに付いていき何も埋まっていない花壇の前に立った。
「ここに植える」
「あの、何の花なんですか?」
「貰ったのは4種類だな。アガバンサス、カスミソウ、ゲッカビジン、ツキミソウ」
どの花も綺麗に咲いている。
「ポットに咲いている花をこっちの花壇に植える」
明宏さんに教えて貰いながら花を植えてゆく、土の感触が面白い。
「花にはな、花言葉が存在しているんだ。知ってるか?」
「…知らない」
「いろいろ説はあるがな…どこかの国の人が恋人への贈り物として文字や言葉ではなく、花に思いを託して恋人に贈る風習があったらしい。それが始まりだと言われている」
恋人への贈り物か。
「このアガバンサスの花言葉は『恋の訪れ』。恋人に送るものだろう?」
「恋…?」
「まだ陽和には分からないか…ま、いつか分かることだ。さて!さっさと植えないと夕食の時間になっちまうな」
2人で植えて数分、綺麗に植えることが出来た。
「後半は慣れた手つきで植えれたな」
「うん」
「陽和」
呼ばれて振り向くと夕陽がいた。
「夕食の準備が出来たが…手を洗って着替えたほうがいいな」
言われて服を見ると土が着いていた。
「夕食、遅れちゃう」
「大丈夫さ、皆待ってる」
「…うん」
私の為に夕食を待たせてしまうのは申し訳ない事だ。
「…楽しかったか?」
「うん、楽しかった」
「それは良かった」
夕陽の手が私の頭を撫でる…案外お気に入りだ。
「ほら、急いで行きな」
「明宏さん、ありがとう…また、教えてください」
「おう、いつでも来い」
その場から動いた時…
「ツキミソウだな」
という明宏さんの言葉を聞いたのだがどういうことだろうか…花言葉?今度明宏さんに聞こうか…本で調べるのもあるな。
「陽和、俺は先に行ってるから」
「うん、急ぐね」
夕陽と別れ急いで自室へと戻る。髪は汚れていなかったら服だけを着替える、汚れた服はバスルームのカゴのに入れておけば明菜が回収してくれる…適当にワンピースを着て急いで部屋を出る。いつも食事をする部屋に入るとまだ皆食べていなかった。
「遅れてすいません」
「いや、夕陽に聞いたから事情は分かるよ。明宏と会ったのだろう?」
「はい」
席について夕食を食べる…今日もおいしい。ここに来て最初の頃は固形物が食べれなかったが最近は固形物を食べれるようになってきたが…多く食べれず食事量は皆の半分以下だ。おそらくこれも今の体型が原因だろうと言われてる。
「この屋敷の植物は全て明宏が管理しているからな、前に陽和の事を話したらぜひ会いたいと言っていてな…今日会えたようで良かった」
「陽和はあの場所が好きみたいだからね」
「自慢の庭だから気に入ってくれて嬉しいわ」
ちなみに夕食は最初の頃と同じくボス、都姫さん、摩耶、圭佑、夕陽だ…席も初めて食べたときと同じ。
「陽和、入浴したら寝る前に時間を開けといてくれ。少し話がある」
「ボスの部屋に行けば?」
「私室に来てくれ」
「分かりました」
「場所は分かるかい?」
「ボスと都姫さんの部屋ですよね?大丈夫です」
運動がてらに散策したから大丈夫。にしても話とはなんだろう…摩耶と圭佑、夕陽は呼ばれずに私だけが呼ばれること……思いつかないな。
行けば分かるか、とりあえずお風呂入ろう…そう思いながら部屋に入ると明菜がいた。
「おかえりなさいませ陽和様、お風呂の準備は整っております。その後旦那様と奥様のお部屋とのことで、室内ですが冷えると風邪を引きますからケープを用意いたしますね」
「うん、ありがとう」
バスルームに入って最初に行うのは体を洗うこと、研究室ではたまにしか入ったことが無かったけど毎日入るのは楽しい。ただ鏡を見ると相変わらずの無表情、笑顔を作ろうにも動かないというのが少し気分を暗くする。昨日、摩耶から組織内を案内してもらい各部署に挨拶して回った。皆笑顔で挨拶をしている中申し訳なかったが…これはどうすることも出来ないな。
洗い終わったら湯船に浸かる、程良い温度で温まる…数分浸かったら体を拭いて服を着る、ボスの部屋に行くからいつもとは少し違う服。バスルームを出ると明菜さんが髪を乾かしてくれる、切ったとはいえ腰までの長い髪は小さい私では乾かすのが大変。
「このケープを…はい、身支度が出来ました。お部屋はわかりますか?」
「うん、明菜はもう下がって大丈夫」
「かしこまりました、お気を付けていってらっしゃいませ」
明菜に見送られてボスたちの部屋へと向かった。扉をノックし返事を聞いて扉を開けると既にボス、都姫さんはソファーに座っていた。私も夕陽の隣に座ると使用人からホットミルクが置かれた。
「夜分にすまないな、陽和に話しておくことがあってな…陽和、学校に行ってみないか?」
「…学校?」
「組織が運営している学校があってな、小等部から高等部までのエスカレーター式なんだ。通っている生徒は全員能力者で組織の人はほぼ全員そこの卒業生なんだ」
「突然能力が覚醒して編入してくる子もいるわ」
青葉学園…機密組織スネークが運営している学校で小等部かた高等部までのエスカレーター式の学校。入学の条件はに能力者であるということ。何かしらの能力が無い限り入学、編入することが出来ない…授業内容は一般項と同じ科目の他に能力に関係する授業も行っているらしい。
スネークで働いている人達の多くがこの学校の卒業生でボスが直接スカウトすることもあるようだ。特に高等部の生徒会役員は強い能力を持っている人のみ構成されていて大体の人がスネークに入るだとか。
「ちなみに夕陽は高等部2年で既に戦闘に出てもらっている。摩耶と圭佑もそうだった」
「…何故ですか?」
「3人は生まれた時から強い力の能力者だったんだ、摩耶は私と都姫の娘だし夕陽と圭佑の両親も私の親友でね…彼らもまた強い力を持っている」
3人は幼い頃から訓練を行い、小等部の時には戦えるほどだったそうだが実際に戦闘に行かせたのは彼らが高等部に入ってから。
「3人には学業の傍らこっちでの仕事も兼任してもらっていた。夕陽は今もそうして貰っている…まぁ、夕陽の場合3年で習うところも既に習得しているからテストだけ受けてこっちでの仕事を優先させている。本来なら生徒会の役員になるのだがね、たまに手伝いに行ってもらう程度だ」
戦闘部隊にはいくつかの班に分かれており、1班が1番強いチームになっている。予想通り夕陽、摩耶、圭佑の3人が1班な訳で…普通、能力者には攻撃と防御、どちらかしか出来ないのに対し3人は両方出来る。両方できるのは力の強い証拠…そして1班になると今私が住んでいるこの本館に部屋が与えられる、それは敵が襲撃してきた時にすぐにボスを守れるように。彼らの1番の仕事はボスの警護なのだそうだ。
「陽和の場合も通わなくてもいいんだが、ぜひ見学してきてもらいたくてね」
「見学、ですか」
「明日、午前中は陽和も夕陽たちの練習に参加するだろう?午後は夕陽が学校に行くから一緒に行って、ついでに生徒会も見てくるといいさ」
「…分かりました」
「さて、もう良い時間だな」
「そうね」
話が終わったと同時に眠気が一気に襲ってきた。どうやら中身は16歳でもこの体型に合った作りをしているようだ…とても眠い。
「あらあら、眠そうね」
「だな」
いつの間にか視線が高くなるのと同時に私はボスに抱っこされている事に気付いた。
「摩耶もこれくらいの時は可愛かったんだがなぁ」
「子供の成長は早いものね。陽和、今日は一緒に寝ましょうか」
「…いっしょに?」
「そうだな、摩耶が幼いころはよく一緒に寝ていたが…陽和は初めてだろう?」
「はじめて」
そもそも実の父親に抱っこすらもされたことがない。
「雅也くん、明菜ちゃんに伝えておいてちょうだいね」
「かしこまりました、おやすみなさいませ」
そう言って部屋を出たのは使用人の本田雅也さん、明菜の婚約者なのだとか。
「ケープは寝室に行ってから脱ぎましょうか」
都姫さんが扉を開け、ボスが私をベットに座らせた。慣れた手つきで靴とケープを脱がされ私はベットの真ん中に寝転んだのだが…このベットはキングサイズだな、私が小さいのもあるけど脇に人が寝てもまだ余裕がある。
「こうやって寝るのも久しぶりね」
「摩耶もいつの間にか大きくなってたしな」
右にボス、左に都姫さんが寝転んだ。こうやって寝るのが初めてだからドキドキする…眠いはずなのに眠れない。
「寝付けないみたいだな」
「緊張、する」
「あらあら」
「んじゃあ昔話でもしようか。そうだなー…あれは摩耶が5歳の時だ…」
ボスと都姫さんが摩耶や圭佑、夕陽の幼いころの話をしてくれたが話の途中で瞼を閉じた。
誤字・脱字がありましたらお知らせください。




