B 悪意で満たされた遊戯
ドアを開ける。部室ではユリエとサユリが机でカードゲームをしていた。
「あれ? 結界から出てるのか」
俺はそう言いながら定位置へと座る。ちょうどサユリの目の前で、ユリエは俺とサユリの中間の位置になる。
「放課後は結界が開放されるのはいつものことじゃないですか」
確かに、放課後はいつもなら美樹も部室にくるからこの二人が結界の外に出てるのはいつものことだ。ただ、学校の敷地からは出れないらしいけど。
「…晃仁もやる?」
「いいのか?」
「どうぞ、大勢の方が楽しいと思いますよ」
サユリに促されるように俺は承諾する。それを聞いて机に置かれたカードをサユリがまとめて、切り、再び配る。
「ババ抜きでいいですよね」
「…うん。私から反時計回り」
というわけで、ユリエのを俺が取り、さらに俺のところからサユリが取るという順番になった。
それにしても、俺の手札を見ると、こいつらがなにか仕込んだのではと思うほどばらけている。何せ、最初に配られた十七枚のうち、ペアになって捨てれたのはたったの四枚なのだ。つまり、マークは違うが、ひと組揃っていることになる。
「どうかしました?」
俺が難しい顔をしていたのかもしれない。サユリが小首を傾げて聞いてくる。
「…細工とかしてないよな?」
「してませんよ。フェアなゲームですから」
サユリは真顔で言う。
「…自分の手札が悪いのを人のせいにしてる」
うん。ここが俺にとって四面楚歌であることを忘れていた。
「さ、始めますよ」
そして、サユリのカードをユリエが引きながら、ゲームが開始された。
「そういえば、この部室にトランプなんてあったのか?」
「…暇つぶしに置かれた中にあった」
俺にカードを差し出しながらユリエが言う。
「実際、二人でやってもあまり面白くないんですよね」
「…七並べは止めてもすぐバレる」
だろうな。二人しかいないなら相手が止めているとしか考えられないし。
「二人用のゲーム以外は楽しくないですものね」
「…あそこにあるボードゲームは大抵遊び尽くした」
サユリが辟易とした感じに言う。
「そんなことを言っている間にババは晃仁さんに移ったようですね」
「なぜわかる。というか、言うなよ」
「それは、秘密です」
満面の笑みで言うユリエ。
もしかしたら、ここで気付くべきだったのかもしれない。どう足掻いた所で俺の惨敗は決定事項になっていたことに。
それから何周かしたころ、ババと大量のカードを持ったまま敗北している俺がいたのだった。
「さ、もう一回しましょうか」
「…うん。今度も私から逆時計回り」
俺の意思を無視して、再びババ抜きが始まった。当然今回も、細工を疑いたくなるような手札だったわけだが、先ほどのことから、抗議は無駄に終わると判断し、言うのをやめた。
開始から数ターンほどしたころ。手札も順調に減ったころのこと。
「…ん」
ユリエが俺に自分の手札を差し出してくる。
「あぁ」
俺は何の気なしに、差し出された手札から一枚を引く。それにしても、ユリエは無表情過ぎるだろ。
「ん?」
一枚引いたカードを手札に入れる瞬間、なにか妙な感覚があったような気がした。
「…どうしたの?」
「いや…、なんでもない。たぶん気のせいだ」
俺はそう言い、サユリに手札を差し出す。実際、一瞬何かを感じただけで、その後は特に変わったことはなかったのだ。
さらに時は進み、ババ抜きは俺の惨敗で幕を下ろした。
「……じゃ、そろそろ帰るよ」
時計を見るとだいぶいい時間になっていた。俺は二人にそう告げ部室のドアを開ける。
「バッチリでしたよサユリ」
「…うん。後は待つだけ」




