H ひと時だけ近づいた距離は
ドアを開ける。教室の中には美樹一人しかいない。
「…あれ、晃仁どうしたの?」
ドアの近くにいた俺に気付いて美樹が笑顔を見せる。
「いや…、お前こそ、もう下校時間過ぎてるだろ」
すでに時間は完全下校時間を数分過ぎている。
「ちょっと、今日中にやっておきたいことがあったから。それに、文化祭の準備期間中だから後三十分ぐらいは大目に見てくれるでしょ」
美樹は少し真面目な調子で言う。確かに、まだ生徒は幾人か残っているようだった。
「…そっか。そういえば、こうして話すのも久しぶりだな」
ここ数日は休憩時間中の雑談以外で美樹と話していないのではないか。
「そういえばそうかもね。最近は土日もほとんど会わなかったしね」
「いや、週末ぐらいゆっくり休みたいだろうと思ったし」
それに行ってまで何かしたいわけでもなかった。
「変な気の遣い方しなくていいのに」
美樹は苦笑気味に言う。
「…そういえば、あの邪念コンビはどう? ちゃんと大人しくしてた?」
「俺をイジって遊んでるのを大人しいとするなら大人しいんだろうな」
俺はヤレヤレといった感じに言う。
「ま、晃仁も大変だとは思うけど、頑張って」
「ありがと。そういえば、今日は俺がメイド服を着ればいいとか弄られたな」
「ははは、それ面白いかも」
美樹は思いっきり爆笑した。
「面白くねぇよ」
「…ごめん、ごめん。でも、晃仁が女装とかしたら可愛いかもしれないわよ」
やめてくれ。
「いいじゃない、今流行りの『男の娘』ってやつよ」
そんな流行に乗りたくはない。
「えぇ? でも、赤ちゃんのころにスカート履いてた写真あるじゃない」
美樹はクスクスと笑いながら言う。黒歴史でしかないし、俺の意思ではない。
「あの晃仁、可愛かったわよ」
笑いながら言う言葉にいかほどの力があるものか。
「そうだ、今度おばさんに頼んであの写真貰おうかな」
「勝手にしろ」
俺は少しムスっとして言う。
「もう、そんなむくれないの。…そうだ、ちょっと雑用頼まれて」
美樹は近くに置かれていたゴミ袋を差し出して言う。少なくとも依頼ではなく、強制だと思うのは俺だけか。
「いいでしょ、どうせ暇なんだし」
ゴミ袋を手に押し当てながらニコニコとして言う。
「…ったく、これを捨ててくればいいんだな」
俺は観念してゴミ袋を受け取り、踵を返そうとする。
「待って、これとこれも」
そう言って、美樹は両手に二つずつゴミ袋を持って、差し出してくる。今持ってるのと合わせて五個になる。
「…へいへい」
俺は渋々それを受け取り、両手に二つずつと、それで挟み込むようにして体の前でもう一つ持った。中は紙くずなどでぎゅうぎゅうにされているので、結構重い…。
それから、俺はゴミ袋で塞がった両手でなんとか教室のドアを開けて廊下に出る。




